3月26日のヨルダン戦に勝てばW杯出場が決定する日本代表。“史上最強”とも言われる現代表だが、
別冊宝島『サッカー日本代表「史上最強」のウソ』で、セルジオ越後氏はこの強さは“まやかし”だと
インタビューに答えている。その一部をお届けしよう。
■過剰評価されている「海外組」ブランド
日本では、日本代表や日本代表選手たちが、まるでアイドルのように扱われている。アイドルの
ようにというのは、つまりよいところしか見せないということ。とくに海外でプレーしている選手は
その傾向が顕著でしょ。夜のスポーツニュースを見ていても、映されるのはいいプレーばかり。
所属しているチームの成績とか、やっているサッカーの質などには目が向けられていない。
こうして「海外組」というブランドが作られ、とにかく煽りまくる。一つの商品として徹底的に
持ち上げられる。テレビでそんなシーンばかり見せられたら、まるでドイツは日本人を中心に
回っているような錯覚を起こしてしまうかもね。ある瞬間、ある局面では、確かにそういうところも
あるかもしれない。けれど、全体で見れば日本人選手の活躍などほんの一部でしょ。それをことさらに、
それだけを報じることによって、実際の価値よりも随分高いものであるという見せ方をしてしまう。
ここにも「史上最強」を作ってしまう大きな原因がある。
現在、本当の意味でトップレベルのクラブにいるのはマンチェスター・ユナイテッドの香川と
インテルの長友の2人だけでしょ。香川はケガをしている間に完全にポジションを失っているから、
コンスタントに活躍しているのは長友だけ。本田がロシアから出られないのはチームのプロテクトが
強いのも確かかもしれないけど、何より17億円レベルの移籍金を払うに値する選手だと思われて
いない、ということを忘れちゃいけないよ。
海外でプレーしている日本人選手の主戦場はトップとは言い難いドイツやオランダのリーグ。ドイツは
国としては強いですが、ブンデスリーガの中で強いチームといえばバイエルンを筆頭にごく限られた
数チームしかいないし、そういうところで活躍しているからといって、「大活躍」と報じられてもね。
清武もきれいなゴールを決めたといって日本のスポーツニュースでバンバン報じられたけど、
どういう相手に対して奪ったゴールか、という部分はまったく抜け落ちている。それではそのゴールの
本当の価値というものが見えてこないでしょ。ためしに、ブンデスリーガの他の選手を編集して
ダイジェストにして放送してみるといいですよ。そうすれば、大活躍と言われている日本人選手の
立ち位置がそれほど高いところにはないというのがよくわかると思いますよ。
香川にしても、マンチェスター・ユナイテッドに移籍したといって騒がれる。そこで騒ぐのはいいけれど、
移籍したからといって「スーパー」かといえばそうじゃないでしょ。要するに実力よりも、周辺情報が
先にフィーチャーされてしまっている。実際、香川は加入してからほとんど輝きを見せられていない。
それは、最後は個の力で打開するというあのチームのサッカーの中で目立てないということ。香川が
ケガした後は、ウェイン・ルーニーとロビン・ファン・ペルシー(11─12シーズン、プレミアリーグ得点王)
のコンビネーションが確立されてきている。要するに、香川は生かされるタイプということなんですよ。
どんな環境でも自分の力で生きられるほどのレベルにはないし、それが日本人選手の「現在地」
とも言えるでしょうね。ファン・ペルシーのように自分で打開できる日本人選手がまだいない。
そういう「スーパー」なレベルの選手が出てきてはじめて、騒ぐべきじゃないかな。
■ザックはあくまでも“クラブチームの監督”
ザッケローニはこれまでクラブの監督しか経験がない(注2)。そして、この日本代表でも
《クラブチーム》を作ってしまった。つまり「ザックジャパン」というクラブチームですよね。固定化した
メンバーで、少々意地悪く言えば、まるで彼の草サッカーチームのよう。そもそも、代表チームに
監督の名前を冠するのは日本のメディアだけ。オフトジャパン、トルシエジャパン、ジーコジャパン・・・。
日本代表チームではなく、監督のチームということにしてしまう伝統だから「メンバー固定化」といった
問題も致し方ないような気がしますけどね。
この不動のメンバーで2014年までもつかと言われれば、ある意味では「もつ」とも言える。
