■「九州産」牛肉がターゲットに

 たとえばアメリカで1年、福島県で8カ月、兵庫県で10カ月、飼育された牛の産地はどこか。

 答えは兵庫県産だ。

 あるいは、アメリカで10カ月、オーストラリアで8カ月、国内で1年飼育された牛は、
輸入品か、それとも国産品か。

 答えは「国産」である。だが、どうしてそうなるのかを知っている消費者は
ほとんどいないだろう。

 現在、「牛肉」の産地偽装は少なくなっているが、それはいまの表示ルールから見て
偽装ではないということであって、本質的にはルールに合わせなんでも偽装できる、
そんな状況と言ってもいい。

 説明すると、最初のケースでは、.▲瓮螢で1年、国内で通算1年6ヵ月飼育されたので
この牛は国産。国内でもっとも長く飼育されたのが兵庫県なので、結論は「兵庫産」。

 次のケースでは、海外で1年6ヵ月、国内で1年飼育されたが、飼育期間が一番長いのが
国内なので、この牛は「国産」になる。 

 だが、この長いところどりルールを知れば、スーパーにおける産地表示など、ほとんど
気休めに過ぎないことが分かるだろう。「和牛では、繁殖と、成長を別々の農家が行う
分業システムが確立されている。どうしてこうなったかといえば、1つの農家が一貫して
繁殖から出荷まで担当すると、出荷できるまで3年はずっとお金が出ていくだけになり、
リスクが大きいからです。ほとんどの牛が全国どころか世界を転々としているのに、
消費者に示される産地はひとつだけ。消費者にとっては、産地表示の意味がないですし、
肥育農家にしても、固体の前歴が偽装されてないかどうかは確かめるすべがない」
(農水省担当記者)

 どうしても東北産の食材は敬遠したいという消費者が、飛騨牛や神戸牛を買ったとしても、
それがある時期東北にいたかどうかは、トレーサビリティを詳細に追跡しない限り
分からないのである。

■震災で横行する産地ロンダリング

 震災以降、和牛で値下がりしなかったのは鹿児島や佐賀といった九州産の和牛だった。 
しかし、流通の現場では「むしろいまは九州産が危ない」という声が上がる。

 福島で10カ月育った牛を安く買い、鹿児島で1年育てれば、産地は鹿児島牛となって高く
売れる。これが分かっているなら、消費者に敬遠される産地の肉こそ、九州という出口へ
向かうのは当然だからだ。

 複雑過ぎる牛肉流通の闇がある限り、偽装牛肉は出回り続ける。



取材・文/斎藤洋一 吉野浩太郎

ブランド牛1
<写真>アメリカ生まれの神戸牛は普通にある





ブランド牛2
<写真>スライスされた肉にもはや産地を判断する材料はない