2015年03月

福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか?〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 後編】〜

最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回!

■小児甲状腺ガン、急性心筋梗塞「汚染17市町村」で同時多発
福島図5 福島第一原発事故発生当時、18歳以下だった福島県民の人口は36万7707人。そのうち、14年12月末時点で甲状腺ガン、またはその疑いがある子どもの合計は117人である。この数字をもとに、福島県全体の小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、10万人当たり31.8人となる。これでも相当な発症率であり、十分「多発」といえる。
 14年度の検査で新たに「甲状腺ガン、またはその疑いがある」と判定されたのは8人だが、そのうちの6人が「汚染17市町村」の子どもたちである。「汚染17市町村」における小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、同33.0人と県平均を上回り、より多発していることがわかった。
「汚染17市町村」では、急性心筋梗塞も多発している。【図5】は、同地域における過去5年間の「急性心筋梗塞」年齢調整死亡率を求めたものだ。
 最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同27.54人)を上回る同29.14人。おまけにこの数値は、12年(同29.97人)から“高止まり”している。つまり「汚染17市町村」が、福島県全体の同死亡率を押し上げていた。
 周産期死亡率、小児甲状腺ガン発症率、さらには急性心筋梗塞年齢調整死亡率のいずれもが、「汚染17市町村」で高くなる──。
 これは、福島第一原発事故による「健康被害」そのものではないのか。それとも、偶然の一致なのか。
 本誌取材班は、東京電力を取材した。同社への質問は、
(1)原発事故発生後の「福島県における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。
(2)原発事故発生後の「汚染17市町村における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。
(3)「汚染17市町村」で周産期死亡率と急性心筋梗塞年齢調整死亡率がともに上昇していることは、この中に、被曝による「健康被害」が内包されている可能性を強く示唆している。これに対する見解をお聞きしたい。
 という3点である。
 取材依頼書を送ったところ、東京電力広報部から電話がかかってきた。
      *
「(記事を)読む方が、心配になったりするような内容ではないんでしょうかね?」
──「心配になる内容」とは?
「質問書をいただいた限りだと、『震災以降、率が上がっている』といったところで、特に不安を煽るような内容になったりするのかなと、個人的に思ったものですから」
──「不安を煽る」とはどういうことでしょうか?質問した内容はすべて、国が公表したデータなど、事実(ファクト)に基づくものです。
「ファクトですか」
──はい。
「国等(とう)にも当社と同様にお聞きになった上で、記事にされるんでしょうかね?」
──はい。そうです。
      *
 その後、同社広報部からファクスで次のような“回答”が送られてきた。
「人口動態統計での各死亡率等についての数値の変化については、さまざまな要因が複合的に関係していると思われ、それら変化と福島原子力事故との関係については、当社として分かりかねます」
 しかし、「分かりかねる」で済む話ではない。
 そもそも、日本国民の「不安を煽る」不始末を仕出かしたのは東京電力なのである。それを棚に上げ、事実を指摘されただけで「不安を煽る」などという感情的かつ非科学的あるいは非論理的な言葉で因縁をつけてくるとは、不見識も甚だしい。
 自分の会社の不始末が「国民の不安を煽っている」という自覚と反省が不十分なようだ。猛省を促したい。
福島東電回答





<東京電力は、原因究明を「県民健康調査」に丸投げした>




■環境省「放射線健康管理」の正体を暴く
 続いて、国民の健康問題を所管する厚生労働省に尋ねた。
      *
「それは、環境省のほうに聞いていただく話かと思います」
──原発事故による住民の健康問題は、環境省に一本化されていると?
「そうですね」
      *
 ご指名に基づき、環境省を取材する。面談での取材は「国会対応のため、担当者の時間が取れない」との理由で頑なに拒まれ、質問への回答は、同省総合環境政策局環境保健部放射線健康管理担当参事官室よりメールで寄せられた。回答は以下のとおり。

