2014年11月

海外に「愛人村」、吉原は中国人バブルetc… 世界を席巻する中国富裕層の「変態セックス」事情

中国人富裕層――。バブルは終わったといわれているが、その数は増え続けている。資産1億円以上の富裕層世帯は、2013年で238万世帯。日本の2倍、米国に次ぐ世界2位の数を誇る。莫大なカネを手にした富裕層たちの歪んだ欲望が、中国という国の「品性」を今、映し出している。

中国1エキスポ<写真>
今年4月、上海で行われた「アダルト・エキスポ」の模様。寝た子を起こしたら、とんでもない暴走を始めた(写真/Imaginechina/アフロ)



 昨年夏から中国でひそかに話題になっている風俗がある。それは、産後で母乳のよく出る女性の乳を、赤ん坊の気分になりきって吸うことができる「授乳風俗」。本格的な赤ちゃんプレイといったところだが、なぜ、このような風俗が誕生したのか。
『中国のヤバい正体』(大洋図書)の著者、中国人漫画家の孫向文氏がこの奇妙な風俗の成り立ちを説明する。
「2008年、粉ミルクからメラミンが検出され、中国国内で4人の乳児が死亡し、5万4000人が腎臓結石の被害を受けました。その後、粉ミルクへの不満が高まり、乳のよく出る女性には、母乳が必要な家庭のために分け与える仕事が生まれました。そこに目を付けたのが深圳(しんせん)の商人で、彼らは“大人向けの母乳提供サービス”を思いついたんです」
 このサービスがネット上で発表されるや、国民は「破廉恥すぎる、モラルの低下も甚だしい」と大反発。その一方、一部の者たちの心を鷲づかみにした。
「その業者は国民の反発に怖気(おじけ)づいて撤退しましたが、その後、ある共産党員が授乳女性をネットで募ったりしました。彼はひそかに授乳パーティをやろうとしたようです。さらに今年6月、もうほとぼりが冷めたと思ったのでしょう、授乳風俗店が正式に深圳でオープンしました」(同前)
 店のサービス料金は日本円で1時間2万円程度。中国都市部の平均的な月収は6万円程度なので、かなりの高額といえる。もちろん庶民が手を出せる額ではない。これは、中国国内で急増する富裕層をターゲットにした“風俗ビジネス”だった。
 米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によると、中国の富裕層(流動資産が100万ドル=1億円以上)の数は今や日本の2倍以上。ここ数年、年率15%以上の割合で増加している。そんな膨張する資産に比例して、彼らのいびつな欲望も底なしに拡大している。前述の授乳サービスはほんの一例でしかない。
 日本の大手電機メーカー広東支社に勤務する島田隆弘さん(仮名)が半ば呆(あき)れながら語る。
「実質、中国は一夫多妻ですよ。官僚を中心として、力のある人はたいてい愛人を侍(はべ)らせています。僕が仲良くしている広州の国営企業の中国人社長は4人の秘書がいます。その4人とも愛人で、それぞれにマンションの部屋を与えていますね」
 中国政府系メディア『人民論壇』によれば、2010年に調査や処分を受けた腐敗幹部の95%に愛人がいたと報告された。5人以上の愛人を持つケースもザラで、江蘇省建設庁庁長だった徐其躍に至っては146人もの愛人の存在が確認された。愛人を所有することは成功者のステータス。収入が増すたびに車を買うようにして愛人を侍らせていくのが中国社会なのだ。

