「このままでは鯨食文化が消滅する」──
調査捕鯨に関し、世界的な批判を浴びても政府が錦の御旗のように唱えるこの言葉。確かにその通りだろう。しかし、鯨肉販売の赤字を補塡するために多額の税金が毎年投入されているのも事実である。1人あたりの年間消費量が約40グラムしかない“日本固有の食文化”は、いったい誰のためのものなのか。
<写真>
調査捕鯨で、北海道・釧路港に水揚げされたミンククジラ
1人あたり約40グラム──。これが現在の日本国民の年間平均鯨肉消費量である。
そんなまぎれもなくレアな、別の見方をすれば誰も見向きもしなくなった食材である鯨肉が、9月から永田町の自民党本部の食堂にお目見えした。鯨のひき肉を使ったカレーがレギュラーメニューとして提供されるほか、毎週金曜日を「鯨の日」とし、鯨肉を使った特別メニューが用意されるという。
これは、「このままでは鯨食文化が消滅する」と危惧(きぐ)する二階俊博衆院議員の発案で実現したものだ。ちなみに二階氏の選挙区には、イルカの追い込み漁が国際的な批判を浴びている和歌山県太地町(たいじちょう)がある。鯨メニューが加わった初日、鯨の伝道師を自任する二階氏は、「外国人にもどっさり食わせたい」と意気込んだそうだ。
国際社会から、日本の捕鯨に対して厳しい目が向けられている。
3月31日、国際司法裁判所は日本による南極海での第2期南極海鯨類捕獲調査(JARPA 供砲砲弔い特羯潴仁瓩鮟个靴拭これを受け、日本政府は4月にJARPA 兇鮹羯澆靴燭發里痢中止命令は「現行計画下での捕鯨」に対するものであると解釈。2015年度には新計画のもと、南極海での調査捕鯨を再開することを決定した。
しかし、9月18日にはスロベニアで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)の総会でも、日本の南極海での調査捕鯨の再開を先延ばしするように求める決議が採択されている。決議に強制力は伴わないものの、応じなければ「総会決議違反」との国際的批判を受けることになる。
また、『ニューヨーク・タイムズ』は、10月13日、「日本の捕鯨の背後にある大嘘」と題する社説を掲載。科学調査の名目で行われている日本の捕鯨は、その実、商業捕鯨以外の何ものでもないと指摘している。『日本経済新聞』や『東京新聞』なども、調査捕鯨再開が国益に反するとして、再考を促す社説を相次いで掲載している。
さらに国際司法裁判所による中止命令を踏まえ、楽天は、運営する楽天市場内での鯨やイルカ肉の販売を禁止している。
業界紙記者が語る。
「楽天は、海外進出に力を入れているので、国際的イメージ悪化を恐れてのことでしょう。他の通販サイトや全国チェーンのスーパーでも、同様の動きが出ています」
<写真>
自民党本部の食堂で、鯨肉を使ったメニューを試食する党捕鯨議員連盟顧問の二階総務会長(右から2人目)
■世界から批判される“調査捕鯨”という詭弁
調査捕鯨という言葉が世に出たのは、1982年、資源管理機関のIWCが、クジラが絶滅の危機にあるとして、沿岸部で行われるイルカなど小型鯨類を除き、商業捕鯨の一時停止を決議したことによる。
この際、加盟国のうち日本、ノルウェー、ペルー、ソ連は、法的拘束力を免れるため異議申立を行っているが、その後、日本はペルーとともに、異議を撤回している。
当時の国会答弁などによれば、アメリカが、排他的経済水域内の漁獲枠割り当て削減や、日本からの水産物輸入規制をちらつかせて圧力をかけたようだ。
さらに、「調査捕鯨という名前さえ使ってくれれば、あとは文句は言わない」という、アメリカ側からのオフレコードの殺し文句があったともいわれている。その後、アメリカを含む世界各国から『日本の調査捕鯨は詭弁(きべん)』との誹(そし)りを受けることになるとは、日本は思ってもいなかったのだろう。いわばアメリカの口車に乗せられたわけだ。
商業捕鯨が完全に停止された87年以来、日本による捕鯨は科学的調査という建前のもとで行われることになった。