「昨年12月22 日に公表された、『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』の中間取りまとめによれば、
●放射線被ばくにより遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されないと判断する。
●さらに、今般の事故による住民の被ばく線量に鑑みると、不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することも予想されない。
 とされています」
 環境省は、たとえ周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率が増加したとしても、それは原発事故の影響ではない──とした。その根拠は「専門家会議の中間取りまとめ」が、原発事故の影響でそうした疾患が増加することを予想していないからなのだという。ちなみに、「専門家会議」を所管しているのは、この回答の発信元である同省の「放射線健康管理担当参事官室」である。
 科学の権威たちが揃って予想だにしないことが起きたのが福島第一原発事故だったはずだが、あくまで「予想」に固執する環境省は同じ轍(てつ)を踏みそうだ。もちろん、科学が重視すべきは「予想」より「現実」である。
 環境省の説が正しいとすれば、原因は別のところにあることになり、それを明らかにするのが科学であり、それは環境省が拠りどころとする「専門家会議」の仕事のはずだ。だが、その原因を特定しないまま、環境省は端から全否定しようとするのである。なぜ、環境省は現実から目を逸らし、真正面から向き合おうとしないのか。
 身も蓋もない言い方だが、環境省が現実に目を向けることができないのは、昨年12月に出したばかりの「中間取りまとめ」を、環境省自身が否定することになりかねないからなのである。つまり、本誌取材班の検証で明らかになった「汚染17市町村」での周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率の増加の事実は、「専門家会議の中間取りまとめ」の「予想」結果を根底から覆しつつ「権威」を失墜させ、その贋物性を白日の下に曝け出してしまうものだった。
「中間取りまとめ」が予想していない疾患の増加はすべて「原発事故の健康被害ではない」として、頭ごなしに否定する環境省の姿勢は、かつて「日本の原発は事故を起こさない」と盛んに喧伝してきた電力御用学者たちの姿を彷彿とさせる。
 12年7月に出された国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の報告書は、
「歴代の規制当局と東電との関係においては、規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電力事業者の『虜』となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」
 としていた。環境省もまた、電気事業者の「虜」となっているようだ。そう言われて悔しければ、「現実に向き合う」ほかに名誉挽回の道はない。

福島パンフ このように不甲斐なく、頼りにならない環境省のおかげで、このままでは「汚染17市町村」での“健康異変”は十把一絡(じっぱひとから)げにされ、かつて「水俣病」が発覚当初に奇病扱いされたように、原因不明の奇病「福島病」とされてしまいそうである。
 メチル水銀中毒である「水俣病」に地域の名前が付けられたのは、加害企業の責任をごまかすべく御用学者が暗躍し、「砒素(ひそ)中毒説」などを唱えたことにより、原因究明が遅れたことが原因だった。これにより、病気に地域名が付けられ、被害者救済も大幅に遅れることになったのである。
 従って、「汚染17市町村」で多発する病気に「福島」の名が冠されるようになった時の原因と責任は、すべて環境省にある。


取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(『宝島』2015年4月号より)

福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか? 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 前編】〜

最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回!

■この世に生まれ来る前の“犠牲者”たち
福島地図 周産期――。一般に「安定期」ともいわれる妊娠22週から、生後満1週間までの期間を指す医学用語だ。そして、その期間中の赤ちゃんの死亡率を表わしたものを「周産期死亡率」という。
 出産数1000人のうち、何人の赤ちゃんが死亡したかの人数で表わされる周産期死亡率は、その地域における胎児の健康状態を表わすのと同時に、母親の健康状態のバロメーターの役目も果たすとされる。そして、福島第一原発事故が発生した2011年以降、この周産期死亡率が福島県で急上昇している。

 以下に紹介するのは、福島県生まれで現在は神奈川県に暮らす女性読者Bさんから本誌取材班に届いたメールである。
「私は今、妊娠28週目で、先日、羊水過多に加え、胎児に先天性横隔膜ヘルニアの疑いがあると診断されました。食事にも気をつけて生活していたのですが、それでも今の日本で内部被曝を完全に避けることはできませんので、それで胎児が先天異常になったのではないかと心配しています。原発事故後、実家のある福島県にも帰省しましたので、その際の内部被曝もあるかと思います」
「先天性横隔膜ヘルニア」とは、胸とお腹を分けている横隔膜に、生まれつき穴があいている病気だ。その穴から小腸や大腸、胃、肝臓といった臓器が胸のほうに入り込み、肺が圧迫されることで重症の呼吸不全を引き起こす。誕生直後からの呼吸管理が肝心で、症状の程度によっては誕生から数日以内に、臓器を元の位置に戻し、横隔膜の穴を修復する手術を行なう必要がある。Bさんのメールは続く。
「先天性横隔膜ヘルニアは、出生児2000〜3000人に1人の確率で発生する疾患だそうです。従って、原発事故の影響とは言えないのかもしれません。主治医に『放射能の影響ですか?』と聞くこともできず、モヤモヤした気持ちは今も残ったままです。
 原発事故後、周産期の異常も増えているのかどうか知りたいです。今後、何かの機会に触れていただけたら、とても助かります」

