2015年04月

外食産業を支える“アート”! 「食品サンプル」の奥深き世界

実はここに写っているものは全部「食品サンプル」。近年より本物に近づき、最近では海外からも注目される「食品サンプル」の世界を覗く。

「食品サンプル」トビラ










■工場というよりも“アート空間”
「若いころの夢は漫画家か画家。いや、夢というより、『自分は漫画家になるものなんだ』と、それくらいのことを考えていましたね」
 横浜市にある株式会社岩崎のビーアイファクトリー工場長・寺島貞喜氏は、自分の来歴についてそんな風に語った。岩崎は、レストランの店頭などに置かれる、いわゆる“食品サンプル”を作る会社。主力工場のひとつであるビーアイファクトリーでは、日々本物と見紛うばかりのサンプルが生産されている。
 どの世界でも技術は日進月歩。食品サンプルの世界でも、本物の食べ物の再現度は限りなく向上している。
「特にサンプルの原材料が、ロウからビニールに完全に置き換わってきたことが大きい。熱や衝撃への耐性が強いのはもちろん、表面のデコボコ感などをよりリアルに表現できるようになりました」(寺島氏)
 ただ食品サンプルの製造工程自体は、昔からほぼ変わっていない。本物の食べ物をシリコン(昔は寒天)で型取りし、細部の表現を調整しながら、着色していく。基本的にすべて手作業。
「その意味では、うちは製造業というより、“感覚の世界”で勝負している会社なのかもしれません」(同)
 岩崎が作る食品サンプルは、ほとんどがオーダーメイドの一品物。製造現場では従業員たちが、発注者であるレストランなどから出された要望書をかたわらに、“たった一つの作品”と真剣に向き合っている。確かに“規格品の大量生産”という意味での“製造業”ではなく、岩崎の社内に漂う空気は“アートな空間”のものだ。

■「とことん忠実に再現する」職人の技術と努力が光る
 顧客の要望は、一貫して高いものになり続けている。
「昔は冗談交じりに、『実際に出してる料理よりも美味しそうに作ってよ』『量も大盛りにしておいて』といったお客さんもいたのですが、最近はほぼない。とことん忠実な再現が求められる傾向にあります」(同)
 なかには完成したサンプルを、「これでは私の味が表現されていない」と返品してくる顧客もいるという。
「一口に“美味しそうに作る”と言っても、お客さんによってそのツボは全然違う。簡単ではないですよ。そのためにはやはり、日々こちらの感性を磨いていかないと」(同)
 まさに“アートな世界”そのものに生きる人の言だ。
 岩崎はこの時代においても、生産拠点を海外に移すようなことはしていない。
「郊外に工場を置くでもなく、首都圏で生産を続けているというのは、経営コストの観点から見ればかなり厳しい。しかし私たちはただモノを作ればいいという企業ではない。常にお客さんの声に近いところにいて、その要望を形にし続けるのが仕事です。だから、この街中でもの作りを続けていく使命があるのです」(同)
 日本の外食産業を支えるのは、まさにこうした“アーティスト”たちなのであった。

取材・文/小川寛大  撮影/高木あつ子
(『宝島』2015年5月号より)


「食品サンプル」ピザ
<本物の「ピザ」作りと似たような光景>

【現役医師たちの匿名座談会】「“死ぬ必要のない人”が病院で死んでいる」病院の真実

医療の大命題は「人の命を救うこと」だ。しかし、頻発する医療事故や薬害のように“病院に殺された”とでも言いたくなるような事故が少なくないのも事実。
現役医師たちは、業界内の不祥事をどう見ているのか。院内事情を包み隠さず語ってもらった。

「医師座談会」当たり外れ

<残念ながら、医師の「当たり外れ」は厳然と存在する>



【座談会参加者】
・循環器内科医 A

39歳男性。中規模の市中病院勤務。かつて製薬会社勤務経験あり。
・整形外科医 B
37歳男性。大学病院勤務を経て市中の基幹病院勤務。
・消化器外科医 C
36歳男性。大学病院勤務。

