昨年11月、太平洋クロマグロが「絶滅危惧種」に指定されたというニュースが大きく報道された。ニホンウナギもすでに同様の指定をされており、価格的にはすでに庶民が「食べられない」レベルの超高級品となっている。しかし、これ以外にもさまざまな理由で食べられなくなる可能性のある食品が存在する。

P46-1食品リスト 2014年3月、日本による南極海での調査捕鯨が、国際司法裁判所により中止命令を受けた。日本は捕獲するクジラの頭数を13年度までの計画の3分の1となる333頭に減らすことで国際的理解を求め、15年冬から再開したい構えだが、反捕鯨団体などによる抵抗もあり、雲行きは怪しい。
 ネット通販大手の楽天も、国際的批判を恐れ、鯨肉の販売を禁止。国際展開する飲食チェーンなどにも、鯨肉メニューの提供を中止する動きが出ており、鯨食文化の消滅を危惧(きぐ)する声もある。
 しかし、近い将来、食卓から消える恐れがあるのは、鯨肉ばかりではない。
 11月、国際自然保護連合(IUCN)が公表したレッドリストに、太平洋クロマグロが「絶滅の危険性が増大している種」と定義される「絶滅危惧粁燹廚鵬辰┐蕕譴燭海箸わかった。IUCNのレッドリストは、生物種の絶滅可能性について、「絶滅」から「軽度懸念」までの8段階で評価している。これまで太平洋クロマグロは、最も低い「軽度懸念」に分類されていたが、一気に“2階級特進”となった。
 IUCNは、「寿司や刺身用に未成魚が捕獲されており、過去22年間に19〜33%減少した」として、日本食をやり玉に上げている。世界一のクロマグロ消費国である日本が名指しされたようなものである。
 とはいえ、IUCNのレッドリスト自体には法的拘束力はなく、直ちに漁獲が制限されるわけではない。しかし、今回のレッドリスト入りを機に太平洋クロマグロの保護を求める国際世論が高まれば、16年に開催予定のワシントン条約締約国会議でも議題にのぼることとなる。ワシントン条約で絶滅危惧種に指定されれば、漁獲や国際間取引の禁止という厳しい措置が取られる可能性もある。
 そうした状況を避けるため、日本や米国、EU、台湾など26の国・地域が加盟する中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)は、15年から適用する重さ30キロ未満の未成魚の太平洋クロマグロについて、02〜04年の平均漁獲量から半減させた漁獲枠に設定することを決めた。これにより、日本の漁獲枠は年4007トンとなる。
 ところが、WCPFCに加盟していながら、漁獲枠制限を免れることになったのが中国だ。水産庁資源管理部の広報担当者によると、
「中国は、WCPFCが求めるクロマグロの漁獲量を報告していなかった。そのため、中国には目標設定ができず、規制の対象から外れることになった」
 という。しかし中国では、所得の増加や日本食ブームのなか、太平洋クロマグロの消費量が急増しており、制限を免れた中国がクロマグロを乱獲、“焼け野原”となる可能性も否定できない。

■土用の丑の日には「うなぎ」ではなく「穴子」が一般化する
 同じく日本ゆかりの魚で、太平洋クロマグロより先にレッドリスト入りしているのが、ニホンウナギだ。太平洋クロマグロよりも1ランク上で、「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」と定義される「絶滅危惧IB類」に分類されている。太平洋クロマグロ同様、ワシントン条約によって絶滅危惧指定されれば、漁獲や国際間取引が禁止される可能性がある。
 しかし、そうでなくてもニホンウナギはすでに、庶民には手の届かない物となりつつあるのが現実だ。
 毎年土用の丑の日に、養殖物と天然物の価格差が伝えられるニホンウナギだが、稚魚はいずれも天然物である。
 太平洋のマリアナ海溝近くで生まれた稚魚が黒潮に沿って北上したところを、日本や中国、韓国、台湾の付近で捕獲され、そこから成魚になるまで養殖される。一方の成魚になってから捕獲されたものが、天然うなぎと呼ばれるのだ。
 水産庁の統計によると、1963年に232トンあった稚魚の漁獲量は、2014年には16トンと、長期的には激減している。天然のうなぎも1978年まで年間2000〜3000トンの漁獲があったが、2012年は165トンにまで減っている。
 総務省の統計によると、うなぎの蒲焼き(国産。天然か養殖については言及なし)の100グラムの実勢価格は、05年には600円台だったが、14年には約1200円にまで高騰している。
 こうしたなか、すでに庶民の間ではうなぎ離れが起きている。大手食品小売チェーンの社員が声を潜めて言う。
「土用の丑の日には、うなぎの価格の3分の1ほどの、穴子の蒲焼きも人気です。販売量が増え始めたのが、中国産食品への不安が高まった2013年あたりから。もともと、安価な中国産養殖うなぎの人気が高かったですが、『中国産うなぎを食べるくらいなら』と穴子を選ぶ人が増えたのでは。一方、うなぎの販売量は毎年減っているので、このままいけば5年後には両者の立場は逆転するかもしれない。ただ、うなぎの代用品となっている穴子も土用の丑の日前後には、確保が困難になりつつある」
「個体数の減少」以外の理由により、食卓から消えゆく食品もある。
 13年、良品計画が製造販売していた、無印良品ブランドの「ごはんにかける ふかひれスープ」に対し、国際動物愛護団体らがサポートする形で販売中止を求める署名活動がネット上で巻き起こった。
 彼ら、ふかひれ反対派の主張は、捕獲したサメのヒレ部分だけを切り取り、魚体を海に捨てる「フィニング」と呼ばれる漁法が横行しており、残酷であるというものだ。
 14年5月には、化粧品や入浴剤などを販売するラッシュジャパンが、「残酷なフカヒレ漁反対キャンペーン」を開始。フィニングを行っていないと主張する気仙沼遠洋漁協が、「サメ漁に対するマイナスイメージが広がる」としてこれに反発する一幕もあった。
 しかし、海外ではすでに、フカヒレ漁包囲網が広がっている。
 10年12月20日、アメリカは国内でのフカヒレ採取を目的とした漁を全面禁止としている。また同国ハワイ州では10年7月に売買を禁止する州法が施行され、カリフォルニア州では11年10月にフカヒレの売買と所持を禁止する州法が成立した。さらに同月には、カナダのトロントでも消費禁止の条例が導入された。
 また、「ザ・ペニンシュラ」やヒルトングループが世界に展開するホテルでは、フカヒレの提供を中止している。