福島図1・2 そこで本誌取材班は、福島県と全国の周産期死亡率に異常が見られないか検証してみることにした。
 【図1】を見てほしい。人口動態統計の過去7年分(2007年〜2013年)のデータをもとに、福島県における周産期死亡率を折れ線グラフで表わしたものだ。実数である「周産期死亡数」でも折れ線グラフを作ってみたところ、同死亡率とそっくりな軌跡を描いている。
 福島県の周産期死亡率は08年をピークに下がり始め、11年までは右肩下がりで順調に下降し、11年にはついに全国平均を下回るまでになっていた(【図2】)。

福島表1・2 だが翌12 年以降、突如上昇へと転じる。12年に再び全国平均を上回り、その1年後の13年には、不名誉極まりない「全国第2位」の周産期死亡多発県となってしまうほど、急上昇していたのである(【表1】【表2】)。

 【図2】は、福島県と全国の周産期死亡率をグラフにして比べたものだ。全国平均のほうは、11年以降も右肩下がりで順調に数を減らし続けている。
 にもかかわらず、なぜ福島県は急上昇へと転じたのか。
 福島県の胎児たちは11年以降、何らかの“異変”に見舞われ、健康状態が急激に悪化している──。本誌取材班は、そう断定した。問題は、その“異変”の原因が何であるか、だった。

■「汚染17市町村」で周産期死亡が多発
 本誌取材班では“異変”の理由を突き止めるべく、さらに検証を進めた。放射能汚染の濃淡によって、周産期死亡率に差がないかを調べたのである。

福島図3 【図3】は、福島県内を「避難7町村」(注1)、「汚染17市町村」(注2)、それ以外の「その他」の3つの地域に分け、それぞれの周産期死亡率を折れ線グラフにして示したものだ。
「避難7町村」の値が激しく上下しているのは、この地域内の人口がおよそ6万人から7万人と少ない上に、急激な人口減少に見舞われているためである。12年の周産期死亡率は「出産1000人当たり6.35人」という全国ワーストレベルの値を記録しているものの、翌13年の同死亡率は「同3.66人」と、同年の全国平均と同じレベルにまで下降している。
 問題なのは、12年12月28日現在のセシウム137の汚染値の平均が1平方メートル当たり4万8000〜33万1000ベクレルの汚染に達していた「汚染17市町村」だった。我が国では、1平方メートル当たり4万ベクレル以上の汚染がある区域を「放射線管理区域」とするよう法律で定めているが、これら17市町村は、まるごと「放射線管理区域」とすべきレベルの放射能汚染に見舞われていることになる。
 この地域内の人口はおよそ81万人。同地域の周産期死亡率は、福島県全体の同死亡率と全く同じ傾向を示している。つまり、原発事故発生年の11年までは右肩下がりで下降し続けていたのが、翌年以降、上昇に転じているのだ。
 しかも、最新13年の値は、福島県全体の同死亡率(同5.34人)を上回る同5.48人。この値は、13年における「全国第1位」の群馬県(同5.47人)さえ上回っている。文字どおりの異常事態が「汚染17市町村」で起きていた。
 気になることは、これだけにとどまらない。「汚染17市町村」より放射能汚染度の低い「その他」の地域(12年12月28日現在のセシウム137の汚染値の平均が1平方メートル当たり4万8000ベクレル以下)の13年周産期死亡率(同5.342人)もまた、福島県全体の同死亡率をわずかながら上回っていた。同死亡率の推移にしても、11年に底を打ち(同3.95人)、それ以降から上昇へと転じているのは、「福島県全体」や「汚染17市町村」と同じである。
 この事実は、高線量の被曝はもちろん、低線量でも胎児の健康に悪影響を与える可能性を示唆していた。
 そして、本稿の冒頭で紹介したBさんの実家も、この「その他」の地域にあった。