■海外に会社を設立、愛人を役員に
中国2いい女 島田さんは、その広州の社長の乱れきった下半身のエピソードを暴露する。
「以前、その社長と日本のAVの話で盛り上がったんですが、そのとき彼は自慢げに語っていました。なんでも週末になると、4人の愛人をマンションの一室に呼び寄せ、5Pセックスをするみたいですね。彼が一番自分の権力を実感できるのは、4人を一斉に四つん這いにさせて1人ずつ順番に入れていくときみたいです。あと、金持ち同士でお互いの愛人を持ち寄って乱交パーティすることもあるようですね」
 なお、愛人募集の際は、経営者であれば秘書を募るのが一般的。それ以外だと、ミスコンのスポンサーになり、参加女性の中で気に入った女性と連絡を取り合う者や、はたまた「10万元(約160万円)で自宅の猫と遊んでくれる美女を募集」と告知を出した大富豪もいた。さすがに表立って愛人を募ることはできないが、いくらでも抜け道はある。
 しかし、こうして性を謳歌(おうか)しているのはごく一部の金持ちでしかなく、庶民は、その割りを食っている。都内の日本語学校に通う蔣正銘(ショウ ショウメイ)さんは忌々しげに語る。
「習近平政権になってから、汚職を厳しく取締まるようになった。だから、腐敗官僚がたくさん捕まっています。最近は、扱われ方に不満を持つ愛人が、密告するケースも増えています。ざまあみろですよ。中国女性はだいたい打算的で金のある男にすり寄る。貧乏人の男と結婚するぐらいなら金持ちの愛人のほうがいいと考えるんです。だから、金のない男は今、中国では本当に結婚できません」
 一人っ子政策を実施している中国においては、お腹(なか)の子が女児だと判明すると堕胎するケースが多く、人口比は男が117に対して女は100となっている。しかし、一部の金持ちがいい女を独占するため、多くの中国人男性があぶれてしまっているのだ。そして、蔣さんが何よりも富裕層に対していら立ちを覚えるのは、その売国行為にあるという。
「汚職で私腹を肥やしてきた官僚とかが、その金で海外に会社を設立している。そして愛人を会社の役員などで登用しているんですよ。ゆくゆくはあいつらも海外の永住権を取得して中国から去りますよ。僕ら貧乏人から搾り取った金は全部、中国に還元しないで海外に流れていくんです」
 ロサンゼルスやカナダのトロントでは、ここ数年で中国の高級官僚たちが名だたる高級住宅地を買い漁った。彼らは愛人に別荘の管理をさせており、この地域は地元で「愛人村」と呼ばれている。
 大気汚染や食の汚染、不動産バブルの終焉(しゅうえん)、習近平の汚職の取締まり強化を考えると、彼らにとって今後も中国にとどまり続けることは賢い選択ではないのだろう。

■不況の吉原を救った中国マネー
 中国人富裕層の欲望の矛先は、この日本にも向けられている。反日のお国柄でありながらも、中国国内で日本は屈指の人気観光スポットになっている。とりわけ今年はアベノミクスによる円安効果で、中国人観光客は前年比で70%増が予想されている。日本へ観光に来るのは中産階級以上だ。
 都内の高級デリヘル(90分6万円)の店長Sさんは、中国人の経済力を肌身に感じている。
「風俗サイトの運営会社から、『中国人観光客に向けた中国語サイトを作るけど、中国人対応は大丈夫ですか?』って尋ねられたから、オーケーと答えたんです。そしたら、1カ月後には半分以上の客が中国人になった(笑)。あわてて中国人留学生を電話対応に雇ったね」
 店の女のコたちは当初、中国人を相手にすることを嫌がっていた。実際、顔射されたり、生で挿入されそうになったりとトラブルは絶えなかったという。ただ、中国人富裕層の中には金離れのいい者も多くて、チップも弾んでくれることから、むしろ率先して中国人客を相手にしたいと考える女のコもいるそうだ。
 そして、中国人観光客の恩恵を最も受けている風俗スポットは吉原だといわれる。バブル崩壊後は4万円以上の中流店が軒並み売上げを落とし、2万円以下の激安店が続出したが、そんななか救世主として登場したのが中国人だった。もともと吉原は「外国人お断り」の店が多かったが、不況の今はそうも言ってられず、多くの店が外国人客を受け入れている。
「中国でも、吉原こそ日本最高の風俗スポットだという情報は知れ渡っています。金持ちだったら、せっかくの思い出づくりなので、安いところじゃなくて、高級店を選ぶと思いますよ」(前出・孫向文氏)
 吉原の高級ソープ店に勤める元企画系AV女優のKさんは、これまで20人近くの中国人客を相手にした。
「中国人客は、日本人と違って、ソープのマットサービスに慣れていません。抜き挿しだけの淡白なセックスしか知らない。だから、ローションを塗りたくってマットサービスしたら大興奮するんです。挿入した頃にはもう破裂寸前で、すぐにイッちゃいます。日本人客よりも挿入時間が短くて楽ですね。でも言葉も通じないし、なかには暴力的な人もいるから怖いこともあります」

