2014年12月

百田尚樹“作家タブー”の深い闇…「たかじん長女手記」を潰していた『週刊文春』

■1行たりとも報じようとはしなかった
「今回の『殉愛』騒動での、週刊誌の腰抜けぶりは、出版界に依然“作家タブー”が存在することを世に広く知らしめた。それが、百田(尚樹)さんがあの本を出した唯一の功績でしょうか」
 こう自嘲気味に語るのは大手出版社幹部だ。
 この幹部の言う『殉愛』(幻冬舎)とは、ほかでもない、『永遠の0』や『海賊とよばれた男』など、出す本、出す本、すべてが売れるベストセラー作家の百田尚樹センセイが、「関西の視聴率王」と呼ばれた故やしきたかじん(2014年1月3日死去)と、彼が亡くなるまでの2年間、支え続けた妻「さくら」との〈愛の物語〉を描いた〈純愛ノンフィクション〉のことだ。
 さくらから、たかじんの“遺志”として、執筆依頼を受けた百田センセイは、さくら自らが語る〈人生のすべてを捧げた〉献身的な介護話に大感激。〈2年先まで埋まっている〉出版スケジュールをすべて延期し、〈300時間以上の取材〉(後に200時間以上に訂正)を経て、書き上げたという。
 本の中で百田センセイは〈読者にはにわかに信じられないかもしれないが、この物語はすべて真実である〉と大見得を切り、版元の「幻冬舎」(見城徹社長)も〈かつてない純愛ノンフィクション〉と大宣伝。
 発売当日に「金スマ」(TBS)で、この〈愛の物語〉を延々2時間再現するという、あざとさ満開の“幻冬舎プロモーション”が奏功し、11月7日の発売から1カ月足らずで、初版25万部を完売する勢いなのだ……。
 と、ここまではよかったのだが、発売直後からネットでは、この『殉愛』、そして主人公の「さくら」に対する疑惑が噴出した。それらの疑惑については、本特集(月刊誌『宝島2月号』「大特集 百田尚樹の正体!」)の巻頭記事を読んでいただきたいが、この騒動がネットの世界を飛び出し、広く知られるようになったのは、この本を巡って、たかじんの唯一の実子である長女が、版元の幻冬舎を提訴するに至ったからだ。
「殉愛」の中で、さくらに対し横柄な態度で、関西弁の暴言を浴びせ、カネに汚い「中年女性」として書かれた長女は、同書発売から2週間後の11月21日、『殉愛』によってプライバシーを侵害され、さらには虚偽の事実を書かれたことによって名誉を毀損されただけでなく、遺族としての「敬愛追慕の念」をも侵害された──として幻冬舎に対し、出版差し止めと損害賠償を求める訴えを起こした。
 人気作家が書いた、亡くなった有名タレントの〈ノンフィクション〉で、その遺族から訴えられるなど、前代未聞のスキャンダルだ。が、本来ならこの種の醜聞に真っ先に飛びつき、嬉々として報じるはずの『週刊文春』や『週刊新潮』、『週刊現代』や『週刊ポスト』など、出版社系週刊誌は、長女の提訴から2週間近く経たっても、1行たりとも報じようとはしなかった。