(注1)原発事故による全域避難措置が取られている楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の7町村。
(注2)12年12月28日現在のセシウム137の汚染値の平均が1平方メートル当たり4万8000〜33万1000ベクレルの汚染地域。相馬市、南相馬市、福島市、国見町、桑折町、伊達市、川俣町、二本松市、大玉村、本宮市、三春町、田村市、川内村、広野町、須賀川市、西郷村、白河市の17市町村。

福島図4 11年において「福島県全体」(同3.57人)、「汚染17市町村」(同3.17人)、「その他」(同3.95人)のいずれの地域も全国平均(同4.09人)を下回っているのは、原発事故で漏れ出した放射能による胎児への悪影響を嫌い、出生数自体が大きく下がったことが原因である可能性もあった。そこで、念のため全国と福島県における出生数の推移も調べてみた。その結果が【図4】であるが、福島県の出生数が激減していたのは11年ではなく翌年の12年であり、しかも13年には復調していた。09年から13年までの福島県における中絶件数も調べたが、大きな変動は見られず、年を追うごとに減少していた(注3)。
 ようするに、多くの人々が「放射能による胎児への悪影響を嫌った」結果、事故の翌年の12年に福島県の出生数が激減したにもかかわらず、同県の周産期死亡率のほうは急上昇していたのである。
 この1年だけを見れば、「分母」である出生数が減ったので周産期死亡率が上がったとも考えられそうだが、その翌年の13年は、「分母」の出生数が復調したにもかかわらず、周産期死亡率はさらに上昇し続けている。この事態は、「出生減」では説明がつかない。
 11 年に福島県の周産期死亡率が大きく減少したのは、福島県の周産期医療対策が功を奏した結果だと、素直に評価すべきなのだろう。そして、その成果を一気に台なしにした“異変”とは何だったのか。
 この世に誕生することなく亡くなった福島県の赤ちゃんたちや、生まれて間もなく亡くなった福島県の赤ちゃんたちが、自らの命と引き換えに、何を私たちに伝えようとしているのか──。
 その真の意味をきちんと受け止め、悲劇を繰り返さないため後世に活かしていくのは、震災後を生きる私たちの義務であると、本誌取材班は考える。

(注3)福島県の中絶件数
2009年 4686
2010年 3739(相双保健福祉事務所管轄内の市町村の数字を含まず)
2011年 3761
2012年 3656
2013年 3233



取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(記事の全文は『宝島』2015年4月号に掲載)

調査スクープ!原発近隣住民の間で「悪性リンパ腫」多発の兆し 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第5回】〜

避難7町村における悪性リンパ腫は、特に「50歳以上」の「男性」たちの間で集中発生していた。放射能汚染地帯におけるガン多発は、子どもたちの甲状腺ガンだけではなかった!

■2013年も続いていた急性心筋梗塞の「多発」
 当連載の女性読者Aさんから、次のようなお便りをいただいた。
「福島県の中通りで暮らしていた私の父は、福島原発事故の翌年の2012年2月、大動脈解離で突然死しました。連載の第1回で取り上げられていた『急性心筋梗塞』ではないのですが、地元では最近、大動脈解離で亡くなる方も多いと聞いています」
 大動脈解離は、人口動態統計で急性心筋梗塞と同じ「循環器系の疾患」の項目に分類され、血管疾患の中でも特に重篤なものだ。初めて出る症状が「突然死」ということもある。Aさんからのお便りには、当連載の第1回で読者の皆さんにお願いした「亡くなられた方の11年3月11日時点の健康状態」や、「発症するまでの生活状況」に関する情報も、きちんと記されていた。
「父は62歳でした。少々肥満気味でしたが、持病もなく、健康状態は極めて良好でした。11年3月の原発事故発生後、原発周辺地域の住民の皆さんが地元の役場に避難してきましたので、父はその間、率先してボランティアをしてお世話をしていたそうです。
 父は草刈りが趣味でした。あちらこちらの草刈りをしつつ、お年寄りのゲートボールの世話をしながら、定年退職後の生活を楽しんでいました。
 そんな父ですから、放射能汚染のことはあまり気にしていませんでした。食べ物に気を使っている私に対しても、
『そんなに神経質になっているようじゃ、世の中生きていけない』
 と、私が間違っているかのように咎めるほどでしたので……」
 手紙の趣旨は、急性心筋梗塞以外の循環器系疾患にも目を向けてほしい──というものだった。指摘を受けて本誌取材班は、最新の「2013年人口動態統計」データを入手し、福島県における「循環器系の疾患」による死者数の推移を検証することにした。