かつては南極海と北西太平洋に年一度ずつ、60日から70日の航海に出て捕鯨が行われていたが、3月の国際司法裁判所の判決を受け、現在は北太平洋のみで行われている。
■年間約10億円の補助を受け鯨肉を独占販売する企業
調査捕鯨を委託されているのは、農水省を主務官庁とする財団法人の日本鯨類研究所(鯨研)と、共同船舶株式会社だ。
鯨研が調査、共同船舶が捕鯨と鯨肉販売業務という役割分担となっているが、両者はほぼ一心同体と見てよい。ともに東京都中央区豊海(とよみ)の同じビルの同じフロアに所在しているほか、鯨研の理事には共同船舶の社長も名を連ねている。
捕獲された鯨は、鯨研による生体調査の後、共同船舶が販売する。輸入分を合わせ日本に流通するすべての鯨肉の約7割が、共同船舶によって販売されたものだ。価格の設定も共同船舶に任されている。建前はあくまで年間45億円〜50億円の費用がかかるとされる調査費の回収である。
しかし近年、鯨食文化の衰退により消費量は減少。販売収入は縮小の一途をたどっており、2005年以降、調査捕鯨事業は赤字に陥っている。かつて50億円〜60億円あった鯨肉の販売収入は、10年度には約45億円に減少。 さらにシーシェパードによる妨害が激化した11年度は約28億円にとどまり、11億3306万円の赤字となっている。
この赤字分の埋め合わせは、税金によってまかなわれてきた。ここ数年は、鯨研に名目は変われど10億円近くの国庫補助金が毎年付けられているのだ。
さらに12年度には、東日本大震災の復興予算として、約23億円が調査捕鯨費およびシーシェパードによる妨害対策費として計上され、そのうち約18億円が鯨研にわたっている。予算を計上した水産庁の言い分では、「鯨肉の水産加工の盛んな石巻市周辺に、南極海の鯨肉を安定供給することで復旧・復興につながる」のだというが、地元からは「何の恩恵もない」と不満の声が上がった。
調査捕鯨が赤字に転落した05年以降の10 年間で、ざっと計算しても約80 億円規模の税金が投入されたことになる。
■ODAが交換条件日本の買収工作疑惑
それだけではない。調査捕鯨継続のための、公表されていない支出も存在する。
10年6月、英紙『サンデー・タイムズ』はIWC加盟国に対し、日本が買収工作を行っていたと報じた。
同紙によれば、記者が反捕鯨活動家を装い、捕鯨賛成国の高官に支援と引き換えに捕鯨に反対するよう打診。すると、ギニアやコートジボアールを含む複数国の高官が、日本からの「支援」と引き換えに、賛成派に回る取引を行ったことを明らかにしたとしている。タンザニアの高官に至っては、アゴアシ付きの日本旅行に加え、コールガールの手配も約束されたという。
こうした日本の票買い疑惑はIWCでも問題視され、11年以降は加盟国が支払う分担金の支払いを、銀行送金のみとする防止策が採用された。
日本が捕鯨支持を取り付けるために行ったとされる買収疑惑はほかにもある。IWCに加盟する88カ国のうち、捕鯨に反対している国は49カ国。持続可能な利用を支持している国は、日本を含め39カ国である。
ところで、賛成国の中には、アンティグア・バーブーダやドミニカのように、日本の政府開発援助(ODA)の一環である水産無償資金協力として、多額の供与を受けている国々が名を連ねているのだ。反対国と支持国では、一国あたりの平均供与額に2倍以上の開きがあるという指摘がある。
05年までの約18年間、日本がアフリカやカリブ海諸国などの高官に対し、捕鯨支持と引き換えの水産無償資金協力を持ちかけていたという関係者の証言が報道されたこともある。
<写真>
今年9月、スロベニアで行われたIWC総会で発言する森下丈二日本政府代表(中央)
■調査捕鯨は役所の利権天下りポストは年収1200万
では、ここまでして日本が捕鯨にこだわる理由は何なのか。
現在、日本国内の年間鯨肉消費量は約5000トン。しかし、約4000トンが在庫として冷凍保存されている。さらに、今年5月にはアイスランドから約2000トンの鯨肉が輸入されている。これだけあれば、すぐに「鯨肉が食べられなくなる」という心配はなさそうだ。