■読者の失笑を買った天下の『週刊文春』
 前出の出版社幹部が語る。
「これがいわゆる“作家タブー”というものです。『文春』では年末の新年合併号から百田さんの連載小説が始まり、『新潮』では『フォルトゥナの瞳』(連載小説)が終わって単行本が出たばかり。さらに(『週刊現代』の版元である)講談社は『海賊とよばれた男』、『永遠の0』の版元で、小学館も『SAPIO』などで百田さんには世話になっている。
 出版不況の昨今、各(出版)社に対する人気作家の影響力は絶大で、各社とも自社の週刊誌がこのスキャンダルを報じて、百田さんの逆鱗(げきりん)に触れ、連載を止められたり、版権を引き上げられることを恐れ、“自主規制”しているんです」
 なるほど、どうりで普段は他人様のプライバシーを暴き立てることに血道を上げる週刊誌が、今回ばかりはおとなしいはずだが、このお寒い状況にキレたのが、大物作家の林真理子氏だった。
 なんと、百田センセイの連載欲しさにダンマリを決め込んでいる『週刊文春』誌上で、当の『文春』をはじめとした週刊誌批判をブチ上げたのだ。
 林氏は『文春』で長期連載中のエッセイで、さくらの重婚疑惑など一連の『殉愛』騒動に触れた後、こう述べる。
〈意地悪が売りものの週刊新潮も、ワイドの記事すらしない(百田氏の連載が終わったばかり)。週刊文春も一行も書かない(近いうちに百田氏の連載が始まるらしい)。
 あと講談社が版元の週刊現代は言わずもがなである。週刊ポストも知らん顔。こういうネタが大好きな女性週刊誌もなぜか全く無視。大きな力が働いているのかと思う異様さだ〉と、“作家タブー”の存在を匂わせたうえで、「従軍慰安婦問題」や「吉田調書問題」で、週刊誌が『朝日新聞』を袋叩きにしたことを例に挙げ、こう批判するのだ。
〈私は全週刊誌に言いたい。もうジャーナリズムなんて名乗らない方がいい。自分のところにとって都合の悪いことは徹底的に知らんぷりを決め込むなんて、誰が朝日新聞のことを叩けるだろうか〉
 これだけ徹底した週刊誌批判を、当の週刊誌誌上においてできるのは、彼女の実力、そして胆力のなせる業だろうが、自誌の連載執筆者から真っ向から批判されたのが、よほど恥ずかしかったのだろう。『文春』は翌週の号(12月18日号)でようやく、この『殉愛』騒動を取り上げるのだ。
 ところが、そのタイトルは、
「『林真理子さんの疑問にお答えします』百田尚樹」
 と、文字通り百田センセイの独演会。センセイは件(くだん)の重婚疑惑について〈彼女は二〇〇八年十二月にイタリア人男性と日本で入籍し、二〇一二年三月に離婚しています。たかじん氏と入籍したのは二〇一三年十月。重婚の事実はないのは明白〉と主張。イタリア人夫との結婚、離婚の事実を書かなかったのは、たかじんが〈妻のプライベートは公表したくないとも考えていた〉からと釈明したのだ。
 が、これは明らかに問題のすり替えと言わざるを得ない。そもそもネットでは重婚疑惑よりむしろ、〈純愛〉を売りモノにするさくらの“不倫疑惑”のほうが問題視されていたからだ。
 というのも、さくらがたかじんと初めて会ったとする11年12月時点で、イタリア人夫との仲睦まじい様子を、さくら自身がブログにアップしていたからにほかならず、このさくらの“二股”状態について、百田センセイは、何ら説得力のある説明ができていない。
 にもかかわらず、『文春』は〈ただ彼女にどんな過去があろうと、たかじん氏最後の二年間を他の誰よりも献身的に支えたことは紛れもない事実です〉などというセンセイの主張をただタレ流すだけなのだから、これでは読者の失笑を買うのも無理はない。
P32-2林真理子


<『殉愛』の疑惑に斬り込まない週刊誌に正論を説いた林真理子氏>







■『週刊新潮』も言い分を丸飲み
 ライバルの『週刊新潮』も林氏の叱責にバツの悪さを感じていたのだろう。
 こちらは〈故やしきたかじん「遺族と関係者」泥沼の真相〉(12月18日号)と左トップ5ページで大々的な特集を組み、「検証記事」の体裁をとっているものの、その内容といえば、『文春』同様、百田センセイのお話とさくらの主張に丸乗りするものだった。
“重婚疑惑”については、もう一方の当事者であるイタリア人夫を取材することもなく、さくらから提供された離婚届の「受理証明書」だけを根拠に、〈「重婚」の事実は全くなかった〉と断定し、メモの“捏造疑惑”も、自ら検証することなく、ネット情報をそのまま拝借。それでいて〈ネットを騒がせている「重婚疑惑」と「メモ偽造疑惑」はいずれも事実ではなかったわけだ〉などと勝手に納得しているのだから噴飯モノだ。
 さらに、前述のさくらの“不倫疑惑”については、本人の「私とそのイタリア人男性は結婚の翌年の夏頃にはうまくいかなくなり、翌春には別居状態になっていました」「そういう状況になっていることは私の家族には話せなかった。だから私は家族を安心させるために、わざと和気藹々とした写真などをブログにアップしていたのです」という、苦しい言い訳をそのまま掲載。林氏の言う〈意地悪が売りものの〉新潮にしては、気持ち悪いほど素直なのだ。
 そして林氏から〈言わずもがな〉と揶揄された講談社発行の『FRIDAY』(12月26日号)に至っては、「家鋪さくら独占手記『重婚疑惑 直筆メモ捏造疑惑 すべてに答えます』」と題し、さくらから提供されたたかじんとさくらのツーショット写真をふんだんに使い、8ページにわたって大展開。
 その内容はもはや〈言わずもがな〉だが、誌面ではたかじんの遺言書の写真まで掲載し、〈妻・さくらは、不動産、株などを含む残りの財産すべてを相続するというわけである〉と、さくらの相続の“正当性”を強調。返す刀で〈すなわちたかじん本人の遺志で、Hさん(編集部注:長女)への財産分配は行われないことを意味しているのである〉と、百田センセイよろしく、さくらの主張を代弁するのだ。さくらと長女が現在、遺産をめぐって係争中であるにもかかわらず、である。