福島表1・2 まずは、急性心筋梗塞である。【表1】は、過去5年間の福島県とその周辺県の「急性心筋梗塞」死者数で、【表2】は、福島県と全国の「急性心筋梗塞」年齢調整死亡率の推移だ(注1)。
【表2】を見てほしい。全国の値が右肩下がりで減少し続ける中、福島県は原発事故発生翌年の12年に「人口10万人当たり29.8人」(男性は同43.7人)という全国ワーストの値を記録。翌13年は同27.5人(男性は同42.1人)と、少々下がったものの、いまだに原発事故前の値(10年は同25.3人。男性は同36.9人)を上回り続け、高い死亡率のまま推移している。
 急性心筋梗塞で亡くなる方の13年全国平均は同12.1人(男性は同17.9人)。
福島県の同死亡率はその2倍以上ということになる。原発事故以降の福島県での急性心筋梗塞多発という“異常さ”が、3年連続で際立つ結果となった。

(注1)今回、改めて計算して求めた「福島県」の年齢調整死亡率は、セシウム汚染との相関を調べた連載第1・2回での計算方法とは異なり、避難町村と「セシウム汚染値ゼロ(1万ベクレル/岼焚次法廚麟愡浚村を除かずに計算した。そのため、連載第1・2回で載せた表の数値とは一致しない。

■「避難効果」が循環器系疾患の死亡率を激減させる
福島表3・4 次に、大動脈解離である。人口動態統計では、大動脈瘤とともに「大動脈瘤及び解離」として分類されており、福島原発事故前後の5年間の年齢調整死亡率をまとめたのが、【表3】だ。10年に全国平均を上回って以降、男女の合計値は常に全国平均を上回っており、現在の福島県が「大動脈瘤及び解離」の多発県であることがわかる。
 Aさんの父が亡くなった12年はひときわ増加(男性で人口10万人当たり8.4人)しており、原発事故の前年に当たる10年の値(同8.1人)を上回っている。ただ、急性心筋梗塞のようなハッキリとした「原発事故後の多発傾向」までは見られなかった。
 では、急性心筋梗塞や大動脈解離を含めた「循環器系の疾患」全体としての年齢調整死亡率はどうなっているのか。これを調べたのが【表4】である。
 全国の値は毎年下がり続けている。一方、福島県は、原発事故が発生した11年に
いったん上昇(同123.1人)し、それ以降は下がり続けている。これを見る限り、増加はすでにピークを過ぎたようだ。しかし、いずれの年も全国平均を大きく上回っているのが、気になるところである。最新13年のデータでは、全国平均(同92.1人)の1.3(同110.9人)だ。女性よりも高い男性の値で見ても、全国平均(同122.0人)の1.2倍(同151.0人)である。

福島図1・2・3・4 続いて、すべての住民が避難している原発直近7町村(注2。以下「避難7町村」)の「循環器系の疾患」年齢調整死亡率も求めてみた。それが、【図1】である。全国平均をグラフにした【図2】と同じく、年々減少傾向にある。驚いたことに最新の13年には、ついに全国平均まで下回り、同86.2人へと激減させることに成功していた。一体どんな健康対策を取ったのだろう。
 そのうえ、原発事故の発生以前は、循環器系疾患による同死亡率がガンによる同死亡率を上回っていたのに、11年を境に急激に減り始め、12年に上下が入れ替わり、13年にはその差がさらに広がるという「逆転」現象まで起きている。
 そこで、疑問が浮上した。【表4】や【図3】で示したとおり、福島県全体の「循環器系の疾患」年齢調整死亡率は全国平均の1.3倍なのに、なぜ避難7町村だけが全国平均を下回っているのか――ということだ。
 この現象には放射能汚染が関係しているのではないか──との仮説を立てた本誌取材班は、セシウムに強く汚染されたものの住民が避難していない地域を抽出し、再検証してみることにした。1平方メートル当たり4万8000〜33万1000ベクレルの汚染地域(注3。左上の地図で淡いグレーで示した地域)は、福島県内の17市町村(注4)に及んでいる。これら「汚染17市町村」における「循環器系の疾患」年齢調整死亡率を求めたのが、【図4】だ。

