ネコも杓子も『あまちゃん』『半沢直樹』と喧(やかま)しい。もう異常である。
どうしてこれほど人気があるのか。全テレビドラマをチェックする気鋭の
テレビドラマ評論家、吉田潮氏がヒットの秘密を分析する。

 テレビドラマ界に激震が起きたのは一昨年。日テレ『家政婦のミタ』が最終回で
視聴率40%超えの大成功を収めたからだ。通常、ドラマの視聴率は13%超えれば御の字、
20%超えれば大ヒットと称される。ドラマ黄金期の昭和の時代とは異なり、各局が
苦戦しているのが現実。そんな平成の時代に、40%超えなんて異例中の異例だったワケだ。

 個人的には視聴率なんか正直どうでもいい。自分が面白いと思う作品が多ければ多いほど
うれしい。好きな俳優が登場するだけで観続けるし、原稿を書ける。でも今回はなんだか
周囲の温度が違うので戸惑っている。

 NHK朝ドラの『あまちゃん』やTBS『半沢直樹』への熱のこもりようがハンパなく、週刊誌の
コメント取材なども執拗に入ってくる。物語の顛末を勝手に予想したり、ヒットの理由を考えたりと、
あの手この手で人気にあやかろうとする輩が多い。はい、この原稿もそれそのものです。
つうことで、ちょいと斜に構えつつ、この二作品のヒットの法則を考えてみた。

■サルでも飛びつく必殺のワンフレーズ
 サルでもわかることだが、流行語大賞になりそうな決めゼリフや決まり文句があれば強い。
『あまちゃん』は「じぇじぇじぇ」、『半沢直樹』は「やられたら倍返しだ!」。キャッチーな
ワンフレーズに日本国民はどうも弱い。選挙時の投票行動と同じだ。内容がさっぱり
わからんまま「アベノミクス」のワンフレーズにすっかりダマされちゃう。とにかく単純だ。
『家政婦のミタ』でも「承知しました」ってセリフがあったっけ。

■嘘くささがないリアルな家族像
 3・11以降、テレビ局は自粛に自粛を重ね、ドラマもなんだか貧乏くさく、お涙頂戴モノが
多かったような気もする。やたらと家族愛を強調したり、お仕着せがましい清貧モノが続いた。
そんな嘘くささに飽き飽きしていた人が『あまちゃん』のリアル家族像に共感したのではなかろうか。

 今までの朝ドラはヒロインが耐えに耐え、愚痴ひとつこぼさず、父権社会の犠牲者と
なってきた。家族は絆であると同時に、女性の自由と意志を奪う足枷となる物語が定番だ。
ところが『あまちゃん』では歴代の朝ドラには決して描かれなかった家族形態がてんこもり。
主人公アキ(能年玲奈)の母・春子(小泉今日子)は、のっけから夫(尾美としのり)に
罵詈雑言を吐きちらし、足蹴にするわ、離婚するわで大暴れだった。

 また、アキの祖母(宮本信子)と船乗りの祖父(蟹江敬三)は1年で10日程度しか
共に過ごさない、ほぼ別居婚状態の夫婦だ。おまけに漁協組合長と海女の夫婦
(でんでん&木野花)は離婚しているが未だに同居。戸籍上の家族や夫婦が一緒に
暮らすことを前提としていないところが新しい。

 結果的に登場する人々は、嘘くさい家族愛や面倒くさい血縁関係に縛られてないため、
自由闊達で説教くささがない。これが脚本・宮藤官九郎の独特な魅力のひとつだし、
幅広い視聴者層の獲得につながったと思う。

 一方『半沢直樹』は銀行を舞台にした企業モノだが、理不尽かつ悪徳な上司と闘う
銀行マンの復讐劇である。震災以降NOと言えない&言わない、空気を読むことばかり
求められてきた人たちは、主人公・半沢(堺雅人)のセリフに胸がすいているのかもしれない。

 金と権力に群がる上司に真っ向から挑む姿は、潔白すぎて少々鼻白む部分もある。
それでも胸に秘めた暗黒面(父を死に追いやった銀行上層部への復讐)と、それなりの
上昇志向も併せ持つ半沢は結構人間くさい。

 嫁(上戸彩)の尻に敷かれているところもリアルである。嫁が作る雑穀米&野菜中心の
献立を見る限り、彼は揚げ物や肉を食べさせてもらえないのかと不憫に思う。でもコレが現実。


■脇を固める俳優陣が絶妙かつ適材適所
 ヒットドラマは主役が脚光を浴びることが多いが、実はあまり重要じゃなかったりする。
いや、もちろんそれなりのインパクトや演技力、雰囲気は絶対に必要だ。能年の素朴さは
類まれなる透明感があるし、堺もあの年代では群を抜いて力量のある俳優だ。
ただし、ヒット作の秘訣は脇役陣の固め方だと思う。

 『あまちゃん』では、喫茶兼スナック梨明日(リアス)に集まる面々だ。直球すぎて暑苦しい
杉本哲太、マザコン独身男感たっぷりの荒川良々、虐げらている琥珀堀りの塩見三省、
事なかれ主義の吹越満、アドリブ感満載の皆川猿時、発言がいちいちアウトサイダーな
伊勢志摩、自虐が面倒くさい片桐はいりなど。もうね、挙げたらキリがない。

 これだけ登場人物が多いのに、それぞれの個性が強烈でキャラが立っているのは珍しい。
濃厚なのにユルい仕様の脇役陣は、視聴者をマニアに変える力がある。『半沢直樹』は
わかりやすいキャスティングが功を奏している。ほうれい線の深さと眉の薄さで悪玉感を
醸し出す香川照之、精神的に追い込まれ左遷された滝藤賢一、謎のオネエキャラが異色の
片岡愛之助、小物感が強烈な石丸幹二など、手練(てだれ)の役者を投入。善人と悪人が
明確で、それぞれの存在感も大きく、印象深い。

 と思えば、芝居がクサくても、独特の雰囲気でキャラ設定を成功させた脇役も多い。
堺の敵か味方かまだ不明な及川光博、見た目が極悪チンピラの宇梶剛士、愛人以外の
何物でもない壇蜜、大阪のオッサンそのまんまの赤井英和など。演技力ではなく完全に
雰囲気勝ち。適材適所ってこういうことかと感心したもの。

 芝居ができない俺様中年アイドルや、集団でなければ集客できない口パクアイドル、
事務所のゴリ押し女優が主演のドラマなんて、テレビ局の魂胆が透けて見えるだけ。
視聴者はそこまでバカではない。新鮮で面白い脚本と設定、実力のある役者陣が揃わないと、
大ヒットは到底無理だと思う。

文・イラスト/吉田潮

ドラマ
<脇を固める俳優人>