■『朝日』『毎日』はマジメに事実を追及
 一方、これら百田センセイに気に入られようとちぎれんばかりに尻尾をふる出版社系週刊誌とは対照的に、気を吐いたのは『サンデー毎日』や『週刊朝日』など新聞社系週刊誌だった。
 『毎日』(12月14 日号)は〈たかじん死して「骨肉の争い」勃発〉と題し、長女が『殉愛』の版元、幻冬舎を訴えた訴訟の内容を詳報。一方の『朝日』(12月19日号)はさらに踏み込み、〈スクープ! 渦中のやしきたかじんさんの長女 独占初激白 「百田尚樹さん、事実は違う。なぜ、私に取材しなかったのか」〉とのタイトルで長女のインタビューを掲載し、百田センセイとさくらの主張に真っ向から反論したのだ。さらに第2弾(12月26日号)でも、さくらが、「OSAKAあかるクラブ」に遺産2億円の寄付を放棄するように迫り、そこにはなんと百田センセイも同席していた──とのスクープを報じた。
 しかし「殉愛」の内容に疑問を呈したのはこれら両誌に、たかじんと交流のあった作詞家の及川眠子氏や、元マネージャー・打越もとひさ氏のコメントを掲載した『週刊SPA!』(12月2日号)を合わせた3誌のみ。
 作家タブーに屈服し“自主規制”した出版社系週刊誌は、林氏の言う通り〈もうジャーナリズムなんて名乗らない方がいい〉と小誌も思う。
 が、実は、当の百田センセイ自らが“記事潰し”に関与していたというから驚きだ。

■たかじん長女の手記が校了直前で掲載見送りに
 その舞台となったのは、ほかでもない、新年合併号からセンセイの連載が始まるという『週刊文春』だ。事情を知る文藝春秋関係者が語る。
「実はたかじんが亡くなった直後から、さくらの素性に疑いを持ち、いち早く報じてきたのが、いまや百田さんの“広報誌”と化してしまった『週刊(文春)』(文藝春秋社内では月刊『文藝春秋』と区別するためにこう呼ばれる)でした」
『週刊文春』は、たかじんがガンで再休養していた13年末段階から「長期療養中やしきたかじん 再々婚した32歳下一般女性の正体」(12月19日号)、たかじんの死後も「やしきたかじん『参列者5人』葬儀の謎」(14年1月23日号)、「親族から噴出 やしきたかじん32歳下未亡人への怒り  遺骨を『マカロンみたい』」(同年2月6日号)と、さくらの正体や、彼女と遺族との確執について詳報し、まさに独走状態だった。前出の関係者が続ける。
「そして『週刊』は、さくらに対するトドメの一撃として、昨夏のお盆休みの合併号に、たかじんの長女の手記を掲載する予定でしたが、校了直前になって掲載が見送られたのです」
 関係者によると、『文春』では、長女の手記を記事にまとめた後、最終的な事実確認のため、さくらが、たかじんの生前から同居していた大阪のマンションを訪問。取材を申し込んだという。関係者がさらに続ける。
「ところがその直後に、編集部からストップがかかり、取材班は大阪から撤退。記事掲載も見送られたのです。
 表向きの理由は『さくらと長女は現在、遺産をめぐって係争中で、法務(部門)が係争中の案件を記事にするのはまずい、と難色を示した』というものでした。が、さくらと長女が遺産をめぐる係争中であることは企画段階から分かっていた話ですし、そもそも『係争中』を理由に記事掲載を見送っていたら週刊誌など作れない。編集部内でそんな“理由”を信じる者は誰一人、いませんでした。
 これは後になって社内で分かったことですが、取材班がさくらに取材を申し込んだ直後、百田さんから新谷(学『週刊文春』)編集長の携帯に直接、電話があったそうです。おそらく、さくらから依頼を受けてのことでしょう」
 それ以降、『文春』編集部では「さくら」がタブーとなり、今や百田センセイの“広報誌”と化したことは前述の通り。
 この記事潰し疑惑について取材班は『殉愛』版元の幻冬舎を通じ、百田センセイに確認したが、センセイは自らが新谷編集長に電話を入れた事実も、さくらから記事潰しを依頼されたという事実も否定した。
 冒頭に登場した大手出版社幹部が最後にこう語る。
「今回の騒動では、作家タブーを抱える週刊誌がネット民に完全に敗北したことが明らかになりました。これも『殉愛』の数少ない功績なのかもしれません」
 これら様々な出版社の“お家の事情”を白日の下に晒したという意味では、悪
評紛々の『殉愛』も少しは世の中の役に立ったのかもしれない(文中一部敬称略)。