福島避難7町村 最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同110.9人)を上回る同112.7人。おまけにこの数値は、12年(同112.7人)から“高止まり”している。つまり、福島県全体の同死亡率を押し上げていたのは「汚染17市町村」だったのである。
 これらの事実から推定されるのは、汚染地帯から避難することにより、循環器系疾患で亡くなる人を全国平均かそれ以下にまで減らせる可能性がある――ということだ。本稿ではこのことを、仮に「避難効果」と呼ぶことにする。

(注2)楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の7町村。
(注3)セシウム137の汚染値を、12年12月28日現在の値に換算したもの。
(注4)相馬市、南相馬市、福島市、国見町、桑折町、伊達市、川俣町、二本松市、大玉村、本宮市、三春町、田村市、川内村、広野町、須賀川市、西郷村、白河市の17市町村。

■原発直近で被曝した人々に「悪性リンパ腫」多発の兆し
 13年の最新人口動態統計データの検証作業を通じて判明した事実は、これだけではない。
 昨年11月に逝去した俳優・高倉健さんの死因は「悪性リンパ腫」だったとされる。その悪性リンパ腫が、原発直近で暮らしていた「避難7町村」の人々を襲っていた。

 改めて【図1】を見てほしい。本誌取材班では今回、「循環器系の疾患」年齢調整死亡率だけでなく、福島県における過去5年間の「悪性新生物」(ガン)年齢調整死亡率の推移も検証している。前述したように避難7町村では、循環器系疾患による同死亡率とガンによる同死亡率の上下が短期間に入れ替わる「逆転」現象が起きていた。
福島表5 原発事故と発ガンの関係を考える時、重視すべきなのは、ガンの種類ごとに異なる「潜伏期間」である。
 当連載の第2回でも触れたが、米国のCDC(疾病管理予防センター)では、01年9月の世界貿易センター事件(いわゆる「同時多発テロ」事件)を受け、ガンの最短潜伏期間に関するレポート『Minimum Latency Types or Categories ofCancer』(改訂:13年5月1日。以下「CDCレポート」)を公表している(【表5】)。
 避難7町村の人々は、事故発生からの数日間だけで77京ベクレル(77×10の16乗ベクレル)にも及ぶ放射能が原発から漏れ出す中、防護服もゴーグルも防塵マスクも着けずに避難していた。
 CDCレポートによれば、白血病と悪性リンパ腫の最短潜伏期間は「146日」である。最短潜伏期間はとうの昔に過ぎている。私たちはこの2つのガンに着目し、さらに検証してみることにした。

福島図5・6・7 【図5】は、避難7町村住民における過去5年間の「白血病」「悪性リンパ腫」年齢調整死亡率をグラフにしたものである。まず、白血病を見てみると、原発事故のあった11年に急上昇し始め、翌12年には全国と県の同死亡率を上回る。13年も、さらに上昇し続けている。全国の同死亡率を計算した【図6】や、福島県の同死亡率を計算した【図7】とは、見た目にもまったく違う折れ線グラフになっている。
 最新13年における白血病の同死亡率は「10万人当たり3.4人」。この年は全国の値も若干上昇(同3.3人)したため、ほぼ同じレベルだが、福島県全体(同2.8人)と比べると1.2倍となり、何らかの“異常事態”が起きていると見て間違いない。
 13年の時点で総人口およそ6万5000人の避難7町村における白血病死者数は、09年が4人、10年が2人で、11年、12年、13年はともに3人ずつ。実数では“横ばい”だった。
 一方、原発事故前はおよそ7万人ほどだった避難7町村の人口は、11年以降、急減している。原発事故以降の3年間で5000人も減った計算になり、「10万人当たり」の値で示す年齢調整死亡率が、この影響を受けずに済むはずがない。
 白血病の同死亡率を押し上げている最大の要因は、どうやらこの「人口減」にあるようだ。避難7町村で起きている“異常事態”とはつまり、急激な人口流出のことだったのである。ただし、白血病は近年、全国規模で増加する傾向にあるので、今後も注意が必要だ。
 が、安心するのはまだ早かった。人口動態統計は、悪性リンパ腫のほうで「異変」を捉えていたのである。