■AV女優に一晩1000万円を提示
 吉原以上に中国人の心を捉えて離さない存在が、AV女優である。中国はポルノが違法というお国柄もあって中国産AVは生産されていない。そこで中国国民は、ネットなどに違法アップロードされた日本産のAVを観ている。日本のAV関係者は、そんな中国でのAV人気に乗じて中国マネーを取り込もうと躍起になっているのだ。
 中堅どころのAV事務所のマネジャーHさんは、中国でのアダルトビジネス事情を教えてくれた。
「うちも中国では撮影会をやったり、AV女優だけの歌のユニットを結成してライブをやったりしています。日本だと、ろくに客が入らなくても、向こうだとAV女優というだけで客が殺到するんです。時には中国側のイベント運営者から『AVのコを一晩買いたい人がいる』と相談を受けることもありますよ。ただ、AV女優は一般人相手に体を売る仕事じゃないので、うちは受けていません。一晩の額は1000万とか提示されたこともありますけどね。特にマカオでのイベントの際は、中国の富裕層がたくさん集まってくるので、あり得ない額を出してきます」
 マカオは、今やラスベガスの5倍以上もの市場を誇る世界最大のカジノスポットだ。収益金の8割はVIPルームの客が落としているといわれており、最低賭け金が2500万円のテーブルも存在している。もちろん、中国人富裕層も多く存在する。そんな桁外れの金持ちにしてみれば、一晩1000万円も格安なのかもしれない。ちなみに、中国にもいくらでも美人はいるはずだが、日本人女性の何が受けるのか。
「確かにスタイルとかルックスでいうと、中国人女性のほうが上でしょう。バストも大きいし、足も長いし、目鼻立ちの整った170センチ以上の美女がそこら中にいる。でも、中国にはかわいいという概念がない。日本のアイドルみたいにほほ笑んだり、かわいらしい仕草とか声色を使えない。かっこよく見せようとする意識は強いけど、かわいらしいメイクも全然できないんです」(同前)
 今や世界を席巻する日本産の「kawaii」は、中国人に対しても絶大な効力を発揮しているようだ。
 先月8日、中国が今年、GDPで米国を追い抜いて世界1位になるとの試算が国際通貨基金(IMF)によって発表された。どこまでその成長が続くかは定かではないが、中国人富裕層の性的欲望はしばらく収まりそうにはない。

取材・文/井川楊枝


(『宝島』12月号より)

中国3AV女優<写真>
上海のセックス産業展示会に出演した日本のAV女優。AV女優がいると人の集まり方が違うという(写真/アフロ)

全国に残りわずか2館! エログロの殿堂「秘宝館」が絶滅の危機・・・

 実際に施設を見た読者はもう少ないかもしれない。あるいは父親のアルバムに貼ってある記念写真で見ただけ、という世代の方もいるのではないか。70年代から80年代にかけ、全国の温泉場や観光地に続々と建設された巨大なエロスの殿堂「秘宝館」。それが今、絶滅の危機にある。

秘宝館1ハーレム<写真>
嬉野武雄観光秘宝館の7000万円かけた「ハーレム」。宮殿と噴水の中で全裸の男女が交歓する巨大パノラマだが、閉館とともに破壊された。




■残りはわずか2館 鬼怒川秘宝殿も危ない!
 男女の肉体構造の違いや生殖の神秘、そして各地に点在する性的風習、民芸。それらを立体造形物にして巨大な建物の中でパノラマ的に展示した施設が「秘宝館」だ。性器やセックスそのものを表現した展示は刺激的だが、大笑いできるユーモアがある。
 団体バス旅行がブームだった頃が最盛期で、全国に約20カ所あったとされる。
 しかし今年3月、佐賀県嬉野市にあった西日本最大の施設「嬉野武雄観光秘宝館」が閉館、日本に残存する秘宝館は「鬼怒川秘宝殿」と「熱海秘宝館」のわずか2館となってしまった。
「実物を見ようと考えるなら、まず鬼怒川秘宝殿に行くべきです。来館者が少なく、今もっとも閉館の危機が迫っているからです」
 警鐘を鳴らすのは映画監督の村上賢司氏。秘宝館マニアであり、これまで伊勢の「元祖国際秘宝館」や定山渓谷温泉の「北海道秘宝館」をDVDに撮った。12月には前出の「嬉野武雄観光秘宝館」のドキュメンタリーDVDが発売になる。
「経営母体がしっかりしている熱海秘宝館は新しい装置を導入するなど、リニューアルを続けていて、当分大丈夫。鬼怒川と熱海は建造に携わった会社が違うので、見比べると設計思想の違いが分かる。だから鬼怒川を見ておいたほうがいいんです」(村上氏)

