犯罪とわかっているのに、スカートからのぞく足をみると衝動を抑えられない男たち。
なぜ彼らは人生破綻のリスクを冒してまで盗撮に走るのか。その陰にあると指摘される
スマホの普及を含め、社会学、法律学、心理学の観点から、彼らの変態行動の解明を試みた。

■1年で30%も増加!盗撮犯の素性は?
 2012年8月、京阪線の車内で、27歳の男が通勤中だった女性のキュロットスカートのなかを
スマートフォン(多機能携帯電話、以下スマホ)で動画撮影したとして現行犯逮捕された。
男は取り押さえられても抵抗することなく、駆けつけた警察官の質問に対して素直に「大阪地裁の
裁判官です」と答えたという。

 そう、いまや電車に乗れば、多くの人がスマホの画面をのぞき込んでいる。そんなスマホを使った
気になるニュースが増加している。電車や駅といった公共の場での“盗撮”事件だ。警視庁が
発表している盗撮の送検数は08年から年を追うごとに増加。とくに、10年から11年にかけては
263件と、前年からなんと30%も増加したのである。

 しかも驚くべきことに、このなかには公務員や警察官、教師など社会的な模範たるべき、
かつ安定した立場にある人々が少なくない。逮捕されれば罰金や懲役刑になるだけでなく、
ニュースなどで実名をさらされて社会的な信用を一気に失う可能性が高い。リスクとしては
高すぎるともいえる。にもかかわらず、なぜこのように「盗撮に走る男たち」が増加の一途なのか?

■誰でも簡単に盗撮できる無料『無音アプリ』の浸透
 アップル社のiPhone3Gの販売が日本で開始されたのは、08年7月のこと。それを皮切りに、
各社からスマホが次々と登場した。時期としては盗撮送検数の増加とリンクしているように
みえるが、こうしたスマホの普及と盗撮事件の増加の間には関係性があるのだろうか。

 「スマホのように簡単に撮影できるツールの誕生が盗撮のチャンスを人間に与え、実際の行動に
移らせる契機となった可能性は十分にあり得るでしょう」そう語るのは、追手門学院大学社会学部の
柏原全孝(かしはらまさたか)准教授だ。

 「実際にスマホの普及と盗撮の増加にどれほどの因果関係があるのかはまだわかりませんが、
スマホという“手段”とミニスカートの女性が目の前にいるといった“状況”がそろえば、衝動的に
盗撮行為に駆り立てられてしまうことも考えられます」(柏原准教授)

 これまでも、携帯電話というどんな状況で操作しても不審に思われないツールは存在した。
だが、撮影時には必ずシャッター音が鳴る仕組みになっており、マナーモード時でも消すことが
できない音が、盗撮行為への抑止力になっていたのだ。もちろん知識のある人間が改造すれば
無音化できたが、素人には難しかった。

 しかし、スマホの場合は事情が違う。そう語るのは、非営利団体『全国盗撮犯罪防止ネットワーク』
の代表、平松直哉氏だ。
「スマホならば誰でも簡単に、しかも無料でシャッター音を消すアプリをダウンロードできます。
つまり、素人が簡単に無音のカメラを手にすることができるようになったのです。こうした無料
『無音アプリ』の普及が、盗撮事件増加の一因といえますね」

 平松氏の言葉の通り、無料でダウンロードできる『無音アプリ』は数え切れないほど存在する。
もちろん、アプリの使用目的としては寝ている赤ん坊やペットを起こさないように撮影できると
説明されており、「盗撮などに使用しないで下さい」という但し書きもある。だが、なかには
盗撮目的と疑われても仕方がないものが存在するのも事実だ。

 たとえば、『無音連写カメラくん』は脇からのぞき込まれてもカメラを起動しているとわからないよう、
ウェブサイトの画面を表示させたまま撮影できる。さらに、一度撮影を開始すると中断ボタンを
押すまで勝手に連写し続ける機能もある。これらを使い、周囲に気付かれないまま盗撮を行う
ことは十分に可能だ。

■男であれば誰しも盗撮を行う可能性がある
 「じつは、盗撮願望を持っている人は少なくないかもしれません。それは男性の精神的特徴の
ひとつだからです」そう語るのは、痴漢・盗撮改善の相談を請け負うカウンセリングオフィスAXIA
の心理臨床カウンセラー、衣川(きぬがわ)竜也氏だ。

 「男性は肉体的に性行為が可能になる時期と、性に関心を抱きはじめる時期にズレがあります。
つまり、男性は幼少時に『性に興味があるがなにもできない』という一種の欲求不満を抱く時期が
必ずあるのです。そして、そうした願望が抑圧される時期に、個々人の性的嗜好や性癖が
決まるのです」(衣川氏)

 もちろん、世の多くの男はそうした欲求があっても理性でそれを防止している。だが、そのたがが
はずれてしまうことがある。その原因となるのは過度のストレスだと衣川氏は指摘する。

 「衝動は脳の大脳辺縁系、理性は大脳新皮質が支配しています。ストレスは脳の働きに
影響しますが、どこに影響しやすいかは個人差があり、理性や合理的な思考を生む部分に
影響が出る人もいる。そのため、通常の状態ならば『盗撮したい』という衝動をストップさせる
前頭前野が機能せず、そのまま運動(実際の盗撮行為)に移るのです」

 もちろん、欲望の向かう先は盗撮だけではない。人によっては痴漢、露出行為になる。
だが、いずれの場合もその根底にあるのは、男なら誰もが持っている性的欲求なのだという。

 「とくに注意しなければならないのは、そうした自分の欲望に気付いていない人が多いということ
です。彼らは自らのストレスに対しても自覚を持っていないことが多く、知らず知らずのうちに
ストレスをため込み、最悪の形で爆発してしまう可能性が大きい。また、そういった人は我慢強く、
ビジネスの場では黙々と仕事をこなす優秀な人材と評価されていることも少なくありません」
(衣川氏)

 12年8月に盗撮で書類送検された、当時日本IBMの最高顧問を務めていた大歳卓麻は、
この例に当てはまるのかもしれない。大歳はほかにも大手企業5社の社外取締役を兼任しており、
関係者の間では「普段の生活からは想像がつかない」といわれていたからだ。また衣川氏は、
すぐ人やモノに頼る依存的な性格や、自分の非を認めようとしない逃避的な性格の人も盗撮に
走りやすいと指摘する。

 とにかく絶対に忘れてはいけないのは、盗撮など自分には関係ないと決め込んでいた人も、
条件さえそろえば盗撮に及ぶ可能性があるということだ。そして最後に。盗撮は発覚しづらい
犯罪と前述した。ということはつまり、こんなにも多くの盗撮犯罪者が捕まっていると驚くのではなく、
実際はその何倍もの被害があると考えたほうがいい。それは、逮捕されていない犯罪者が
まだ数多くいるということにほかならない。

取材・文/オフィス三銃士

盗撮
<盗撮に走りやすい人の傾向>