 リンパ腫は白血病と同様、放射線被曝によっても起こるとされ、被曝による労災認定の際の「労災対象疾患」になっている。
 避難7町村における悪性リンパ腫死者数は、09年4人、10年7人、11年2人、12年6人、そして13年の9人である。原発事故以降は「毎年3人ずつ」の白血病とは様子が異なり、死者の実数で増加している。
 【図5】の年齢調整死亡率グラフを見ると、悪性リンパ腫は直線的に増加しており、白血病とは明らかに異なる軌跡を描いている。
 最新13年の同死亡率は「10万人当たり6.0人」。この数値は、全国(同3.7人)の1.6倍であり、福島県県全体(同3.4人)と比べれば1.8倍にもなる。「人口減」だけでは、とても説明がつかない。
 避難7町村の住民たちの間では、悪性リンパ腫「多発」の兆しがすでに表れている──。
 素直に検証結果を見れば、そう受け取るしかない。避難7町村でガンと循環器系疾患の年齢調整死亡率が短期間に「逆転」したことの背景には、こうした「異変」(=多発の兆候)が潜んでいたと考えれば、辻褄も合う。
 循環器系疾患を見る限り、避難した人たちは健康被害から逃れられたかに見えた。だが、悪性リンパ腫からは逃げ切れなかったのかもしれない。
 避難7町村における悪性リンパ腫は、特に「50歳以上」の「男性」たちの間で集中発生していた。放射能汚染地帯におけるガン多発は、どうも「子どもたちだけ」の問題ではなさそうである。

■高性能ガン罹患率データはいまだ活用されないまま
 循環器系疾患では、すぐに亡くなるケースが相当な数あるのに対し、ガンは発症したからといって、すぐに亡くなるわけではない。医療技術の向上でガンの治癒率が上がったことが、その最大の理由だ。21世紀の今、ガンは必ずしも「死の病」というわけではない。
 従ってガンの場合、死亡者のデータである人口動態統計には、集団発生(=アウトブレイク)の変動や兆候がすぐには表れにくいという傾向がある。つまり、明らかな変動が確認できる(=大勢死んでしまう)までには何年も時間がかかるのだ。
 ガンの発症頻度を検証し、いち早く今後のガン治療や、被害者救済に活かすためには、ガンの発症時に患者数(=罹患数)をカウントする「がん登録」データのほうが適している。ガン死亡率よりガン罹患率のほうが、変動をキャッチする感度も優れており、対策を実施するまでの時間短縮にも貢献できる。
 ましてや、人口動態統計によるガン死亡率でさえ、悪性リンパ腫「多発」の兆しをすでに捉えているのである。
 となれば、国立がん研究センター(旧・国立がんセンター)の出番だろう。ここが、福島県をはじめとした全国各地の「がん登録」データを持っている“総本山”だからだ。