■大手企業が建造に関わり女性客を重視して設計
 最初の秘宝館は1972年に造られた伊勢の「元祖国際秘宝館」だ。同館の展示物には島津製作所の子会社である京都科学標本が携わり、医学標本の精巧さが際立った。対して、後に各地に続々と作られた秘宝館の多くを手がけたのは、東宝美術部から独立した東京創研。この会社が日本の秘宝館のセンスを確立したとされる。アングラで通好みと思われがちな秘宝館が、実は大手の関連企業によって作られたのは実に興味深い。
「東京創研は『ランカイ屋』といわれる博覧会の企画・設計・施工をする会社で、大阪万博にも関わりました。70年代、全国で開催された地方博覧会の施工の合間に秘宝館を作っていたんです。だから東京創研の作った秘宝館は来場者が飽きずに見られるよう、展示順路にドラマ性を持たせて設計されてます。また東京創研は女性客を重視していました。基本的に秘宝館は女性のための娯楽施設だったんですよ。現存する熱海秘宝館はこの東京創研が設計に関わってます」(村上氏)
 
 90年代以降、団体旅行が減り、個人旅行が主流の時代になると、秘宝館は廃れていった。巨大な展示施設のメンテナンスも経営に負担だったようだ。だが、この重厚長大でエログロな娯楽施設は、間違いなく高度成長が生んだ昭和元禄のシンボルだった。
「真のクール・ジャパンだと思います。現代史の歴史的建造物として保存するべきですよ」(村上氏)
 閉館した嬉野武雄観光秘宝館の跡地は更地となり、太陽光発電施設が建設中。性の宮殿転じて無機質なソーラーパネル畑に。この転換こそ昭和と平成の文化ギャップを象徴する。


取材・文/藤木TDC 
撮影/加藤隼介

(『宝島』12月号より)


秘宝館2看板
<写真>
書体までがいかにも秘空宝館テイストな看板も貴重な昭和アートだった。




秘宝館3数々
<写真>3月で閉館した「嬉野秘宝館」展示物の数々

芸能界一の「美味しい」男、大泉洋の「うまさ」の理由 〜鹿野 淳と歩く食の獣道〜

 大泉洋が美味(おい)しい。
 もちろん彼自身が美味しいわけではない。彼が紹介する食べ物屋、食べているそのさまが美味しいのだ。
 今や国民的タレントになりつつある彼が、ドラマ以外でTVに出る時はいつも「何かを食べている」。というか、それ以外の姿をほぼ観たことがない。なぜか?
 それは大泉洋には「食べること」と「ゴルフをすること」以外の趣味や興味がまったくないからである。ゴルフも今や子供と遊ぶ時間に変わったので、食べること以外ほぼ無趣味。彼が驚くほどの量の仕事をこなせるのは、この「他にすることないから」というエネルギーがものをいっている。
 話を戻すと、彼のグルメの情報と、その影響力は計り知れない。特に北海道においては、大泉もしくは彼が在籍するTEAM NACSの公演があると、全国各地から大挙してファンがやって来て、大学時代からの大泉御用達の店、もしくは彼がリコメンドした店に開店前から長蛇の列をなす。さらにいえば、小樽や札幌の土産グルメにも「大泉洋、大推薦!」などというコメントやポップを見かけるが、これがあるとないとでは売り上げが何倍も違うという。こんな巨大な影響力を食べ物に対して持っているのは、古(いにしえ)の北大路魯山人、もしくは山岡士郎か『料理の鉄人』全盛期の道場六三郎のみではないだろうか?
 そんな大泉洋と自分は月に一度、ご飯を食べている。『MUSICA』という僕が発行している音楽雑誌で、無駄に食べ続けるという連載を4年以上続けているからだ。
 大泉が大好きすぎるほど大好きなのが「麺」だ。特にパスタ。これが出てくると、彼は麺しか見えなくなり、途端に慌て出す。麺は食べどきが大事だから、そこを逃して伸びた麺を一口たりとも食べたくないのである。ちなみに彼はドラマの撮影中も少しでも時間があれば、昼に普通に出される弁当を食べるのを断り、ロケ場所近くの美味しい店を調べ、見つけ、電話をして「25分後に到着しますので、その瞬間に出てくる感じでお願いします」と必死に頼み、火傷(やけど)をしそうなほど慌てて無心で食べ尽くし、往復50分、食事時間10分という壮絶な昼食タイムを過ごしたりする。言うまでもなく、昼休みは1時間しかないからだ。
 大泉洋は美味しい。彼は美味しくなるためには何でもするし、食事は楽しければ必ず美味しくなるという哲学を体現しているからだ。


