食品偽装がニュースを賑わす現代ニッポン。中でも回転寿司ネタは永遠のグレーゾーンとされている。日本ならではの代用魚文化、その代表種を玄人の視線で大紹介!
■日本のお家芸・代用魚
食品偽装問題がメディアを賑わす昨今、<偽装のトップランナー>と外食業界で言われ続けているのが<代用魚>だ。回転寿司のコストカットに一役も二役も買い、回転寿司を外食の王様に押し上げてきた立役者でもある。元消費者生活センター勤務の飯塚茂樹さんは、代用魚は食品偽装ではないの? という疑問にこう答える。
「食品表示を偽れば違法になりますが、タイ(鯛)とお品書きにあっても、お役所向けの店内書類に<エソその他加工>と明記されていれば、ギリギリ法には触れないというようなグレーゾーンなんです。歴史を遡れば、明治時代に政府のお墨付きでソウギョをタラなんかの代用魚にしたこともあり、代用魚は、いわば日本のお家芸なんです」
では、このお家芸と長年、卸業と現場でネタとして付き合ってきた<代用魚の通>に登場願おう。築地市場仲買人歴53年である岩瀬康夫さんと、寿司屋Tで41年間カウンターに立ち続けた平野元さんだ。
■アカマンボウ
岩瀬「マグロの代用といえばアカマンボウ。こいつ、マンボウって呼ばれてるけど深海魚でリュウグウノツカイの仲間なんだ。漁師に聞いたり、知り合いの学者に言わせると謎の深海魚らしいね」
平野「え? それは私も知らなかった。2メートル超えて、300キロのアカマンボウを那覇で見たけど、表面はタチウオみたいにギラギラしててね。ヒレと眼の周囲が真紅なんですよ」
岩瀬「アカマンボウは傷がつきやすくて流通的に難しかった。だから市場では敬遠されてきた。だけど切り身にしたり、即加工が可能になってマグロの代用にされ始めた。この5、6年の間に急成長した魚」
平野「歯ざわりは似てるけど、ちょっと濃いかなあ……腹を生で出すと中トロくらいの脂分を感じる。背肉はムニエルとかで出す」
岩瀬「外食でしか出回りにくい魚だな。消費期限が短いし漁獲の絶対量が少ない。流通網が整ってないとダメ。回転寿司チェーンはアカマンボウ用の加工流通を整備して対応してるから安くお客さんに出せる」
平野「珍重魚から外食の花形代用魚になりつつある代表選手ですね」
<マグロの代用で人気急上のアカマンボウ。大型深海魚で釣りでは珍重。形は似ているがマンボウではない。>
■ナイルパーチ・アカメ
岩瀬「スズキの代用、ナイルパーチはアフリカの淡水魚。デカいんだ、2メートルクラスが釣り上げられてる」
平野「白身魚のフライと呼ばれるものの肉はコレです。2003年のJAS法改訂でスズキと表示しちゃダメってなりました」
岩瀬「アカメ、メヒカリはスズキの生食代用で回転寿司で見かけるね。生態じたいも河口に棲んでるし、とっても近い。南西諸島でたくさん獲れてるアカメモドキって小型のアカメが最近は流通量が増加してる。バラマンディって近縁種は輸入されてるけど、スズキと食べ比べて分かんない味」
平野「輸入物、養殖物では問題なしですけど、国産天然アカメは絶滅危惧種に指定されているほど希少。これは代用乱獲の結果だと疑われています。裏業界でウナギの密漁が取り沙汰されましたが、天然アカメはマイナーだから注目されなかった」
岩瀬「アカメの稚魚密漁は問題だよ。組織的に行われていて、ウナギの一件と同じ奴らが絡んでいるんだ。ヤクザのしのぎにも使われている」
<その名の通りナイル生息のスズキの一種。巨大になるので釣りで人気に。白身魚のフライといえばこの魚肉!>
■ティラピア
平野「ティラピアは真鯛の代用で、寿司屋からは『あんなニセモノ』って冷たくあしらわれてきた魚。だけどギリシャとか行くと普通に食べられてる大衆魚なんです」
岩瀬「川魚でタイと呼べる代物じゃないのにイズミダイとかチカダイって名前で店に売られていたんですよ。国内養殖されてたけどコスト高と真鯛の養殖普及で近年は敬遠されてます。輸入物はまだ安いから代用に使ってる回転寿司店もある。身に臭みはないし、味は普通にイケる」
平野「焼き物で使えば下手な養殖鯛より美味いと言っていいほど美味しい」
<欧州や中東では大衆魚であるティラピア。焼くと美味しい魚。ナイル種は最もメジャーで観賞用にもなっている>
ウナギの希少化、マグロの高騰など話題に事欠かない漁業界だが、品薄・値上がりがあれば代用魚という図式はこれからも変わらないという。
