『名前のない女たち』(小社刊)などの作品があるフリーライターの中村淳彦氏は、6年前から
介護事業所の経営も行っている。人材難のことしかニュースにならないこの業界。
中村氏がその暗部を晒す。

 介護業界のタブーといえば、なんといっても「介護職員の実態」である。低賃金で重労働、
だけど高齢者のために一生懸命頑張っている人たち、という世間のイメージ通りの介護職員も
たくさん存在するが、人手不足と叫ばれている通りに人材の供給がまったく追いついていない
現実がある。

 団塊の世代が後期高齢者を迎える2025年に向けて、介護業界は急拡大している。
面接に来る求職者全員を雇用してもまだ足りないという状態であり、国の雇用政策の受け皿にも
なっている。

 08年のリーマンショック以降、深刻化した失業問題対策のために厚生労働省が主導して
都道府県が実施している「重点分野雇用創出事業」では、専門職という建前があるのにも
かかわらず、ホームレスを集めて介護事業所に紹介したりしている。すでに社会から弾かれた
人材が続々と集まり、当然、現場はおかしくなる。

■命を脅かされる現場の末期的状況
 私は08年に通所介護事業の運営を始めて、思いだしたくもない様々な困難があった。
事業所が平穏無事な環境になったのは一昨年であり、離職のほとんどない普通の状態に
なるまで3年もの年月がかかっている。

 最初の3年間は施設内で職員同士の諍(いさか)いは日常で、なにをやっても完全に治まらず、
全国平均よりはるかに高い離職が続き、毎日なにかしらのトラブルが起こる状態だった。

 最大の難関は、ある介護職員に私が深刻なストーカー被害に遭ったことだった。
訴訟を起こすまでの2カ月間は、あらゆる被害を想定しながらの運営となった。
警察、行政、法律事務所すべてに相談をしたが、実際に被害にあって証拠を掴むまで
手の打ちようがない。被害のひとつを訴訟して、やっとストーキングがストップとなった。

 どうして社会的なはずの介護事業所の運営で、命を脅かされるような事態が起こるのか。
深刻な人手不足や雇用政策など、介護人材の問題を調べるほど深刻な現状が浮かびあがってくる。

 当然、氷山の一角が表面化している。13年5月。埼玉県春日部市の特別養護老人ホーム
「フラワーヒル」で、10年2月に介護職員の虐待で入居者3名が相次いで亡くなり、1名が重傷を
負ったという衝撃のニュースが報道された。傷害罪で逮捕されたのは29歳の介護福祉士・
大吉崇紘容疑者で、埼玉県警春日部署の事情聴取で「イライラしてやった」と認めている。
入職4日間で3人の入居者を虐待で殺すとは、全国的に相次いでいる介護施設での虐待とは
完全に一線を画している。事件後、近隣の10以上の施設を転々としていたと報道されているが、
まさに春日部市の高齢者はずっと死と隣り合わせだったということになる。

 最近では13年8月6日、茨城県つくば市稲荷原の特別養護老人ホーム「大地と大空」
正面玄関付近で、同ホームに勤務する土浦市の23歳の女性職員が、同僚の元交際相手の
32歳男性介護士に刺されている。女性が夜勤勤務後に待ち伏せをして胸などを数回刺す
という凄惨なもので、原因は交際のもつれという。

 現在の介護業界の実態は入居する高齢者だけでなく、働くことも極めて危険な状況ともいえる。
介護は社会的なイメージが強いが、現場の末端は末期的な状態である。これから、介護現場が
舞台となった異常な事件が続々と起こるはずである。

文/中村淳彦(フリーライター)

介護
<写真>入職4日間で3人の入居者を虐待で殺した大吉崇紘容疑者