文/鹿野 淳(しかの・あつし)●雑誌『MUSICA』を発行したり、音小屋って音楽ジャーナリスト学校始めたり、@sikappeでツイートしたり、自分の名前でFacebookもやってます。

(『宝島』12月号より)

大泉洋<写真>
大泉洋は話もうまい。どううまいのかといえば、彼自身の話も面白いが、相手の面白い部分を引き出し、そして面白がるのが本当にうまい。これは人間がモテるための一番の才能だ。だから莫大なるファンを抱えているのである。

10年で“税金”約80億円を投入!世界的批判を浴びても日本が「調査捕鯨」を続ける理由とは・・・

「このままでは鯨食文化が消滅する」──
調査捕鯨に関し、世界的な批判を浴びても政府が錦の御旗のように唱えるこの言葉。確かにその通りだろう。しかし、鯨肉販売の赤字を補塡するために多額の税金が毎年投入されているのも事実である。1人あたりの年間消費量が約40グラムしかない“日本固有の食文化”は、いったい誰のためのものなのか。

鯨1・ミンククジラ
<写真>
調査捕鯨で、北海道・釧路港に水揚げされたミンククジラ



 1人あたり約40グラム──。これが現在の日本国民の年間平均鯨肉消費量である。
 そんなまぎれもなくレアな、別の見方をすれば誰も見向きもしなくなった食材である鯨肉が、9月から永田町の自民党本部の食堂にお目見えした。鯨のひき肉を使ったカレーがレギュラーメニューとして提供されるほか、毎週金曜日を「鯨の日」とし、鯨肉を使った特別メニューが用意されるという。
 これは、「このままでは鯨食文化が消滅する」と危惧(きぐ)する二階俊博衆院議員の発案で実現したものだ。ちなみに二階氏の選挙区には、イルカの追い込み漁が国際的な批判を浴びている和歌山県太地町(たいじちょう)がある。鯨メニューが加わった初日、鯨の伝道師を自任する二階氏は、「外国人にもどっさり食わせたい」と意気込んだそうだ。
 国際社会から、日本の捕鯨に対して厳しい目が向けられている。
 3月31日、国際司法裁判所は日本による南極海での第2期南極海鯨類捕獲調査(JARPA 供砲砲弔い特羯潴仁瓩鮟个靴拭これを受け、日本政府は4月にJARPA 兇鮹羯澆靴燭發里痢中止命令は「現行計画下での捕鯨」に対するものであると解釈。2015年度には新計画のもと、南極海での調査捕鯨を再開することを決定した。
 しかし、9月18日にはスロベニアで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)の総会でも、日本の南極海での調査捕鯨の再開を先延ばしするように求める決議が採択されている。決議に強制力は伴わないものの、応じなければ「総会決議違反」との国際的批判を受けることになる。
 また、『ニューヨーク・タイムズ』は、10月13日、「日本の捕鯨の背後にある大嘘」と題する社説を掲載。科学調査の名目で行われている日本の捕鯨は、その実、商業捕鯨以外の何ものでもないと指摘している。『日本経済新聞』や『東京新聞』なども、調査捕鯨再開が国益に反するとして、再考を促す社説を相次いで掲載している。
 さらに国際司法裁判所による中止命令を踏まえ、楽天は、運営する楽天市場内での鯨やイルカ肉の販売を禁止している。
 業界紙記者が語る。
「楽天は、海外進出に力を入れているので、国際的イメージ悪化を恐れてのことでしょう。他の通販サイトや全国チェーンのスーパーでも、同様の動きが出ています」

鯨2・自民党食堂
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自民党本部の食堂で、鯨肉を使ったメニューを試食する党捕鯨議員連盟顧問の二階総務会長(右から2人目)