ある意味というのは文句を言う選手がいないということ。ジーコのときには、メンバーに招集されても
起用されなかった故・松田直樹が怒って合宿途中で帰るという一件もあった。日本ではああいう選手は
なかなか出てこない。みんな、土下座してでも代表でプレーしたい、代表に入りたいと思っているような
状態ですからね。
これは一つに、上司や目上の人に対して「逆らわない」という日本の文化に起因していることかも
しれない。文句を言わない。上司に面と向かって何かを言ったりやったりするサラリーマンはほとんど
いないでしょ。だから、日本では居酒屋があんなに繁盛しているんですよ(笑)。
例えば、欧州遠征のときに、佐藤寿人が呼ばれて、ハーフナー・マイクもいたにもかかわらず、
それでも本田をワントップにした。その瞬間に、「俺は帰る」と言う選手がいないということ。ブラジル
でもどこでも、使わないならそこで内紛が起きるでしょ。その前にメディアも書き立てるはずですよ。
ピッチャーがいるのに、ファーストの選手をマウンドに上げて投げさせたら、プロの世界であれば
みんな書くはずでしょ。でも本田なら大丈夫というのが、本当に理解できない。
監督や協会にとって代表はビジネスだけど、選手にとって代表選手は名誉職みたいなもの
だからね。そういう意味で、ザッケローニのメンバー固定化が、内側から崩れることはないと
思いますよ。
ただし、中核をなす遠藤保仁にしろ長谷部誠にしろ、果たして2014年の本大会のときに
どうなっているか。年齢的にはかなり厳しいものがあるでしょ。他のポジションも同じ。絶え間なき
競争と血の入れ替えによって、その「選手たち」やその「チーム」ではなく、「日本代表」という
パイを強化するという視点に立たないと、W杯の本大会で本当の意味で躍進することは
できないでしょう。
(注2)1983年に30歳でセリエCの監督に就任以来、2004年までセリエの監督を歴任。1995〜98年の
ウディネーゼ時代に結果を出し、99年ACミランで優勝。以後、ラツィオ、インテルと率いたが2004年に
解任される。06年トリノ、10年ユベントスの監督に就任するも結果は出せてない。
<なぜ本田はビッグクラブに移籍できないのか。我々は世界を知らなさ過ぎる>
別冊宝島『サッカー日本代表「史上最強」のウソ』で、セルジオ越後氏はこの強さは“まやかし”だと
インタビューに答えている。その一部をお届けしよう。
■過剰評価されている「海外組」ブランド
日本では、日本代表や日本代表選手たちが、まるでアイドルのように扱われている。アイドルの
ようにというのは、つまりよいところしか見せないということ。とくに海外でプレーしている選手は
その傾向が顕著でしょ。夜のスポーツニュースを見ていても、映されるのはいいプレーばかり。
所属しているチームの成績とか、やっているサッカーの質などには目が向けられていない。
こうして「海外組」というブランドが作られ、とにかく煽りまくる。一つの商品として徹底的に
持ち上げられる。テレビでそんなシーンばかり見せられたら、まるでドイツは日本人を中心に
回っているような錯覚を起こしてしまうかもね。ある瞬間、ある局面では、確かにそういうところも
あるかもしれない。けれど、全体で見れば日本人選手の活躍などほんの一部でしょ。それをことさらに、
それだけを報じることによって、実際の価値よりも随分高いものであるという見せ方をしてしまう。
ここにも「史上最強」を作ってしまう大きな原因がある。
現在、本当の意味でトップレベルのクラブにいるのはマンチェスター・ユナイテッドの香川と
インテルの長友の2人だけでしょ。香川はケガをしている間に完全にポジションを失っているから、
コンスタントに活躍しているのは長友だけ。本田がロシアから出られないのはチームのプロテクトが
強いのも確かかもしれないけど、何より17億円レベルの移籍金を払うに値する選手だと思われて
いない、ということを忘れちゃいけないよ。
海外でプレーしている日本人選手の主戦場はトップとは言い難いドイツやオランダのリーグ。ドイツは
国としては強いですが、ブンデスリーガの中で強いチームといえばバイエルンを筆頭にごく限られた
数チームしかいないし、そういうところで活躍しているからといって、「大活躍」と報じられてもね。
清武もきれいなゴールを決めたといって日本のスポーツニュースでバンバン報じられたけど、
