日本最大の暴力団「六代目山口組」が7月1日に創刊した機関紙『山口組新報』がメディア内で
話題だ。三代目の時代以来、ひさびさの機関紙復活。暴排条例などで活動が極端に制限される
現在の暴力団。最大組織がこのタイミングで『新報』を発刊した意味は何なのか。

 今年7月1日に創刊された『山口組新報』。日本最大の暴力団山口組が刊行した
機関紙のことである。組員以外の閲覧、複写を禁ずる銘が打たれている。
「もし『新報』が流出したら出所が分かるようにブロックごとにパターンを変えて作ってある」
(組関係者A)という話があるだけに、たとえ入手したとしても山口組に近いメディア以外は
公表に躊躇する可能性は高い。

 組関係者Aが続ける。
「『山口組新報』は三代目を崇拝する六代目が、三代目時代の『山口組時報』を模する形で
作ったと聞いています。事務所を持っている組長に1部だけ無料配布。下の組員には配布しない。
上からは組員以外には『絶対見せるな』とキツく言われている。捨てる時は焼却処分で、とも。
まあ、どのようにマスコミに流れるのか見るための実験かもしれないね」

 また別の組関係者Bは『新報』の内容について、
「『新報』の中身は、六代目の言葉、詰め将棋、つり情報、人事、行事レポートなどが
掲載されているが、お堅い内容で俺らには正直つまらない。目を通すだけで読まない組員が
多いんじゃないか。六代目のお言葉?堅くてちゃんと読んでない。忘れたよ(笑)」とそっけない。

 暴対法、暴排条例下、鉄の結束を誇ったはずの山口組も幹部クラスの逮捕収監が相次ぎ、
その勢力を減退させているとの見方があるなか、この『山口組新報』が関係者に与えた驚きとは、
地下に潜るほかないと見られていた山口組がひょっこり「表」に出てきたことである。

 今はヤクザが目立つとダメな時代のはずだ。それなのに・・・
と警察をはじめてとした多くのウォッチャーを驚かせたのである。

警視庁関係者は『新報』刊行の理由をこう分析する。
「『新報』は、山口組幹部と末端構成員が情報共有するのが目的というより、
精神的な紐帯(ちゅうたい)を取り戻そうとしたのではないか」

 また、山口組の“本拠地”である関西の大手紙新聞記者は、
「この『新報』は外部流出を固く禁じているのは確かだが、マスコミに流れることも
想定済みなのではないでしょうか。どちらにせよ、『山口組、ここにあり』を示せたことは、
目的にかなったといえるかもしれない」と、『新報』発刊の意味を評価する。

■「一人組長」が増加している
 では、山口組の内情はどうなっているのか。前出組関係者Aが語る。
「会費の金額、システムは変わっていないが、会費を何年も滞納している組員は多数存在する。
会費より、所得で納付額の高低がある税金・年金のほうがましだとボヤいている組長もいる。
会費の制度自体を変えてほしいのが中堅クラスの組員の本音ではないか」

 また現在のシノギに関して、組員Cは、
「シノギの最新トレンドは詐欺。太陽光発電やFXあたりが熱いな。正業を持つヤクザが
とにかく増えた。飲み屋、キャバクラ、飲食系が多い。またそれとは別に、もともと飲食、
水商売系の仕事をやっていた堅気のなかには、ケツ持ち代を払いたくなくて組員になる輩もいる。
シャブ(覚せい剤)はもちろん今でもダメ。捕まって新聞に載ったら即アウト(破門)。
ネットの掲示板やSNSならばセーフ、というわけのわからんルールもある」

 と語るが、この組員Cは暴排条例以降、格段にシノギがやりにくくなったとぼやき、
「暴排条例の目的はズバリ、シノギの枯渇とヤクザの一般社会からの隔絶」と言い切った。
その影響は最大組織の山口組といえども確実にあるようだ。一時期3万人を超えたと
いわれている組員も、櫛(くし)の歯が抜けるような状態だという。

 「組員はどんどん辞めている。警察に駆け込んで暴排条例の中止命令を出してもらえば
無難に辞められる。そんな奴も実際にいる。なので、辞めるのに指をつめたり金払ったり
することはもうない。それと並行して、一人組長がどんどん増えている。事務所も若い衆もなし。
影でバカにされているが金があれば出世する。そんななか、山健(組)だけは一人組長を認めず、
事務所と一定数の若衆が組長の条件と聞く。金がすべてではない厳しさに、他の組は尊敬の
眼差しを向けている」(組員C)

 別の組関係者Dはこう強調する。
「今の若者はヤクザになりたがらない。それどころか『ヤクザはなるものじゃなくて使うもの』
という認識。関東連合と同じ感覚の奴が増えている。そうなって仕方ないかもしれないな。
今いる若い衆も、上にとことん利用されて搾(しぼ)り取られて、『いいことなんて何もない、
ヤクザ辞めたい』となってしまっているからね」

 警察関係者によれば、
「山口組の正規の組員は1万人を切っているのではないか。もちろん準構成員や
密接交際者を含めればまだまだ巨大な組織であることに違いはないが」という。
正規の組員が減少傾向にあるのは、間違いなさそうだ。

 山口組関係者のなかには、組内での役職が上がること、昇進を断る組員がいるという。
「警察の手前、目立つことが嫌で、また組内でやっかまれると、タレコミなどで『刺される』のを
恐れている」(前出・組関係者A)のだという。

 まさに内憂外患を抱えた巨大組織山口組。しかし見方を変えれば「こんな時代にあって、
今なお存在することの不可思議さ」もあるだろう。

30年以上、暴力団対策の現場を歩いてきたあるベテラン捜査員は言う。
「末端はともかく、上の人間がいったい何で稼いでいるのか、よく分かっていないことが
たくさんある。なんであんな豪勢な家と車を持ち、愛人までいるのか・・・」

 『山口組新報』の内容からは決して見えてこない山口組の全貌。果たしてこの巨大組織は、
どこへ向かおうとしているのか。

山口組
<六代目山口組、司忍組長。『新報』の「巻頭の辞」では、「混沌とした
厳しい時代だからこそ、そこに可能性がある」と述べている。
その真意は?>