「鯨の資源管理に関する科学的データの収集」という調査捕鯨の本来の目的にしてみても、国際的な連携を図りながら行うべきで、これだけ孤立を深めながら続ける意味があるとは思えない。また、科学的調査には、その結果として論文が発表されることが通常だが、国際的に認められている査読論文は調査捕鯨開始以来28年間でわずか数本しかない。
ここまで書けば、もうおわかりだろう。調査捕鯨は水産庁、農水省の利権と化しているのだ。
鯨研の直近5年の役員人事を見ても、元水産庁次長が理事長を務めるなど、水産庁からの天下りが複数認められる。彼らの待遇を見てみると、理事長が年収1242万円、現在5人いる非常勤の理事にも年俸1050万円が支払われているのだ。これに加え、退職時には勤続年数に応じ数百万円から数千万円が退職金として支給されている。とても万年赤字の財団法人とは思えない厚遇である。
共同船舶にしてみても、鯨研ほか、農水省を主務官庁とする5つの財団法人が97%の株式を保有しており、純粋な民間企業とは言いがたい。鯨研以外の株主財団法人の役員にも、これまでたびたび水産庁、もしくは農水省のOBが名を連ねてきた。
無論、「牛はよくて鯨はダメ」というのは皆目おかしな話である。しかし、役人の天下り利権や省益のために、調査捕鯨という詭弁に白々しく乗っかり続けるのは愚かだ。税金の無駄遣いを放置し続けることになるのはもちろん、日本は国際的に孤立を深めることにもつながる。
そもそも、調査捕鯨によるデータの収集は、商業捕鯨再開を前提にして行われてきた。しかし、ある水産加工メーカーの社員はこう話す。
「商業捕鯨が再開しても、鯨ビジネスにかかわりたい企業がいるかどうか。国際企業は、海外でのイメージ悪化も懸念材料だし、なにより食の需要が見込めないのではしょうがない」
鯨食が日本固有の文化であることは間違いない。しかし、もはや食の需要が見込めないというのなら、自然淘汰(とうた)の原理に任せてもよいのではないか。
取材・文/奥窪優木
(『宝島』12月号より)
調査捕鯨に関し、世界的な批判を浴びても政府が錦の御旗のように唱えるこの言葉。確かにその通りだろう。しかし、鯨肉販売の赤字を補塡するために多額の税金が毎年投入されているのも事実である。1人あたりの年間消費量が約40グラムしかない“日本固有の食文化”は、いったい誰のためのものなのか。
<写真>
調査捕鯨で、北海道・釧路港に水揚げされたミンククジラ
1人あたり約40グラム──。これが現在の日本国民の年間平均鯨肉消費量である。
そんなまぎれもなくレアな、別の見方をすれば誰も見向きもしなくなった食材である鯨肉が、9月から永田町の自民党本部の食堂にお目見えした。鯨のひき肉を使ったカレーがレギュラーメニューとして提供されるほか、毎週金曜日を「鯨の日」とし、鯨肉を使った特別メニューが用意されるという。
これは、「このままでは鯨食文化が消滅する」と危惧(きぐ)する二階俊博衆院議員の発案で実現したものだ。ちなみに二階氏の選挙区には、イルカの追い込み漁が国際的な批判を浴びている和歌山県太地町(たいじちょう)がある。鯨メニューが加わった初日、鯨の伝道師を自任する二階氏は、「外国人にもどっさり食わせたい」と意気込んだそうだ。
国際社会から、日本の捕鯨に対して厳しい目が向けられている。
3月31日、国際司法裁判所は日本による南極海での第2期南極海鯨類捕獲調査(JARPA 供砲砲弔い特羯潴仁瓩鮟个靴拭これを受け、日本政府は4月にJARPA 兇鮹羯澆靴燭發里痢中止命令は「現行計画下での捕鯨」に対するものであると解釈。2015年度には新計画のもと、南極海での調査捕鯨を再開することを決定した。
しかし、9月18日にはスロベニアで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)の総会でも、日本の南極海での調査捕鯨の再開を先延ばしするように求める決議が採択されている。決議に強制力は伴わないものの、応じなければ「総会決議違反」との国際的批判を受けることになる。
