■刻々と身近になっている遺伝子組み換え問題
 ドキュメンタリー映画『世界が食べられなくなる日』が話題を呼んでいる。長期に渡る
マウス実験による遺伝子組み換え作物の影響を考える内容で、これに対し我が国でも
賛否両論が沸き起こっている。

 「ヨーロッパでは概(おおむ)ね支持されているようですが、偏向ではないかと批判もあります」
とは、パリ在住の映画研究者の意見。だが、ドキュメンタリー映画で公平性を問うのが実は
ナンセンスだ。傑作『水俣病』シリーズ監督・土本典昭(のりあき)は「ドキュメンタリーはどちら側に
寄り添うかが問題だ」と述べている。遺伝子組み換え批判映画は危険性を訴える側に寄り添った
ものなのだから、安全性を訴える側でも作品を作ればいいのだ。

 それはさておき、僕を含め、一般の方は「遺伝子組み換え?食品表示とかしてるし、
日本じゃ危機管理が行き届いてるんじゃないの?」という程度の認識ではないだろうか。
ところが全然違う。日本は遺伝子組み換え植物輸入の最大手なのだ。朝食のフレークや
ドライフルーツも遺伝子組み換え作物が多いという。ご存知のように日本の食料自給率は
驚くほど低い。同じく肥料や畜産用飼料の原料たる穀物も輸入依存である。

※映画『世界が食べられなくなる日』とは?
フランス人監督ジャン=ポール・ジョーが放つ新作ドキュメンタリー。“遺伝子組み換え”と
“原子力”、いのちの根幹を脅かす二つのテクノロジーの三つの共通点を明かす。
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知らないうちに遺伝子組み換え食品を口にしている。スーパーに並ぶ加工食品の80%に、
遺伝子組み換え作物が混在している。私たちはどんな未来を選ぶのか?
2013年6月8日(土)〜渋谷アップリンクにてロードショー

■我が国の遺伝子組み換え作物への認識・現状
 有機農家の今枝平吉さん(千葉) と畜産家の野村逸夫さん(長野)は、現場の声としてこう語る。
「遺伝子組み換え飼料が危ねえとは聞いてるよ。でも農協の会合とかでは具体的に
何が危ないとか出ないんだなあ」

 「私んところの飼料は基本、兄が栽培している穀物のおこぼれをもらってるんです。豚は
放し飼いで勝手に餌を探させてるから。で、正直言うと、遺伝子組み換え飼料がどういう弊害が
あるのか、詳しくはわからんです。大学の農学部でも畜産科でもバイオテクノロジー作物に
関する研究が一般的見解のみで参考にならんのです。信州大の先生に質問するとバイテクの
学部、生物学との平面的学問の繋(つな)がりがないからと、こうですわ」

 当事者でもこの認識が限界という状況だ。では市民レベルではどうなのか。日本の生協では
10年以上、遺伝子組み換え飼料に対し反対姿勢を取り続けており、毎年リスクテスト結果を
公表している。モンサント社の除草剤ラウンドアップ、バイエルクロップサイエンス社の除草剤
パスタの二種に対する耐性検査がそれだ(表1)。

 除草剤に接触する植物は枯死するが、除草剤耐性遺伝子を組み込まれた植物は枯れない。
遺伝子組み換え種子による作物は育ち、自然由来の植物は枯れるので科学介入による
淘汰(とうた)が起きる。その結果、遺伝子組み換え作物は確実に収穫されるという仕組みだ。
その耐性作物があるか(=遺伝子組み換え作物か)どうかの検査が自主的に行われている。

 「農水省が行うテストの安全基準が低いので我々が行わねばと始まった検査です。
遺伝子組み換え作物を食べて育った牛・豚・鶏がどういった変化を起こし、またそれを
食べた人間がどういったリスクを長期的に負うのかがわからない状況では、消費者の
安全の観点から反対せざるを得ないんです」

 グリーンコープ生協くまもとで働く職員Aさんはこう述べた。さらにAさんの上司が付け加える。
「人間が直接食べる遺伝子組み換え食品への意識はまだ高いが、二次的となる、組み換え
飼料で育った畜産物を食べた場合の問題認識は一般的には低い。公平な長期的検査研究が
なされない限り、反対派と推進派の溝が埋まることはない」

 検査で名前が出るモンサント社とバイエルクロップサイエンス社は欧米最大手のバイテク
企業である。彼らが開発した農薬耐性種子によって起こる弊害報告には、農民が同社の
遺伝子組み換え作物の種子に頼りきりになった場合、品種特性に多様性がないため病虫害や
品種と栽培地帯とのミスマッチが起きたり、種子の値段の高さからかえって農民が困窮する
事例がある。

 困窮する理由は、耐性種子は使用するたびに毎回許諾料を社に支払う義務があるからだ。
また、ラウンドアップ使用で枯死しない雑草が独自進化してしまい、想定外の農薬が必要になり、
この農薬への耐性をもった種子を開発するという本末転倒な事態も起こっている。欧州連合や
アメリカの独立系農家が反対運動を起こしているのはこうした事情によるものも大きい。

 つまり遺伝子組み換え作物の危険性とはまた別に、農家の金銭的負担が大きいことや、
その結果植物環境の変化を引き起こすことが危惧(きぐ)されているのだ。
「日本の場合は農協や組合の保護下にある。だからリスクに対しての意識が低いのではないか」
こうグリーンコープ生協さが職員は語った。

取材・文/岸川 真

遺伝子
<表1>生協が発表している遺伝子組み換え飼料への耐性作物があるかの検査結果