文/宝島「殉愛騒動」取材班

(『宝島』2015年2月号「大特集 百田尚樹の正体!」より)

P32-3週刊誌


<大手週刊誌はようやく重い腰を上げるも大半は百田センセイ&さくら氏の“代弁者”に成り下がった>

【告発スクープ】 “WHO「福島県でガン多発」報告書” 国と記者クラブが無視! 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第3回 後編】〜

ガンのアウトブレイクに備えよ――汚染地域に暮らしていた(もしくは暮らし続けている)若年層における甲状腺ガン、白血病、乳ガン、固形ガンの多発を予測するWHO報告書はなぜ無視され続けるのか?(後編)

■甲状腺ガン、白血病、乳ガン、固形ガン……
WHO3グループ内訳 にもかかわらずWHOは、ガンに関してだけは「若年層で多発する」との評価を下していた。
 報告書のサマリー(要約版)には、次のような一文がある。
「市民の健康監視のため、今後数年間で(注意を払うべき病気や地域の)優先順位を設定するために貴重な情報を提供します」
 WHO報告書がまとめられた一義的な目的は、被曝した市民の健康被害対策において何を優先すべきかを決める際の参考資料として活用してもらうためだった。従って、WHO報告書の正しい読み方は、そこに挙げられている推定被曝線量やガン発症率の数字だけに目を奪われるのではなく、評価を通じて炙(あぶ)り出された病気や地域に着目し、対策を取ることなのだ。
 ガン以外の健康被害が詳細評価の対象外とされたのも、WHOなりに「優先順位」を考えた末の話なのだと割り切れば、腑(ふ)に落ちる。どうしてもガン以外の健康被害が気になるのであれば、WHOに過度な期待など抱かず、日本国民が自らの手で「詳細評価」すればいいのである。
 ともあれ、今後、私たちが最大限の注意を払うべき対象は、WHOでも心配していた、
「汚染地域に暮らしていた(もしくは暮らし続けている)若年層における甲状腺ガン、白血病、乳ガン、固形ガン」
 ということになる。ここで言う「汚染地域」とは、何も浪江町や飯舘村の「グループ1」地域だけに限らない。3〜48ミリシーベルトの被曝とされた「グループ2」地域と、1〜31ミリシーベルトの被曝とされた「グループ3」地域も、れっきとした「福島第一原発事故による汚染地域」である。対策地域を1ミリシーベルト以上の「グループ3」地域まで広げておけば、健康被害対策としてはとりあえず及第点をもらえるだろう。