――このところ、大きな医療事故が立て続けに報道されています。
A そもそも人工呼吸中の子どもに対しては禁忌薬とされているプロポフォールを成人用量の2.7倍投与し、2歳男児を死亡させた東京女子医大の事故は単なるミスとは思えず、医者からみても不可解だ。
B 東京女子医大病院は以前も特定機能病院の承認を取り消される重大な事故を起こしているよね。女子医大病院の男性医師は卒業生ではないわけで、いわば多国籍軍。権力闘争が度重なる事故の遠因になっている可能性はある。
C 今回のケースが当てはまるというわけではなく、あくまでも一般論だけど、大学病院は薬の適応拡大を狙った製薬会社からデータを取ってくれと依頼されることがある。病院側には研究費が入るし、学会発表のネタになるというメリットも大きい。論文にするには、ほかでやっていないことをやる必要があるからね。いわば実験をするわけだから当然、失敗もある。
B そうした背景があって事故が起きたら、真相は口が裂けても言えないね。
A 腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で8人が死亡した群馬大の事故は、直接的な原因は医師の技術にあるとしても、組織としての体質の問題が大きいと思う。うちの外科から聞いた話だけど、どうやら術前カンファレンス(科の全員でオペの正当性を検討する症例検討会)をやっていなかったらしい。事故を防ぐフィルターが機能していなかったんだ。

■「下手な医者」はどの病院にもいる
C それに、医療技術の高度化に事故は付きもの。僕が肝臓病になったとして、手術をするなら腹腔鏡は絶対に避けるな。難易度の高い手術だし、カメラに映るところしか見えないわけだから、抜くときに引っかけて血管損傷を起こしたらもうわからない。
A 患者が希望するケースも多いと聞くけど。
C 退院が早い、傷が小さいといったメリットばかりを強調している現在の風潮はどうかと思う。入院期間を短くして医療費を抑えるという国の方針もあるようだけど。自分本位で安易に手術を考える患者が多いのも問題だよ。医療に「安い・早い・上手い」はない。
B 病院という組織がもつ構造的な問題も事故が減らない要因になっている。ある程度の年代になって地位が上がれば、手術が下手な医者だって執刀せざるを得ない。下を教える立場の人間が「自分はできない」とは言えないし、上がとんでもなく下手だとわかっていても、下からの突き上げは許されない世界だから。
A どの病院にも、技術の未熟さが院内に知れ渡っている医者っているよね。
B うちの医長は最悪。椎間板ヘルニアのオペで出血する量は通常50ml未満だけど、その人のオペは500〜600。なおかつ硬膜(脳と脊髄を覆う髄膜の一つ)によく穴を開けるから、大量に髄液が出てきてオペが大変になる。普通はそんなことにならないのに、その人がやると2回に1回はそういう状態。
C 根本的に下手なんだね。
B おまけに、明らかに不注意だから始末に負えない。ずっと雑談していて、手は動いているのに目はよそを向いている。細菌に感染させる率も高い。感染はどんな病院でも1%くらいはあるけれど、その人のオペでは10%くらい。過去に4〜5人は死亡している。本来は死ななくてもいい患者が、病院の都合で死ぬケースは少なくないと思う。
C そういう明らかに下手な医者って、病院関係者はみんな知っているけど、患者の側からはまったくわからないところが怖いよなあ。
A うちの救命センターには、患者が運ばれてくるとどんどん気管切開して、人工呼吸器をつないじゃう医者がいた。人工呼吸器で動かすから生きるけど、何年も回復の見込みがないままの入院患者が増え続ける。病院は利益が出ないし、結局その医者は飛ばされた。
C 治る可能性のない患者の救命は家族の負担にもなるのが現実。医者の職業倫理とはなにかを考えさせられることが日々あるね。
B 医者としての使命感も、患者によって強弱がついたりする。正直、生保(生活保護受給者)にはうんざりさせられることが多いから、オペをしたくない。なにかあるとすぐオペの失敗だと騒ぎ立てるし、明らかに健康体なのに障害認定を取れないかとしつこく言ってくるし……。このあいだは「痛いからトラムセット(鎮痛剤)を何日分くれ」と要求してきた。薬剤名と量まで指定するんだ。どうも、麻薬代わりに飲む人間に売りさばくルートがあるらしい。
A 僕が前にいた病院で、高齢者ばかりの寝たきり病棟には「殺人ナース」と呼ばれている看護師がいた。その人は半年に1回くらい担当患者を死なせてしまうんだけど、死亡時の状況は同じ。心臓の弱い患者に点滴がつながっていると、500ccを5分で一気に落とす。すると心不全が悪化して死に至る。
C それって、わざと?
A 本人は必ず「すみません、ミスをしてしまいました」と謝るけれど、みんな内心は故意だと思っていた。亡くなったのは身寄りのない患者ばかりで、死んでも誰も困らないから問題にならなかったんだ。本人は楽にしてあげているとか、現場の仕事を減らすとかいう意識だったのかもしれない。



取材・構成/永井孝彦
(全文は『宝島』2015年5月号に掲載)

「医師座談会」手術台

<医師個人の能力、医療技術の高度化、病院の体制……医療故事には複雑な背景がある>
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