■「食べるのはかわいそう」という感情的な国際的批判
P46-2フォアグラ フカヒレと同じく、動物愛護の観点から残酷との国際的批判にさらされているのが、世界三大珍味のひとつに数えられるフォアグラだ。
 問題とされるのは、生産過程で行われる、「ガバージュ」と呼ばれる強制給餌(きゅうじ)だ。フォアグラ用のガチョウや鴨は、生後3カ月ほどすると、ケージの中で、胃袋にまで達する管を口から差し込まれ、ペースト状の餌を強制的に注入される。12日ほどすると、肝臓は通常の10倍以上に肥大し、極度の脂肪肝となる。これが、フォアグラである。
 12年には、米カリフォルニア州で、フォアグラの生産・販売が全面的に禁止する州法が施行されている。
 また、ベアトリクス前オランダ女王は09年、宮廷でフォアグラを用いることを禁止。さらに英貴族院でも12年、院内の高級レストランからフォアグラが消えた。
 さらに、英歌手のレオナ・ルイスや映画「タイタニック」のヒロインとしても知られる、ケイト・ウィンスレットなど、セレブリティたちも、フォアグラの食用に反対する立場をとっている。
 こうしたなか、日本のファミリーマートも、14年1月に、フォアグラを使った弁当の発売を中止している。同社は、消費者からフォアグラの生産法について、残酷だという批判を受けたことを理由としている。
 ある動物愛護団体から、フォアグラ料理の提供をやめるよう、抗議を受けたというのは、都内のフランス料理店経営者の男性だ。
「郵送されてきた角形の茶封筒の封を開けると、鴨にガバージュが施されている様子や、解体されてフォアグラが採取される様子を収めた血なまぐさい写真が同封されていました。食文化に関してはそれぞれの意見があっていいと思いますが、抗議のやり方が不気味で、背筋が凍りつきました」
 男性によると、ガバージュを行わなくても、フォアグラは採取できるというが、「濃厚な味を出すのが難しく、量も取れないので価格は10倍以上になる」とのこと。
 ガバージュに対する国際的批判が高まれば、ファミレスや居酒屋などの低価格なフォアグラメニューは、間違いなく一掃されることになるだろう。
 動植物の保護や安全面を理由に、固有の食文化が否定される時、否定側からしばしば挙げられるものに「ほかにも食べるものはある」という主張がある。しかし、人間にとって食べることは、車にとってのガソリンの補給とは違う。選択の幅の広さや多様性こそが食文化の深度である。食文化の消滅にかかわる議論には慎重にならなければ、近い将来、人類がサプリメントだけで生活するような時代もやって来るかもしれない!?

<牛レバーに続き豚レバーも「禁止」へ 日本の生食文化は消滅の危機!!>
P46-3レバー 食品衛生の観点から、日本で禁止されつつあるのが、肉の生食である。
 内閣府が設置する食品安全委員会の専門調査会は12月10日、レバーをはじめとする豚肉の生食について「豚肉の生食にはE型肝炎や、細菌、寄生虫による食中毒の危険があり、禁止は妥当」とする結論をまとめた。これを受け、厚生労働省は食品衛生法の規格基準を改定し、飲食店などに非加熱の豚肉の提供を禁止する見通しだ。
 そもそも豚レバーは、2012年に生食が禁止された牛レバーの代替品として生で提供する飲食店が増えたという経緯がある。そんななか、「相次ぐ後出しジャンケンはやめてほしい」と話すのは、都内の居酒屋経営者の男性だ。
「生肉好きは『探してでも食べるという』熱狂的ファンが多い。うちも、新鮮なものが入った時にしか豚の生レバーは出していないが、『生レバーあります』と書き出しているだけで客の入りが違う。豚レバーが出せなくなると、間違いなく売上げにも影響する」
 また男性は、厚労省が納得のいく説明を行っていないことにも不満を募らせ、こう提案する。
「魚介類の刺身だって食中毒事件はたびたび起きている。肉の生食が魚と比べて具体的にどれくらい危険性が高いのか、科学的根拠があるのかどうか、いまいちはっきりとした説明がない。どうしてもと言うなら、ふぐみたいに免許制にすればいい」
 厚労省の薬事・食品衛生審議会は、鳥刺しやとりわさなど、鶏肉の生食についても、規制検討の候補にあげており、魚貝類以外の生食文化が完全に消滅する恐れもある。

取材・文/奥窪優木
(『宝島』2015年2月号より)