■「子どものガン多発」に目をつぶる大人たちの罪
WHO6グラフ 今年7月16日に開かれた第8回の専門家会議では、このWHO報告書の提言を健康被害のアウトブレイク対策に積極的に活かそうという重大な提案があった。発言したのは、疫学と因果推論などが専門の津田敏秀・岡山大学大学院教授。津田氏はこの日、専門家会議の場に講師として招かれていた。
 同日の議事録によると、津田教授発言の要旨は次のようなものだ。
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 米国のCDC(疾病管理予防センター)は、甲状腺ガンの潜伏期間は大人で2.5年とし、米国科学アカデミーは、子どもにおいては最短の潜伏期間は1年であるとしている。1歳未満の乳児が甲状腺ガンになった症例の報告もある。従って、原発事故の翌年から甲状腺ガンの多発が起こったところで何の不思議もないし、これだけ大規模に被曝した人がいれば、その中には被曝に対する感受性の高い(=ガンになりやすい)人もいる。
 WHO報告書も、甲状腺ガン・白血病・乳ガン・固形ガンの多発が、特に若年層で起こるということに言及している。
 事故3年後の福島でも、甲状腺ガンの多発が明瞭に観察されている。多発に備える対策とその準備が、早急に必要だ。
 白血病は、累積ガンマ線被曝が5ミリグレイ(ミリシーベルトとほぼ同じ)を超えると、統計的有意差が出てくる。白血病を除く全ガンも、15ミリグレイの累積被曝によって多発してくる。
 妊娠中に放射線を浴びたために小児ガンが多発するという調査報告も、世界各国で相次いでいる(注4)。病院のX線撮影室の入ロに表示してある「妊娠している可能性がある方は、必ず申し出てください」という表示は、こうした調査報告を根拠にしたものだ。福島県では今もなお、妊婦を含む全年齢層が被曝している状態であるということを、きちんと考えていただきたい。
 今、福島第一原発事故に絡んで語られている「100ミリシーベルト以下ならガンが出ない」というような話は、必ず撤回させる必要がある。(除染を完了したとされる地域への)帰還計画も延期すべきだと思う。
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 この提案に対し、長瀧重信座長(長崎大学名誉教授)をはじめとする専門家会議委員は、「福島ですでにガンは増えている」という見方が委員会の結論となるのを断固阻止すべく、いっせいに反発を示す。
 会議の司会を務める長瀧座長は、津田教授に反論するよう委員らを焚(た)きつけつつ、自身は疫学の専門家でないにもかかわらず、津田教授の見解を「非常にユニーク」だとして切り捨てようとする。
 だが、津田教授も負けておらず、「私は、オックスフォード大学出版局から出ている『フィールド疫学 第3版』という教科書にもとづいて話している。(ユニークだと言う)先生のほうがユニークです」
 と切り返す。WHO報告書をめぐる議論は、ここで打ち切られた。
 そして、その後の専門家会議でもWHO報告書にもとづく健康被害対策が検討されることはなく、10月20日の第12回会議で、ついにWHO報告書は正式に無視されるまでに至っていた。津田教授にコメントを求めたところ、こんな答えが返ってきた。
「特に感想はないですが。もともと、あの委員会の先生方には、健康影響を論じるのは無理な話なのですから」
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 推定被曝線量の高低や、予測された発症率の高低ばかりに気を取られ、「過大評価か否か」に固執する環境省や専門家会議。そして、「がんが明らかに増える可能性は低い」などと報じていたマスコミ。そのどちらも、WHO報告書の意味を180度取り違えていた。
 その結果、WHO報告書の提言は福島県民の健康被害対策に生かされず、そのことを批判するマスコミ報道もない。こうして「若年層でのガン多発」というアウトブレイクに備えた対策は、今日まで何も取られていない。
 かわいそうなのは、こんな大人たちにこれからの人生を翻弄される、子どもたちである。

(注4)妊婦の腹部への被曝が生誕後の小児ガンの原因となるということは、半世紀ほど前から知られていた医学的知見でもある。研究自体は1950年代から世界的に行なわれており、子宮内で胎児が10ミリグレイ(=10ミリシーベルト)程度のX線被曝を受けると、小児ガンのリスクが必然的に増加するという結論がすでに出ている。


取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班

(全文は『宝島』2015年1月号に掲載)

【告発スクープ】 “WHO「福島県でガン多発」報告書” 国と記者クラブが無視! 〜誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第3回 前編】〜

ガンのアウトブレイクに備えよ――汚染地域に暮らしていた(もしくは暮らし続けている)若年層における甲状腺ガン、白血病、乳ガン、固形ガンの多発を予測するWHO報告書はなぜ無視され続けるのか? (前編)

