■5つのカルデラ火山に近いルール無用の川内原発
火山学者の唱える科学的知見に目をつぶっているのは、何も「山が好きな人たち」ばかりではない。
九州電力・川内(せんだい)原発1、2号機の再稼働をめぐる原子力規制委員会の安全審査では、火山のことが俎上(そじょう)に載せられた。原発の規制基準では半径160キロメートル圏内にある火山を検討の対象にしており、川内原発の場合、その対象となる火山が39もあり、過去に巨大噴火を起こした5つのカルデラ火山まである(【図1】)。
そのうち3つの火山について、噴火に伴う火砕流(かさいりゅう)が原発の立地する場所にまで達していた可能性を、九州電力でも認めている。1000度近くにも達する高温の火砕流が時速100キロメートルで原発を襲った場合、防御するのはまず不可能だ。
そこで九州電力は、観測によって巨大噴火の兆候をとらえ、巨大噴火を「予知」した場合は原子炉を止め、5年間かけてすべての核燃料を原発の敷地から運び出すのだという。
この「火山噴火対策」は、5年後の巨大噴火を予知した場合を前提にしている。しかし、これまでに噴火の予知に成功した例(2000年の北海道・有珠山の噴火)を見ても、予知できたのは噴火のほんの数日前のことだ。たとえ予知に成功しても、核燃料を運び出すのに5年もかけていたら、とても間に合わない。それに、核燃料を運び出した場所が火砕流の及ばないところでなければ、運び出した意味がなくなる。運び出す場所はまだ決まっておらず、とても「対策」と呼べるようなシロモノではない。
今年8月25日に開かれた原子力規制委の会合では、火山学者たちも一斉に異議を唱えていた。
「巨大噴火の時期や規模を予測することは、現在の火山学では極めて困難、無理である」(東京大学地震研究所の中田節也教授)
「異常現象をつかまえた時に、それが巨大噴火に至るのか、小さな規模の噴火で終わるのか、判断基準を持っていない」(火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長)
しかし、原子力規制委は火山学者の警告に目をつぶり、九州電力の案を「火山噴火対策」として十分であると認め、川内原発の再稼働を許可していた。
ちなみに、原発の憲法とされる「原子炉立地審査指針」には、こう書かれている。
「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するような事象も少ないこと」
過去に火砕流が到達したことのあるようなところには建てないというのが、そもそものルールなのだ。つまり川内原発は、建ててはいけない場所に建てられた原発だった。
予知できようとできまいと、地震や火山と上手に付き合いながら生きていくほかないのが、地震国であり火山国でもある日本の宿命だ。それに、【図2】に示すとおり、日本の火山はこんなにいっぱいある。火山活動と全く無縁で済みそうな地域は、恐らく日本のどこにもない。となれば、火山学者の発する警告に謙虚に耳を傾けるほかに、日本が生き延びる道はない。なので、火山学者の皆さんも、少々無視されたくらいで諦(あきら)めたりせず、繰り返し警告を発してほしい。甚大な被害が発生した後になって自身の“先見の明”をひけらかされても、何の防災効果も発揮できないのだから。
取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)
(記事全文は『宝島』12月号に掲載)
<写真>
再稼働に向けて国が舵を切った川内原発。5つのカルデラ火山の危険にさらされている
火山学者の唱える科学的知見に目をつぶっているのは、何も「山が好きな人たち」ばかりではない。
九州電力・川内(せんだい)原発1、2号機の再稼働をめぐる原子力規制委員会の安全審査では、火山のことが俎上(そじょう)に載せられた。原発の規制基準では半径160キロメートル圏内にある火山を検討の対象にしており、川内原発の場合、その対象となる火山が39もあり、過去に巨大噴火を起こした5つのカルデラ火山まである(【図1】)。
そのうち3つの火山について、噴火に伴う火砕流(かさいりゅう)が原発の立地する場所にまで達していた可能性を、九州電力でも認めている。1000度近くにも達する高温の火砕流が時速100キロメートルで原発を襲った場合、防御するのはまず不可能だ。
そこで九州電力は、観測によって巨大噴火の兆候をとらえ、巨大噴火を「予知」した場合は原子炉を止め、5年間かけてすべての核燃料を原発の敷地から運び出すのだという。
この「火山噴火対策」は、5年後の巨大噴火を予知した場合を前提にしている。しかし、これまでに噴火の予知に成功した例(2000年の北海道・有珠山の噴火)を見ても、予知できたのは噴火のほんの数日前のことだ。たとえ予知に成功しても、核燃料を運び出すのに5年もかけていたら、とても間に合わない。それに、核燃料を運び出した場所が火砕流の及ばないところでなければ、運び出した意味がなくなる。運び出す場所はまだ決まっておらず、とても「対策」と呼べるようなシロモノではない。
今年8月25日に開かれた原子力規制委の会合では、火山学者たちも一斉に異議を唱えていた。
「巨大噴火の時期や規模を予測することは、現在の火山学では極めて困難、無理である」(東京大学地震研究所の中田節也教授)
「異常現象をつかまえた時に、それが巨大噴火に至るのか、小さな規模の噴火で終わるのか、判断基準を持っていない」(火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長)
しかし、原子力規制委は火山学者の警告に目をつぶり、九州電力の案を「火山噴火対策」として十分であると認め、川内原発の再稼働を許可していた。
ちなみに、原発の憲法とされる「原子炉立地審査指針」には、こう書かれている。
「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するような事象も少ないこと」
過去に火砕流が到達したことのあるようなところには建てないというのが、そもそものルールなのだ。つまり川内原発は、建ててはいけない場所に建てられた原発だった。
予知できようとできまいと、地震や火山と上手に付き合いながら生きていくほかないのが、地震国であり火山国でもある日本の宿命だ。それに、【図2】に示すとおり、日本の火山はこんなにいっぱいある。火山活動と全く無縁で済みそうな地域は、恐らく日本のどこにもない。となれば、火山学者の発する警告に謙虚に耳を傾けるほかに、日本が生き延びる道はない。なので、火山学者の皆さんも、少々無視されたくらいで諦(あきら)めたりせず、繰り返し警告を発してほしい。甚大な被害が発生した後になって自身の“先見の明”をひけらかされても、何の防災効果も発揮できないのだから。
取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)
(記事全文は『宝島』12月号に掲載)
<写真>
再稼働に向けて国が舵を切った川内原発。5つのカルデラ火山の危険にさらされている