戦後長らくジャーナリズムの頂点に君臨し続ける朝日新聞。その「ブランド力」の源泉はどこにあったのか。就職難易度「日本一」とも言われたインテリ企業の底力を分析する。

■知識人の読む新聞 意思決定層が支持
 今年の春、朝日新聞社に入社した新入社員78人(うち編集部門は53人)のうち、東大生が1人もいなかったというニュースは、ある種の驚きをもって業界に受け止められた。
 昭和の時代、朝日新聞の人気は全国紙のなかでも別格だった。難関大学並みのペーパーテストと面接をクリアするのは東大生が多く、記者職の3分の1は東大卒、といった年も珍しくなかったという。
「官僚人脈や金融界など、エスタブリッシュメントへの取材に“東大閥”は有効に機能しました。東大在学中に文藝賞を受賞し作家デビュー、それでも朝日に入社し最後は編集局長をつとめた外岡秀俊さんのように、東大生で、大企業に内定したり、司法試験や国家公務員擬鏤邯海帽膤覆靴燭蠅靴涜召離┘蝓璽肇魁璽垢砲眇覆瓩襪里法△修譴任眥日新聞がいい、といってやってくる人材がたくさんいた。それだけブランド力があったと思うし、実際、ある時代は商社や銀行マンより自分たちのほうが上だと思う意識は“朝日人”のなかにあったと思います」(ある朝日OB)
朝日はメディアの東大2 朝日新聞の歴代社長は政治部長と経済部長の「たすきがけ人事」が続いた時期があるが、学歴を見るとやはり東大あるいは国立大学出身者が多い。
 リクルートリサーチが調査した1965年から1991年までの「就職人気総合ランキング」で、27年間を平均し朝日新聞は全ての日本企業のなかで8位にランクインしている。
 1位から7位までは大手商社や銀行だが、これらは採用人数も多く、就職難易度では朝日がダントツの1位だ。もちろん、メディアのなかでもトップである。
「巨人で売っている読売や、経営が危ない毎日、経済紙の日経、右翼の産経より、やっぱり朝日が格上でカッコいいなと。たとえ朝日に入社できなくても、中途入社でもいいから朝日に行きたいという記者がいっぱいいました。『天声人語』は名文であるから読みなさい、と小学校でも教えていた時代ですし、何より裕福な家、インテリの家ではまず朝日をとっていた。朝日新聞が、海外の高級紙と呼ばれる新聞と提携していたことも大きく、語学を得意とする国際派の学生は、どうしても朝日で特派員をやりたいというタイプが多かった。なにしろ、内側から見ていても多士済々で華やかでしたよ」(同)
 どんな地方の支局へ出ても、朝日新聞の名刺を出せばどこでも「凄いですね」と褒め称えられる。権力を監視するジャーナリストでありながら、一部上場企業以上の高給と、ブランドイメージを付与された特権階級――それがある時代までの朝日新聞記者だった。
「新聞の購読者の年収や金融資産を調べる調査で、朝日はずっと読売、毎日を大きく離し2位です。1位の日経は、経営者層が多く含まれる関係で数字が押し上げられている事情があり、実質的な日本のクオリティ・ペーパーが朝日と言われてきたゆえんです。媒体資料によれば朝日新聞の読者の平均金融資産は1733万円で、読売とは300万円近い差があるし、個人年収でも1000万円以上の割合が2.3%(読売、毎日は1.3%)と多い。広告単価にしても、朝日と産経では倍以上違うが、効果はそれ以上に違う」(大手広告代理店関係者)
 日本の意思決定層へのリーチがダントツに高かったのが朝日新聞だったことは間違いない。週刊誌メディアの「朝日批判」が、他紙への批判と比べ圧倒的に多いのも、朝日新聞がジャーナリズムの権威として認知されてきた反証に他ならないのである。

■「ホンカツ教徒」を生んだ本多勝一氏の功罪
 1970年代以降、朝日新聞のブランド形成に大きく寄与したのがOBでジャーナリストの本多勝一氏だ。
 東大こそ出ていないが、京大探検部で鍛えた体力と好奇心で世界を飛び回り『カナダ=エスキモー』『ニューギニア高地人』『アラビア遊牧民』といった名作を発表、ジャーナリズムと文化人類学を融合させた独自の境地を切り開いた。
「ベトナム戦争報道でも活躍した本多さんの一連の著作は、当時新聞記者を目指す学生たちのバイブルだった。朝日新聞の面接に来る学生の8割は本多さんに何らかの形で影響されており、それは90年代まで続いたように思います」(元朝日新聞記者)
 あまりに本多氏の影響力が強かったため、朝日社内では「ホンカツ症候群」と言って「信者」を毛嫌いする幹部も少なくなかったと言われるが、当の本多氏はいま、朝日新聞の慰安婦報道のあおりを受け、過去の南京大虐殺に関する書物をマイナスに再評価されてしまっている。
朝日はメディアの東大3「本多氏のほかにも、キャスターに転身した筑紫哲也氏や女性記者の松井やより氏、天声人語の執筆を担当した知性派記者の深代惇郎氏、辰濃和男氏など、その名文に憧れて朝日を目指し、入社した人がどれだけ多いか分からない。しかし、いつの時代からか記者たちに驕りが生じて、尊大な社風だけが残ってしまったのかもしれません。だとすれば反省しなければならない」(前出の朝日OB)
 袋叩きにあっているいまの朝日を擁護する声は少ないが、それでも700万部以上(ABC協会調べ)の新聞が毎日日本で読まれているとされる新聞である。
「廃刊」を訴える保守言論人もいるが、日本の知性と信じられてきた朝日新聞の消滅を望まない人が多いのも事実である。


(『宝島』12月号より)

文/千葉哲也


朝日はメディアの東大4<写真>
朝日新聞の入社式。社名をつけた「朝日人」という言葉があるのは新聞社でも朝日だけだ