■日本の「専門家」はなぜWHO報告書を嫌った?
WHO1報告書 10月20日、環境省が所管する「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(以下、専門家会議)の第12回会議が東京・港区で開かれた。
 この日、専門家会議は、世界保健機関(WHO)と原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2つの国際機関から出されていた線量評価報告書のうち、
「福島での被曝によるガンの増加は予想されない」
 というUNSCEAR報告書のほうが「より信頼性が高い」として絶賛。そして、
●福島第一原発事故の被曝線量はチェルノブイリ原発事故よりもはるかに少ない
●懸念されるのは甲状腺(こうじょうせん)ガンだけであり、そのリスクも疫学的にかろうじて増加するかどうかという程度
 としたUNSCEARの健康リスク評価について「同意する」と表明した。これぞ“我が意を得たり”ということのようだ。
 一方、WHOの健康リスク評価に対しては、昨年2月の同報告書公表以来、専門家会議は「過大評価の可能性がある」と敵視し続けてきた。そしてこの日、WHO報告書を事実上無視する構えを鮮明にしたのだった。
 そのWHO報告書はこれまで、
「がん疾患の発症増加が確認される可能性は小さい」(『毎日新聞』2013年2月28日)
「大半の福島県民では、がんが明らかに増える可能性は低いと結論付けた」(『朝日新聞』同年3月1日)
 などと報じられてきた。報道を見る限り、UNSCEAR報告書の内容と大差はなく、専門家会議がそこまで嫌う理由が全くわからない。
 そこで、WHO報告書の原文を取り寄せ、精読してみたところ、驚くべき「評価内容」が浮かび上がってきた。

■WHOは若年層での「ガン多発」を明言していた
WHO2ガンリスク WHOは昨年2月28日、東京電力・福島第一原発事故で被曝した福島県民たちには今後、健康面でどのようなリスクがあるのかを検証した『WHO健康リスク評価報告書』(注1)を発表していた。
 英文で160ページ以上にも及ぶ同報告書では、ガンと白血病の発症リスクを詳細に評価。その結果、深刻な放射能汚染に晒(さら)された原発近隣地域の住民の間で、甲状腺ガンをはじめとしたガンが増加し、特に若い人たちの間でガンが多発すると明言している。
 この報告書をまとめるにあたり、主な「評価対象」とされたのは、避難が遅れた浪江町と飯舘村の「計画的避難区域」に暮らしていた住民たちだ。
 評価では、汚染地帯から避難するまでに4カ月かかったと仮定。他にも、汚染された福島県産の食材を食べ続けたと仮定するなど、過小評価を避けるための仮定を積み重ねたうえで、住民の推定被曝線量を弾き出している。
 WHO報告書によると、多発が極めて顕著なのは小児(注2)甲状腺ガン。被災時に1歳だった女児の場合、浪江町では事故発生からの15年間で発症率は9倍(被曝前の発症率0.004%→影響を考慮した発症率0.036%)に増え、飯舘村でも15年間で6倍(同0.004%→同0.024%)に増えると予測した(同報告書64ページ。【図1】)。
 もともと幼少期の甲状腺ガン発症率は非常に低い。従って、幼少期に被曝した場合のリスクを、原発事故発生からの15年間に絞って計算すると「小児甲状腺ガンと被曝との関係性がより明白になる」と、WHO報告書は言う。
 ひょっとするとこの部分が、原発事故による健康被害は「ない」とする評価を続ける環境省や専門家会議の癇に障ったのかもしれない。
 多発が予測されたのはそれだけではない。
 小児甲状腺ガンほどではないにせよ、小児白血病も多発するという。被災時に1歳だった男児の場合、浪江町では事故発生からの15年間で発症率は1.8倍(同0.03%→同0.055%)に増え、飯舘村では15年間で1.5倍(同0.03%→同0.044%)に増える。1歳女児の場合、浪江町では事故発生からの15年間で発症率は1.6倍(同0.03%→同0.047%)に増え、飯舘村では15年間で1.3倍(同0.03%→同0.04%)に増える(同報告書62ページ。【図2】)。
 そして、乳ガンも増える。被災時に10歳だった女児の場合、浪江町では事故発生からの15年間で発症率は1.5倍(同0.01%→同0.015%)に増え、飯舘村では15年間で1.3倍(同0.01%→同0.013%)に増える(同報告書63ページ。【図3】)。
 さらには、固形ガンも増える。被災時に1歳だった男児の場合、浪江町では事故発生からの15年間で発症率は1.14倍(同0.08%→同0.091%)に増え、飯舘村では15年間で1.08倍(同0.08%→同0.086%)に増える。1歳女児の場合、浪江町では事故発生からの15年間で発症率は1.24倍(同0.08%→同0.099%)に増え、飯舘村では15年間で1.14倍(同0.08%→同0.091%)に増える(同報告書62〜63ページ。次ページ【図4】)。
 つまり、福島県の若年層におけるガンは、甲状腺ガン、白血病、乳ガン、固形ガンの順に増加すると、WHO報告書では予測している。

