大泉洋が美味(おい)しい。
もちろん彼自身が美味しいわけではない。彼が紹介する食べ物屋、食べているそのさまが美味しいのだ。
今や国民的タレントになりつつある彼が、ドラマ以外でTVに出る時はいつも「何かを食べている」。というか、それ以外の姿をほぼ観たことがない。なぜか?
それは大泉洋には「食べること」と「ゴルフをすること」以外の趣味や興味がまったくないからである。ゴルフも今や子供と遊ぶ時間に変わったので、食べること以外ほぼ無趣味。彼が驚くほどの量の仕事をこなせるのは、この「他にすることないから」というエネルギーがものをいっている。
話を戻すと、彼のグルメの情報と、その影響力は計り知れない。特に北海道においては、大泉もしくは彼が在籍するTEAM NACSの公演があると、全国各地から大挙してファンがやって来て、大学時代からの大泉御用達の店、もしくは彼がリコメンドした店に開店前から長蛇の列をなす。さらにいえば、小樽や札幌の土産グルメにも「大泉洋、大推薦!」などというコメントやポップを見かけるが、これがあるとないとでは売り上げが何倍も違うという。こんな巨大な影響力を食べ物に対して持っているのは、古(いにしえ)の北大路魯山人、もしくは山岡士郎か『料理の鉄人』全盛期の道場六三郎のみではないだろうか?
そんな大泉洋と自分は月に一度、ご飯を食べている。『MUSICA』という僕が発行している音楽雑誌で、無駄に食べ続けるという連載を4年以上続けているからだ。
大泉が大好きすぎるほど大好きなのが「麺」だ。特にパスタ。これが出てくると、彼は麺しか見えなくなり、途端に慌て出す。麺は食べどきが大事だから、そこを逃して伸びた麺を一口たりとも食べたくないのである。ちなみに彼はドラマの撮影中も少しでも時間があれば、昼に普通に出される弁当を食べるのを断り、ロケ場所近くの美味しい店を調べ、見つけ、電話をして「25分後に到着しますので、その瞬間に出てくる感じでお願いします」と必死に頼み、火傷(やけど)をしそうなほど慌てて無心で食べ尽くし、往復50分、食事時間10分という壮絶な昼食タイムを過ごしたりする。言うまでもなく、昼休みは1時間しかないからだ。
大泉洋は美味しい。彼は美味しくなるためには何でもするし、食事は楽しければ必ず美味しくなるという哲学を体現しているからだ。
文/鹿野 淳(しかの・あつし)●雑誌『MUSICA』を発行したり、音小屋って音楽ジャーナリスト学校始めたり、@sikappeでツイートしたり、自分の名前でFacebookもやってます。
(『宝島』12月号より)
<写真>
大泉洋は話もうまい。どううまいのかといえば、彼自身の話も面白いが、相手の面白い部分を引き出し、そして面白がるのが本当にうまい。これは人間がモテるための一番の才能だ。だから莫大なるファンを抱えているのである。
もちろん彼自身が美味しいわけではない。彼が紹介する食べ物屋、食べているそのさまが美味しいのだ。
今や国民的タレントになりつつある彼が、ドラマ以外でTVに出る時はいつも「何かを食べている」。というか、それ以外の姿をほぼ観たことがない。なぜか?
それは大泉洋には「食べること」と「ゴルフをすること」以外の趣味や興味がまったくないからである。ゴルフも今や子供と遊ぶ時間に変わったので、食べること以外ほぼ無趣味。彼が驚くほどの量の仕事をこなせるのは、この「他にすることないから」というエネルギーがものをいっている。
話を戻すと、彼のグルメの情報と、その影響力は計り知れない。特に北海道においては、大泉もしくは彼が在籍するTEAM NACSの公演があると、全国各地から大挙してファンがやって来て、大学時代からの大泉御用達の店、もしくは彼がリコメンドした店に開店前から長蛇の列をなす。さらにいえば、小樽や札幌の土産グルメにも「大泉洋、大推薦!」などというコメントやポップを見かけるが、これがあるとないとでは売り上げが何倍も違うという。こんな巨大な影響力を食べ物に対して持っているのは、古(いにしえ)の北大路魯山人、もしくは山岡士郎か『料理の鉄人』全盛期の道場六三郎のみではないだろうか?
そんな大泉洋と自分は月に一度、ご飯を食べている。『MUSICA』という僕が発行している音楽雑誌で、無駄に食べ続けるという連載を4年以上続けているからだ。
大泉が大好きすぎるほど大好きなのが「麺」だ。特にパスタ。これが出てくると、彼は麺しか見えなくなり、途端に慌て出す。麺は食べどきが大事だから、そこを逃して伸びた麺を一口たりとも食べたくないのである。ちなみに彼はドラマの撮影中も少しでも時間があれば、昼に普通に出される弁当を食べるのを断り、ロケ場所近くの美味しい店を調べ、見つけ、電話をして「25分後に到着しますので、その瞬間に出てくる感じでお願いします」と必死に頼み、火傷(やけど)をしそうなほど慌てて無心で食べ尽くし、往復50分、食事時間10分という壮絶な昼食タイムを過ごしたりする。言うまでもなく、昼休みは1時間しかないからだ。
大泉洋は美味しい。彼は美味しくなるためには何でもするし、食事は楽しければ必ず美味しくなるという哲学を体現しているからだ。
文/鹿野 淳(しかの・あつし)●雑誌『MUSICA』を発行したり、音小屋って音楽ジャーナリスト学校始めたり、@sikappeでツイートしたり、自分の名前でFacebookもやってます。
(『宝島』12月号より)

大泉洋は話もうまい。どううまいのかといえば、彼自身の話も面白いが、相手の面白い部分を引き出し、そして面白がるのが本当にうまい。これは人間がモテるための一番の才能だ。だから莫大なるファンを抱えているのである。