(記事の全文は『月刊宝島』2014年3月号に掲載)
取材・文/岸川真
■日本のお家芸・代用魚
食品偽装問題がメディアを賑わす昨今、<偽装のトップランナー>と外食業界で言われ続けているのが<代用魚>だ。回転寿司のコストカットに一役も二役も買い、回転寿司を外食の王様に押し上げてきた立役者でもある。元消費者生活センター勤務の飯塚茂樹さんは、代用魚は食品偽装ではないの? という疑問にこう答える。
「食品表示を偽れば違法になりますが、タイ(鯛)とお品書きにあっても、お役所向けの店内書類に<エソその他加工>と明記されていれば、ギリギリ法には触れないというようなグレーゾーンなんです。歴史を遡れば、明治時代に政府のお墨付きでソウギョをタラなんかの代用魚にしたこともあり、代用魚は、いわば日本のお家芸なんです」
では、このお家芸と長年、卸業と現場でネタとして付き合ってきた<代用魚の通>に登場願おう。築地市場仲買人歴53年である岩瀬康夫さんと、寿司屋Tで41年間カウンターに立ち続けた平野元さんだ。
■アカマンボウ
岩瀬「マグロの代用といえばアカマンボウ。こいつ、マンボウって呼ばれてるけど深海魚でリュウグウノツカイの仲間なんだ。漁師に聞いたり、知り合いの学者に言わせると謎の深海魚らしいね」
平野「え? それは私も知らなかった。2メートル超えて、300キロのアカマンボウを那覇で見たけど、表面はタチウオみたいにギラギラしててね。ヒレと眼の周囲が真紅なんですよ」
岩瀬「アカマンボウは傷がつきやすくて流通的に難しかった。だから市場では敬遠されてきた。だけど切り身にしたり、即加工が可能になってマグロの代用にされ始めた。この5、6年の間に急成長した魚」
平野「歯ざわりは似てるけど、ちょっと濃いかなあ……腹を生で出すと中トロくらいの脂分を感じる。背肉はムニエルとかで出す」
岩瀬「外食でしか出回りにくい魚だな。消費期限が短いし漁獲の絶対量が少ない。流通網が整ってないとダメ。回転寿司チェーンはアカマンボウ用の加工流通を整備して対応してるから安くお客さんに出せる」
平野「珍重魚から外食の花形代用魚になりつつある代表選手ですね」
<マグロの代用で人気急上のアカマンボウ。大型深海魚で釣りでは珍重。形は似ているがマンボウではない。>
■ナイルパーチ・アカメ
岩瀬「スズキの代用、ナイルパーチはアフリカの淡水魚。デカいんだ、2メートルクラスが釣り上げられてる」
平野「白身魚のフライと呼ばれるものの肉はコレです。2003年のJAS法改訂でスズキと表示しちゃダメってなりました」
岩瀬「アカメ、メヒカリはスズキの生食代用で回転寿司で見かけるね。生態じたいも河口に棲んでるし、とっても近い。南西諸島でたくさん獲れてるアカメモドキって小型のアカメが最近は流通量が増加してる。バラマンディって近縁種は輸入されてるけど、スズキと食べ比べて分かんない味」
平野「輸入物、養殖物では問題なしですけど、国産天然アカメは絶滅危惧種に指定されているほど希少。これは代用乱獲の結果だと疑われています。裏業界でウナギの密漁が取り沙汰されましたが、天然アカメはマイナーだから注目されなかった」
岩瀬「アカメの稚魚密漁は問題だよ。組織的に行われていて、ウナギの一件と同じ奴らが絡んでいるんだ。ヤクザのしのぎにも使われている」
<その名の通りナイル生息のスズキの一種。巨大になるので釣りで人気に。白身魚のフライといえばこの魚肉!>
■ティラピア
平野「ティラピアは真鯛の代用で、寿司屋からは『あんなニセモノ』って冷たくあしらわれてきた魚。だけどギリシャとか行くと普通に食べられてる大衆魚なんです」
岩瀬「川魚でタイと呼べる代物じゃないのにイズミダイとかチカダイって名前で店に売られていたんですよ。国内養殖されてたけどコスト高と真鯛の養殖普及で近年は敬遠されてます。輸入物はまだ安いから代用に使ってる回転寿司店もある。身に臭みはないし、味は普通にイケる」
平野「焼き物で使えば下手な養殖鯛より美味いと言っていいほど美味しい」
<欧州や中東では大衆魚であるティラピア。焼くと美味しい魚。ナイル種は最もメジャーで観賞用にもなっている>
ウナギの希少化、マグロの高騰など話題に事欠かない漁業界だが、品薄・値上がりがあれば代用魚という図式はこれからも変わらないという。
(記事の全文は『月刊宝島』2014年3月号に掲載)
取材・文/岸川真