また、『ニューヨーク・タイムズ』は、10月13日、「日本の捕鯨の背後にある大嘘」と題する社説を掲載。科学調査の名目で行われている日本の捕鯨は、その実、商業捕鯨以外の何ものでもないと指摘している。『日本経済新聞』や『東京新聞』なども、調査捕鯨再開が国益に反するとして、再考を促す社説を相次いで掲載している。
さらに国際司法裁判所による中止命令を踏まえ、楽天は、運営する楽天市場内での鯨やイルカ肉の販売を禁止している。
業界紙記者が語る。
「楽天は、海外進出に力を入れているので、国際的イメージ悪化を恐れてのことでしょう。他の通販サイトや全国チェーンのスーパーでも、同様の動きが出ています」
<写真>
自民党本部の食堂で、鯨肉を使ったメニューを試食する党捕鯨議員連盟顧問の二階総務会長(右から2人目)
■世界から批判される“調査捕鯨”という詭弁
調査捕鯨という言葉が世に出たのは、1982年、資源管理機関のIWCが、クジラが絶滅の危機にあるとして、沿岸部で行われるイルカなど小型鯨類を除き、商業捕鯨の一時停止を決議したことによる。
この際、加盟国のうち日本、ノルウェー、ペルー、ソ連は、法的拘束力を免れるため異議申立を行っているが、その後、日本はペルーとともに、異議を撤回している。
当時の国会答弁などによれば、アメリカが、排他的経済水域内の漁獲枠割り当て削減や、日本からの水産物輸入規制をちらつかせて圧力をかけたようだ。
さらに、「調査捕鯨という名前さえ使ってくれれば、あとは文句は言わない」という、アメリカ側からのオフレコードの殺し文句があったともいわれている。その後、アメリカを含む世界各国から『日本の調査捕鯨は詭弁(きべん)』との誹(そし)りを受けることになるとは、日本は思ってもいなかったのだろう。いわばアメリカの口車に乗せられたわけだ。
商業捕鯨が完全に停止された87年以来、日本による捕鯨は科学的調査という建前のもとで行われることになった。
かつては南極海と北西太平洋に年一度ずつ、60日から70日の航海に出て捕鯨が行われていたが、3月の国際司法裁判所の判決を受け、現在は北太平洋のみで行われている。
■年間約10億円の補助を受け鯨肉を独占販売する企業
調査捕鯨を委託されているのは、農水省を主務官庁とする財団法人の日本鯨類研究所(鯨研)と、共同船舶株式会社だ。
鯨研が調査、共同船舶が捕鯨と鯨肉販売業務という役割分担となっているが、両者はほぼ一心同体と見てよい。ともに東京都中央区豊海(とよみ)の同じビルの同じフロアに所在しているほか、鯨研の理事には共同船舶の社長も名を連ねている。
捕獲された鯨は、鯨研による生体調査の後、共同船舶が販売する。輸入分を合わせ日本に流通するすべての鯨肉の約7割が、共同船舶によって販売されたものだ。価格の設定も共同船舶に任されている。建前はあくまで年間45億円〜50億円の費用がかかるとされる調査費の回収である。
しかし近年、鯨食文化の衰退により消費量は減少。販売収入は縮小の一途をたどっており、2005年以降、調査捕鯨事業は赤字に陥っている。かつて50億円〜60億円あった鯨肉の販売収入は、10年度には約45億円に減少。 さらにシーシェパードによる妨害が激化した11年度は約28億円にとどまり、11億3306万円の赤字となっている。
この赤字分の埋め合わせは、税金によってまかなわれてきた。ここ数年は、鯨研に名目は変われど10億円近くの国庫補助金が毎年付けられているのだ。
さらに12年度には、東日本大震災の復興予算として、約23億円が調査捕鯨費およびシーシェパードによる妨害対策費として計上され、そのうち約18億円が鯨研にわたっている。予算を計上した水産庁の言い分では、「鯨肉の水産加工の盛んな石巻市周辺に、南極海の鯨肉を安定供給することで復旧・復興につながる」のだというが、地元からは「何の恩恵もない」と不満の声が上がった。
調査捕鯨が赤字に転落した05年以降の10 年間で、ざっと計算しても約80 億円規模の税金が投入されたことになる。
■ODAが交換条件日本の買収工作疑惑