 国立がん研究センターに集められた統計情報は、国や都道府県が実施するガン対策をはじめ、ガン検診や治療の体制づくり、ガンの治療研究などに役立てられる──というのが「がん登録」制度の建前だ。ならば、原発事故によるガン多発の有無を「がん登録」データで検証する意義も、十二分にあることになる。
 ガンは、いわゆる「町医者」では対応が困難な病気である。ガン治療の拠点となる病院「がん診療連携拠点病院」が全国各地にあり、多くの場合、こうした病院でガンの診断を受け、治療を受けることになる。
 この際に病院側が把握する個人情報を都道府県等が集め、それを国(国立がん研究センター)が吸い上げて集約したものが「がん登録」データである。1年後の16年1月からは、国のデータベースで一元管理する「全国がん登録」制度もスタートする予定だ。その後は、ガンと診断された人のデータは全国どこでも漏れなく登録されるようになる。
 データが収集・分析され、一般に公開されるまでに現在かかっている時間は、およそ4年間。同センター・がん対策情報センターがインターネット上で公開している“最新データ”は、なんと原発事故前年の10年のものだ。すでに原発事故の発生から4年が過ぎようとしているのに、原発事故による健康への影響調査に「がん登録」データが活用されている気配がまったく感じられないのは、そのためなのである。いくら変動をキャッチする感度が優れていても、これでは宝の持ち腐れだ。
 ただ、感度は本当に良さそうである。例えば、10年における全国の「ガン」年齢調整死亡率は「10万人当たり130.8人」であるのに対し、同年の「ガン」全国推定罹患率(粗率)は「同628.8人」である。その差はおよそ5倍。死亡率では捕捉しきれていないガンを山ほど網羅していることが窺い知れる値だろう。ともあれ、私たち日本国民が「がん登録」を有効活用するための最重要課題は、データ公開までのスピードアップである。
 原発事故による健康への影響を知るうえで当面必要なのは、福島県の「がん登録」データだ。そこで、同県の「がん登録」事業の事務局をしている福島県立医科大学附属病院に、「がん登録」データを検証に使わせてもらえないか相談してみた。
 だが、データの使用については「国立がん研究センターに聞いてくれ」の一点張り。結局、「ウチからデータを提供することはできない」と断られる。ならば、「県民健康管理」のためにも自分で検証しなさい。それは、福島県当局の使命である。
 では、“総本山”の国立がん研究センターでは、原発事故による健康への影響調査に「がん登録」データを活用することについて、どう考えているのか。本誌取材班の取材に対する同センター・ 広報企画室からの回答は次のとおり。
「福島県においては、より正確ながん罹患を把握すべく、担当者が医療機関を訪問して事故発生前からの情報収集をしています。福島県のがん罹患数の公表は、福島県が主体となって、県民健康調査の結果と合わせて随時、行われるものと考えられます」
 同センターも“福島県が自分でやれ”と言っていた。同センターの回答は続く。
「(中略)国立がん研究センターが研究班活動(注5)で収集したデータのみから、福島第一原発事故の健康への影響の有無を結論づけることは困難ですが、当然、一つの資料にはなりますので、2011年以降の集計結果を注視し、分析していきます。
 現時点では、あくまで地域がん登録は都道府県事業ですので、がん登録の活動については、都道府県の自主的な判断に任せざるを得ませんが、一昨年(13年)末に成立した『がん登録推進法』に基づき、2016年から国の事業として体制整備が進み、全国がん登録事業として、より迅速で、正確ながん統計が作成されます。国立がん研究センターとしては、がん登録を環境モニタリングのツールとして有効利用していく所存です」
「所存」は、わかった。使命感の滲み出る決意表明として受け止めよう。原発事故被害者の救済に「全国がん登録」が役立てられることを期待したい。
 だが、鈍感な人口動態統計でさえ、悪性リンパ腫死亡率の上昇を検知したというのに、制度が未整備であるため、あと1年は放置されるのだという。分析に着手するのが1年後であれば、結果が明らかになるのはさらにその先、ということになる。果たして、あと何人の人が亡くなれば、原発事故で被曝させられたことによる健康被害が公式に認められ、救済策が実施されるのか。

 福島第一原発事故の発生から、4年の歳月が過ぎようとしている。しかし、被曝による健康被害はいまだ一件も公式には認められていない。そのため、放射能汚染により10万人以上もの人々が住み慣れた故郷を追われる非常事態を引き起こしていながら、加害企業の東京電力とその責任者らは「業務上過失致死傷」の罪を免れている。
 我らが祖国、日本よ。このままで、いいのか?

(注5)現行の「がん登録」事業は「地域がん登録」と呼ばれる。都道府県等の事業として実施されており、全国から集められたデータの集計作業は現在、国が所管する「厚生労働科学研究班」が実施している。「研究班活動」とはこのことを指し、11年における診断症例の集計結果は、今年3月末に公表される予定だ。「地域がん登録」は1年後の16年1月より、国が一元管理する「全国がん登録」制度に集約される。


取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(『宝島』2015年3月号より)
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