■世界から批判される“調査捕鯨”という詭弁
 調査捕鯨という言葉が世に出たのは、1982年、資源管理機関のIWCが、クジラが絶滅の危機にあるとして、沿岸部で行われるイルカなど小型鯨類を除き、商業捕鯨の一時停止を決議したことによる。
 この際、加盟国のうち日本、ノルウェー、ペルー、ソ連は、法的拘束力を免れるため異議申立を行っているが、その後、日本はペルーとともに、異議を撤回している。
 当時の国会答弁などによれば、アメリカが、排他的経済水域内の漁獲枠割り当て削減や、日本からの水産物輸入規制をちらつかせて圧力をかけたようだ。
 さらに、「調査捕鯨という名前さえ使ってくれれば、あとは文句は言わない」という、アメリカ側からのオフレコードの殺し文句があったともいわれている。その後、アメリカを含む世界各国から『日本の調査捕鯨は詭弁(きべん)』との誹(そし)りを受けることになるとは、日本は思ってもいなかったのだろう。いわばアメリカの口車に乗せられたわけだ。
 商業捕鯨が完全に停止された87年以来、日本による捕鯨は科学的調査という建前のもとで行われることになった。
 かつては南極海と北西太平洋に年一度ずつ、60日から70日の航海に出て捕鯨が行われていたが、3月の国際司法裁判所の判決を受け、現在は北太平洋のみで行われている。

■年間約10億円の補助を受け鯨肉を独占販売する企業
鯨3・補助金額 調査捕鯨を委託されているのは、農水省を主務官庁とする財団法人の日本鯨類研究所(鯨研)と、共同船舶株式会社だ。
 鯨研が調査、共同船舶が捕鯨と鯨肉販売業務という役割分担となっているが、両者はほぼ一心同体と見てよい。ともに東京都中央区豊海(とよみ)の同じビルの同じフロアに所在しているほか、鯨研の理事には共同船舶の社長も名を連ねている。
 捕獲された鯨は、鯨研による生体調査の後、共同船舶が販売する。輸入分を合わせ日本に流通するすべての鯨肉の約7割が、共同船舶によって販売されたものだ。価格の設定も共同船舶に任されている。建前はあくまで年間45億円〜50億円の費用がかかるとされる調査費の回収である。
 しかし近年、鯨食文化の衰退により消費量は減少。販売収入は縮小の一途をたどっており、2005年以降、調査捕鯨事業は赤字に陥っている。かつて50億円〜60億円あった鯨肉の販売収入は、10年度には約45億円に減少。 さらにシーシェパードによる妨害が激化した11年度は約28億円にとどまり、11億3306万円の赤字となっている。
 この赤字分の埋め合わせは、税金によってまかなわれてきた。ここ数年は、鯨研に名目は変われど10億円近くの国庫補助金が毎年付けられているのだ。
 さらに12年度には、東日本大震災の復興予算として、約23億円が調査捕鯨費およびシーシェパードによる妨害対策費として計上され、そのうち約18億円が鯨研にわたっている。予算を計上した水産庁の言い分では、「鯨肉の水産加工の盛んな石巻市周辺に、南極海の鯨肉を安定供給することで復旧・復興につながる」のだというが、地元からは「何の恩恵もない」と不満の声が上がった。
 調査捕鯨が赤字に転落した05年以降の10 年間で、ざっと計算しても約80 億円規模の税金が投入されたことになる。

■ODAが交換条件日本の買収工作疑惑
 それだけではない。調査捕鯨継続のための、公表されていない支出も存在する。
 10年6月、英紙『サンデー・タイムズ』はIWC加盟国に対し、日本が買収工作を行っていたと報じた。
 同紙によれば、記者が反捕鯨活動家を装い、捕鯨賛成国の高官に支援と引き換えに捕鯨に反対するよう打診。すると、ギニアやコートジボアールを含む複数国の高官が、日本からの「支援」と引き換えに、賛成派に回る取引を行ったことを明らかにしたとしている。タンザニアの高官に至っては、アゴアシ付きの日本旅行に加え、コールガールの手配も約束されたという。
 こうした日本の票買い疑惑はIWCでも問題視され、11年以降は加盟国が支払う分担金の支払いを、銀行送金のみとする防止策が採用された。
 日本が捕鯨支持を取り付けるために行ったとされる買収疑惑はほかにもある。IWCに加盟する88カ国のうち、捕鯨に反対している国は49カ国。持続可能な利用を支持している国は、日本を含め39カ国である。
 ところで、賛成国の中には、アンティグア・バーブーダやドミニカのように、日本の政府開発援助(ODA)の一環である水産無償資金協力として、多額の供与を受けている国々が名を連ねているのだ。反対国と支持国では、一国あたりの平均供与額に2倍以上の開きがあるという指摘がある。
 05年までの約18年間、日本がアフリカやカリブ海諸国などの高官に対し、捕鯨支持と引き換えの水産無償資金協力を持ちかけていたという関係者の証言が報道されたこともある。