それだけではない。調査捕鯨継続のための、公表されていない支出も存在する。
10年6月、英紙『サンデー・タイムズ』はIWC加盟国に対し、日本が買収工作を行っていたと報じた。
同紙によれば、記者が反捕鯨活動家を装い、捕鯨賛成国の高官に支援と引き換えに捕鯨に反対するよう打診。すると、ギニアやコートジボアールを含む複数国の高官が、日本からの「支援」と引き換えに、賛成派に回る取引を行ったことを明らかにしたとしている。タンザニアの高官に至っては、アゴアシ付きの日本旅行に加え、コールガールの手配も約束されたという。
こうした日本の票買い疑惑はIWCでも問題視され、11年以降は加盟国が支払う分担金の支払いを、銀行送金のみとする防止策が採用された。
日本が捕鯨支持を取り付けるために行ったとされる買収疑惑はほかにもある。IWCに加盟する88カ国のうち、捕鯨に反対している国は49カ国。持続可能な利用を支持している国は、日本を含め39カ国である。
ところで、賛成国の中には、アンティグア・バーブーダやドミニカのように、日本の政府開発援助(ODA)の一環である水産無償資金協力として、多額の供与を受けている国々が名を連ねているのだ。反対国と支持国では、一国あたりの平均供与額に2倍以上の開きがあるという指摘がある。
05年までの約18年間、日本がアフリカやカリブ海諸国などの高官に対し、捕鯨支持と引き換えの水産無償資金協力を持ちかけていたという関係者の証言が報道されたこともある。
<写真>
今年9月、スロベニアで行われたIWC総会で発言する森下丈二日本政府代表(中央)
■調査捕鯨は役所の利権天下りポストは年収1200万
では、ここまでして日本が捕鯨にこだわる理由は何なのか。
現在、日本国内の年間鯨肉消費量は約5000トン。しかし、約4000トンが在庫として冷凍保存されている。さらに、今年5月にはアイスランドから約2000トンの鯨肉が輸入されている。これだけあれば、すぐに「鯨肉が食べられなくなる」という心配はなさそうだ。
「鯨の資源管理に関する科学的データの収集」という調査捕鯨の本来の目的にしてみても、国際的な連携を図りながら行うべきで、これだけ孤立を深めながら続ける意味があるとは思えない。また、科学的調査には、その結果として論文が発表されることが通常だが、国際的に認められている査読論文は調査捕鯨開始以来28年間でわずか数本しかない。
ここまで書けば、もうおわかりだろう。調査捕鯨は水産庁、農水省の利権と化しているのだ。
鯨研の直近5年の役員人事を見ても、元水産庁次長が理事長を務めるなど、水産庁からの天下りが複数認められる。彼らの待遇を見てみると、理事長が年収1242万円、現在5人いる非常勤の理事にも年俸1050万円が支払われているのだ。これに加え、退職時には勤続年数に応じ数百万円から数千万円が退職金として支給されている。とても万年赤字の財団法人とは思えない厚遇である。
共同船舶にしてみても、鯨研ほか、農水省を主務官庁とする5つの財団法人が97%の株式を保有しており、純粋な民間企業とは言いがたい。鯨研以外の株主財団法人の役員にも、これまでたびたび水産庁、もしくは農水省のOBが名を連ねてきた。
無論、「牛はよくて鯨はダメ」というのは皆目おかしな話である。しかし、役人の天下り利権や省益のために、調査捕鯨という詭弁に白々しく乗っかり続けるのは愚かだ。税金の無駄遣いを放置し続けることになるのはもちろん、日本は国際的に孤立を深めることにもつながる。
そもそも、調査捕鯨によるデータの収集は、商業捕鯨再開を前提にして行われてきた。しかし、ある水産加工メーカーの社員はこう話す。
「商業捕鯨が再開しても、鯨ビジネスにかかわりたい企業がいるかどうか。国際企業は、海外でのイメージ悪化も懸念材料だし、なにより食の需要が見込めないのではしょうがない」
鯨食が日本固有の文化であることは間違いない。しかし、もはや食の需要が見込めないというのなら、自然淘汰(とうた)の原理に任せてもよいのではないか。
取材・文/奥窪優木
(『宝島』12月号より)