(注1)同報告書の英語名は『Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami』。URL はhttp://apps.who.int/iris/bitstream/10665/78218/1/9789241505130_eng.pdf?ua=1
(注2)本稿中の「小児」の定義は、0歳から16歳までとする。
 
■「過大評価」したのか?それとも「過小評価」か?
WHO3グループ内訳 WHOの健康リスク評価では、原発事故発生からの1年間に被曝したと思われる推定線量をもとに、地域を4つのグループに分けている。12〜122ミリシーベルトの被曝とされた浪江町と飯舘村が「グループ1」。3〜48ミリシーベルトの被曝とされた葛尾村、南相馬市、楢葉町、川内村、伊達市、福島市、二本松市、川俣町、広野町、郡山市、田村市、相馬市が「グループ2」。1〜31ミリシーベルトの被曝とされた他の福島県内の自治体や福島県以外の都道府県が「グループ3」。そして、0.01ミリシーベルト(=10マイクロシーベルト)以下の被曝とされた近隣国が「グループ4」だ。
 問題は、福島第一原発の立地自治体である双葉町と大熊町、そして大熊町に隣接する富岡町の3町が、どのグループにも入っておらず、評価の対象から外されていることである。これらの町の住民は「速やかに避難」したからなのだという。
 しかし、3町の住民もまた、避難開始前から環境中に漏れ出していた放射能によって相当な被曝をしていた。具体例を挙げよう。
 福島第一原発の直近から避難してきた一般市民が被曝していることが判明し始めた2011年3月12日、放射線測定器で1万3000カウント(CPM。1分ごとのカウント)以上を計測した人のすべてを「全身の除染が必要な被曝」とみなし、シャワーで体を洗い流していた。この日、全身の除染が必要とされた住民は3人。そして翌3月13日、福島県は、原発の3キロメートル圏内から避難してきた19人にも放射性物質が付着していたと発表する。住民の被曝は22人となった。
 だが、翌3月14日、福島県は突然、除染基準を引き上げる。国が派遣したという「放射線専門家」の意見を聞き入れ、基準を7倍以上の「10万CPM以上」としたのだ。そしてこの日以降、「今日は何人の市民を除染」といった類いの情報が、報道から消えていた──。
 コントロール不能に陥っていた原発から、事故発生からの数日間だけで77京ベクレル(77×10の16乗ベクレル)にも及ぶ放射能が漏れ出す中、防護服もゴーグルも防塵マスクも着けずに避難していた彼らを評価に加えていないところが、この健康リスク評価における「過小評価」部分であり、最大の欠点でもある。人によっては、前掲の「発ガンリスク」以上の健康リスクを背負わされている恐れがある。
 しかも、放射線被曝による健康被害はガンばかりではない。
 甲状腺疾患(機能低下や良性結節など)や視覚障害(水晶体混濁や白内障など)、循環系疾患(心臓や脳血管の疾患)、生殖器官の機能不全、催奇性(さいきせい)リスク、遺伝子への影響、高線量の被曝に伴う急性放射線障害などもある。だが、これらの疾患は「発生の増加は予想されない」として、WHOの報告書では詳細評価の対象外としていた(注3)。
 つまり、専門家会議が危惧する「過大評価」どころか、その正反対の「過小評価」に陥っている懸念さえあるのだ。

(注3)WHOが詳細評価の対象外としていたからといって、ガン以外の疾患を舐(な)めてかかってはならない。飯舘村の高汚染地域に調査目的で何度も滞在した後、白内障に罹(かか)っていた人が相当数いることを、筆者は具体的に知っている。高レベルの汚染が判明している地域に立ち入るのを極力控えるか、それとも防護服姿で訪問するかしないと、こうした疾患のリスクは減らしようがない。

取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班

(全文は『宝島』2015年1月号に掲載)