どういう相手に対して奪ったゴールか、という部分はまったく抜け落ちている。それではそのゴールの
本当の価値というものが見えてこないでしょ。ためしに、ブンデスリーガの他の選手を編集して
ダイジェストにして放送してみるといいですよ。そうすれば、大活躍と言われている日本人選手の
立ち位置がそれほど高いところにはないというのがよくわかると思いますよ。
香川にしても、マンチェスター・ユナイテッドに移籍したといって騒がれる。そこで騒ぐのはいいけれど、
移籍したからといって「スーパー」かといえばそうじゃないでしょ。要するに実力よりも、周辺情報が
先にフィーチャーされてしまっている。実際、香川は加入してからほとんど輝きを見せられていない。
それは、最後は個の力で打開するというあのチームのサッカーの中で目立てないということ。香川が
ケガした後は、ウェイン・ルーニーとロビン・ファン・ペルシー(11─12シーズン、プレミアリーグ得点王)
のコンビネーションが確立されてきている。要するに、香川は生かされるタイプということなんですよ。
どんな環境でも自分の力で生きられるほどのレベルにはないし、それが日本人選手の「現在地」
とも言えるでしょうね。ファン・ペルシーのように自分で打開できる日本人選手がまだいない。
そういう「スーパー」なレベルの選手が出てきてはじめて、騒ぐべきじゃないかな。
■ザックはあくまでも“クラブチームの監督”
ザッケローニはこれまでクラブの監督しか経験がない(注2)。そして、この日本代表でも
《クラブチーム》を作ってしまった。つまり「ザックジャパン」というクラブチームですよね。固定化した
メンバーで、少々意地悪く言えば、まるで彼の草サッカーチームのよう。そもそも、代表チームに
監督の名前を冠するのは日本のメディアだけ。オフトジャパン、トルシエジャパン、ジーコジャパン・・・。
日本代表チームではなく、監督のチームということにしてしまう伝統だから「メンバー固定化」といった
問題も致し方ないような気がしますけどね。
この不動のメンバーで2014年までもつかと言われれば、ある意味では「もつ」とも言える。
ある意味というのは文句を言う選手がいないということ。ジーコのときには、メンバーに招集されても
起用されなかった故・松田直樹が怒って合宿途中で帰るという一件もあった。日本ではああいう選手は
なかなか出てこない。みんな、土下座してでも代表でプレーしたい、代表に入りたいと思っているような
状態ですからね。
これは一つに、上司や目上の人に対して「逆らわない」という日本の文化に起因していることかも
しれない。文句を言わない。上司に面と向かって何かを言ったりやったりするサラリーマンはほとんど
いないでしょ。だから、日本では居酒屋があんなに繁盛しているんですよ(笑)。
例えば、欧州遠征のときに、佐藤寿人が呼ばれて、ハーフナー・マイクもいたにもかかわらず、
それでも本田をワントップにした。その瞬間に、「俺は帰る」と言う選手がいないということ。ブラジル
でもどこでも、使わないならそこで内紛が起きるでしょ。その前にメディアも書き立てるはずですよ。
ピッチャーがいるのに、ファーストの選手をマウンドに上げて投げさせたら、プロの世界であれば
みんな書くはずでしょ。でも本田なら大丈夫というのが、本当に理解できない。
監督や協会にとって代表はビジネスだけど、選手にとって代表選手は名誉職みたいなもの
だからね。そういう意味で、ザッケローニのメンバー固定化が、内側から崩れることはないと
思いますよ。
ただし、中核をなす遠藤保仁にしろ長谷部誠にしろ、果たして2014年の本大会のときに
どうなっているか。年齢的にはかなり厳しいものがあるでしょ。他のポジションも同じ。絶え間なき
競争と血の入れ替えによって、その「選手たち」やその「チーム」ではなく、「日本代表」という
パイを強化するという視点に立たないと、W杯の本大会で本当の意味で躍進することは
できないでしょう。
(注2)1983年に30歳でセリエCの監督に就任以来、2004年までセリエの監督を歴任。1995〜98年の
ウディネーゼ時代に結果を出し、99年ACミランで優勝。以後、ラツィオ、インテルと率いたが2004年に
解任される。06年トリノ、10年ユベントスの監督に就任するも結果は出せてない。
<なぜ本田はビッグクラブに移籍できないのか。我々は世界を知らなさ過ぎる>