鯨4・IWC総会
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今年9月、スロベニアで行われたIWC総会で発言する森下丈二日本政府代表(中央)



■調査捕鯨は役所の利権天下りポストは年収1200万
 では、ここまでして日本が捕鯨にこだわる理由は何なのか。
 現在、日本国内の年間鯨肉消費量は約5000トン。しかし、約4000トンが在庫として冷凍保存されている。さらに、今年5月にはアイスランドから約2000トンの鯨肉が輸入されている。これだけあれば、すぐに「鯨肉が食べられなくなる」という心配はなさそうだ。
「鯨の資源管理に関する科学的データの収集」という調査捕鯨の本来の目的にしてみても、国際的な連携を図りながら行うべきで、これだけ孤立を深めながら続ける意味があるとは思えない。また、科学的調査には、その結果として論文が発表されることが通常だが、国際的に認められている査読論文は調査捕鯨開始以来28年間でわずか数本しかない。
 ここまで書けば、もうおわかりだろう。調査捕鯨は水産庁、農水省の利権と化しているのだ。
 鯨研の直近5年の役員人事を見ても、元水産庁次長が理事長を務めるなど、水産庁からの天下りが複数認められる。彼らの待遇を見てみると、理事長が年収1242万円、現在5人いる非常勤の理事にも年俸1050万円が支払われているのだ。これに加え、退職時には勤続年数に応じ数百万円から数千万円が退職金として支給されている。とても万年赤字の財団法人とは思えない厚遇である。
 共同船舶にしてみても、鯨研ほか、農水省を主務官庁とする5つの財団法人が97%の株式を保有しており、純粋な民間企業とは言いがたい。鯨研以外の株主財団法人の役員にも、これまでたびたび水産庁、もしくは農水省のOBが名を連ねてきた。
 無論、「牛はよくて鯨はダメ」というのは皆目おかしな話である。しかし、役人の天下り利権や省益のために、調査捕鯨という詭弁に白々しく乗っかり続けるのは愚かだ。税金の無駄遣いを放置し続けることになるのはもちろん、日本は国際的に孤立を深めることにもつながる。
 そもそも、調査捕鯨によるデータの収集は、商業捕鯨再開を前提にして行われてきた。しかし、ある水産加工メーカーの社員はこう話す。
「商業捕鯨が再開しても、鯨ビジネスにかかわりたい企業がいるかどうか。国際企業は、海外でのイメージ悪化も懸念材料だし、なにより食の需要が見込めないのではしょうがない」
 鯨食が日本固有の文化であることは間違いない。しかし、もはや食の需要が見込めないというのなら、自然淘汰(とうた)の原理に任せてもよいのではないか。


取材・文/奥窪優木

(『宝島』12月号より)