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■2000円で数万円相当の特産品をゲット
 年末が近づき、ますます盛り上がりを見せるふるさと納税。「すごくお得らしい」と、一度は耳にしたことがある人も多いだろう。
“納税”というとイメージしにくいが、形式的には地方への“寄附”に近い。過疎で税収減少に悩む自治体や地方間格差を是正しようというコンセプトから生まれたからだ。ふるさと納税は簡単にいうと、1万円を寄附すれば、税金から8000円が還付・減額され、実質2000円で全国の豪華な産地直送グルメがもらえるという制度だ。
 寄附のお礼としてもらえる特産品は、A4〜5ランクの特産和牛や全国の米どころから届くブランド米、旬の高級果物、エビやカニなどの魚介類など、1品当たり4000円〜5000円相当の特産品が多いから、お得度はかなり高い。
 さらに、“ふるさと”といっても自分の生まれ故郷や実家がある市町村でなくてもOK。魅力的な特産品がもらえる好きな複数の自治体に寄附していいのだ。おかげで、A町に1万円寄附して伊勢エビをもらい、B村に1万円寄附してサクランボをもらい、C市に1万円寄附してワインをもらう……なんてことが可能となる。これらを全部もらっても、確定申告をすれば負担はたった2000円だけでいいのだ!
 例えば、東京都千代田区の住民が山形県に1万円分のふるさと納税をして山形牛をもらったとしよう。1万円のうち、山形県庁は地元生産者から6000円で山形牛を仕入れて寄附者に発送し、山形県は4000円の税収増となる。本来は入る予定だった千代田区の税収が減ってしまうが、寄附者・自治体・生産者3者にメリットがあり、地方活性化に一役買う仕組みとなっている。
 1万円寄附で1品もらえる自治体が多いが、最近では5000円からという自治体も増えており、今まで以上に手軽に始めやすくなっている。では、どこが本当にお得なのか。参考にしてほしいのが、2013年度に寄附金額が多かった4自治体だ。いずれも数十種類以上の豪華特産品が揃っている人気自治体。また、肉、米、魚介類、果物などの人気ジャンルは、ふるさと納税の達人・金森重樹さんが選んでくれた。欲しい特産品があったら、年内に申し込んで早速寄附をしよう!

<人気自治体ランキング>
ふるさと2ランキング







【第1位】鳥取県米子市
●最低寄附金額:3000円〜
●豊富で多彩な特産品で人気ナンバーワン自治体!
1万円以上の寄附で選べる特産品数は63品と非常に豊富で、肉は鳥取県産ポークロゼや、大山ハム、大山地鶏、鳥取和牛、トトリコ黒豚などバリエーションも多彩なのが人気。3000円以上のふるさと納税をした人全員に、どらやきや栃の実茶などが入った地元特産品等13品のセット「米子市民体験パック」が贈呈されるのもうれしい。

【第2位】佐賀県玄海町
●最低寄附金額:5000円〜
●玄海の旬な特産品がもらえるプレミアムプランが人気
海産4種を詰め合わせた「玄界灘の恵」や、「玄海町産黒毛和牛」が1万円以上の寄附でもらえる。また、10万円以上の寄附者に玄海町の旬の特産品が毎月1回、1年にわたって届く「Premium GENKAI」には申し込みが殺到している。3万円以上の「山の幸ギフト」「海の幸ギフト」も最上級佐賀牛や、とらふぐと真鯛のセットなどが届くとあって人気。

【第3位】宮崎県綾町
●最低寄附金額:1万円〜
●“有機農業の町”綾町でつくられた安心な特産品
宮崎牛のなかでも稀少な「綾牛」は供給量を上回る申し込みのため、現在受け付けを停止する人気ぶり。「綾ぶどう豚」の食べ尽くしセットも発送まで2〜3カ月以上かかるという。ほかにも地元産米「綾っ子」10kgや、4〜6月発送の「完熟マンゴー」2玉、「綾ワイン&ささみの燻製のセット」など、食材への安心感が高い綾ブランドの品が多数ラインナップ。

【第4位】北海道上士幌町
●最低寄附金額:1万円〜
●十勝ナイタイ和牛で知名度を上げた上士幌町
上士幌町で特に人気は、「ナイタイ高原牧場」にちなんで名付けられた上士幌町産の和牛「十勝ナイタイ和牛」と「十勝ハーブ牛」。すき焼き、しゃぶしゃぶ、焼き肉、ステーキと種類も豊富。ほかに、じゃがいもなどの野菜や豆類、はちみつ、ジェラートなどの酪農製品も評価が高い。寄附のたびに何度でも特産品がもらえる自治体としても押さえておきたい。


取材・文/横山 薫

(『宝島』2015年1月号より一部抜粋)
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