溶けていく文系エリート!朝日が、「メディアの東大」「朝日人」と呼ばれた理由

戦後長らくジャーナリズムの頂点に君臨し続ける朝日新聞。その「ブランド力」の源泉はどこにあったのか。就職難易度「日本一」とも言われたインテリ企業の底力を分析する。

■知識人の読む新聞 意思決定層が支持
 今年の春、朝日新聞社に入社した新入社員78人(うち編集部門は53人)のうち、東大生が1人もいなかったというニュースは、ある種の驚きをもって業界に受け止められた。
 昭和の時代、朝日新聞の人気は全国紙のなかでも別格だった。難関大学並みのペーパーテストと面接をクリアするのは東大生が多く、記者職の3分の1は東大卒、といった年も珍しくなかったという。
「官僚人脈や金融界など、エスタブリッシュメントへの取材に“東大閥”は有効に機能しました。東大在学中に文藝賞を受賞し作家デビュー、それでも朝日に入社し最後は編集局長をつとめた外岡秀俊さんのように、東大生で、大企業に内定したり、司法試験や国家公務員擬鏤邯海帽膤覆靴燭蠅靴涜召離┘蝓璽肇魁璽垢砲眇覆瓩襪里法△修譴任眥日新聞がいい、といってやってくる人材がたくさんいた。それだけブランド力があったと思うし、実際、ある時代は商社や銀行マンより自分たちのほうが上だと思う意識は“朝日人”のなかにあったと思います」(ある朝日OB)
朝日はメディアの東大2 朝日新聞の歴代社長は政治部長と経済部長の「たすきがけ人事」が続いた時期があるが、学歴を見るとやはり東大あるいは国立大学出身者が多い。
 リクルートリサーチが調査した1965年から1991年までの「就職人気総合ランキング」で、27年間を平均し朝日新聞は全ての日本企業のなかで8位にランクインしている。
 1位から7位までは大手商社や銀行だが、これらは採用人数も多く、就職難易度では朝日がダントツの1位だ。もちろん、メディアのなかでもトップである。
「巨人で売っている読売や、経営が危ない毎日、経済紙の日経、右翼の産経より、やっぱり朝日が格上でカッコいいなと。たとえ朝日に入社できなくても、中途入社でもいいから朝日に行きたいという記者がいっぱいいました。『天声人語』は名文であるから読みなさい、と小学校でも教えていた時代ですし、何より裕福な家、インテリの家ではまず朝日をとっていた。朝日新聞が、海外の高級紙と呼ばれる新聞と提携していたことも大きく、語学を得意とする国際派の学生は、どうしても朝日で特派員をやりたいというタイプが多かった。なにしろ、内側から見ていても多士済々で華やかでしたよ」(同)
 どんな地方の支局へ出ても、朝日新聞の名刺を出せばどこでも「凄いですね」と褒め称えられる。権力を監視するジャーナリストでありながら、一部上場企業以上の高給と、ブランドイメージを付与された特権階級――それがある時代までの朝日新聞記者だった。
「新聞の購読者の年収や金融資産を調べる調査で、朝日はずっと読売、毎日を大きく離し2位です。1位の日経は、経営者層が多く含まれる関係で数字が押し上げられている事情があり、実質的な日本のクオリティ・ペーパーが朝日と言われてきたゆえんです。媒体資料によれば朝日新聞の読者の平均金融資産は1733万円で、読売とは300万円近い差があるし、個人年収でも1000万円以上の割合が2.3%(読売、毎日は1.3%)と多い。広告単価にしても、朝日と産経では倍以上違うが、効果はそれ以上に違う」(大手広告代理店関係者)
 日本の意思決定層へのリーチがダントツに高かったのが朝日新聞だったことは間違いない。週刊誌メディアの「朝日批判」が、他紙への批判と比べ圧倒的に多いのも、朝日新聞がジャーナリズムの権威として認知されてきた反証に他ならないのである。

■「ホンカツ教徒」を生んだ本多勝一氏の功罪
 1970年代以降、朝日新聞のブランド形成に大きく寄与したのがOBでジャーナリストの本多勝一氏だ。
 東大こそ出ていないが、京大探検部で鍛えた体力と好奇心で世界を飛び回り『カナダ=エスキモー』『ニューギニア高地人』『アラビア遊牧民』といった名作を発表、ジャーナリズムと文化人類学を融合させた独自の境地を切り開いた。
「ベトナム戦争報道でも活躍した本多さんの一連の著作は、当時新聞記者を目指す学生たちのバイブルだった。朝日新聞の面接に来る学生の8割は本多さんに何らかの形で影響されており、それは90年代まで続いたように思います」(元朝日新聞記者)
 あまりに本多氏の影響力が強かったため、朝日社内では「ホンカツ症候群」と言って「信者」を毛嫌いする幹部も少なくなかったと言われるが、当の本多氏はいま、朝日新聞の慰安婦報道のあおりを受け、過去の南京大虐殺に関する書物をマイナスに再評価されてしまっている。
朝日はメディアの東大3「本多氏のほかにも、キャスターに転身した筑紫哲也氏や女性記者の松井やより氏、天声人語の執筆を担当した知性派記者の深代惇郎氏、辰濃和男氏など、その名文に憧れて朝日を目指し、入社した人がどれだけ多いか分からない。しかし、いつの時代からか記者たちに驕りが生じて、尊大な社風だけが残ってしまったのかもしれません。だとすれば反省しなければならない」(前出の朝日OB)
 袋叩きにあっているいまの朝日を擁護する声は少ないが、それでも700万部以上(ABC協会調べ)の新聞が毎日日本で読まれているとされる新聞である。
「廃刊」を訴える保守言論人もいるが、日本の知性と信じられてきた朝日新聞の消滅を望まない人が多いのも事実である。


(『宝島』12月号より)

文/千葉哲也


朝日はメディアの東大4<写真>
朝日新聞の入社式。社名をつけた「朝日人」という言葉があるのは新聞社でも朝日だけだ
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