「警察官の不祥事」が後を絶たない。治安を守る警察の質が落ちているのだろうか?元神奈川県警の
大規模警察署で退職した50歳代の警察官から入手したタレコミ情報を元に、警察の内部事情に迫った。

 タレコミの内容は以下。「神奈川県警では、組織的に被害届をもみ消しています。署内では、
(被害届を)にぎる、とか、つぶす、と表現していました。事件の発生件数を減らし、検挙率を上げる
ためにやっていました。被害届を多く取るとペナルティがあったほどです。私が在勤した警察署は全て
やっていましたから、全署でやっていると思いますよ。地方の小さい県警察のことは分かりませんが、
大きな都道府県警察はどこでもやっていると思いますよ。

 これは、一警察官の問題ではなく組織ぐるみと言えると思います」これはいったいどういうことなのか?
元神奈川県警・部長刑事の小川泰平氏に詳しい話を聞くことにした。

【「もみ消し」ではなく「不受理」とは?】
●ズバリ聞きますが、神奈川県警では「被害届のもみ消し」が行われているのですか?
または、過去に行っていたのですか?
小川 言い訳に聞こえるかも知れませんが、「被害届のもみ消し」ではなく、被害届を受理しないように
していたのは事実です。「もみ消し」ではなく、「不受理」なんです。被害者の方から被害届を受理した
にもかかわらず、そのことを報告せず、被害届を刑事課に提出しないのであれば、「被害届のもみ消し」
にあたりますが、実際は被害届を受理していないわけです。

●被害届を受理していないから、「もみ消し」ではないと?
では、( 被害届を)「にぎる」 とか、「つぶす」 という言葉は知っていますか?
小川 ええ、もちろん知っています。被害者が被害届の提出に来たのに、被害届を受理しなかった
場合に、にぎる とか、つぶす という言葉を用いていましたね。例えば、「今、マル害(○に害の字で
被害者のこと)が置き引きのタレを出しに来たけど、にぎっておいたから」といったように使っていました。
(タレとは被害届のこと)

●小川さんは、被害届のもみ消しはやっていないが、被害届をにぎったりつぶしたり、したことがあると
いうことですか。
小川 慙愧(ざんき)に堪えませんが、現職時代に何度かそのようなことがあります。

●なぜ被害届をにぎったり、つぶしたり、する必要があるのですか? 被害届を受理するのが、
そんなに大変だったり、面倒であったりするのですか?
小川 被害届を受理するのは大変でもありませんし、面倒でもありません。逆に、被害届を提出しに
来た方を説得して(うまく話して)被害届を提出させない(受理しない)方が余程大変ですし面倒です。
私の場合は、説得するのもそれなりに上手でしたが、若い警察官は大変だったと思います。苦労して
いました。

【検挙数、検挙率、すべて数字で評価される世界】
●それなら、なぜ被害届を受理しないのですか?
小川 それはやはり、犯罪の発生件数と検挙率の関係があるからだと思います。10数年前までは、
警察は検挙率一本でしたが、現在は犯罪抑止にも検挙率同様に力を入れています。いくら、検挙率が
上がっても犯罪の発生件数が増えていたのでは評価されないのです。犯罪の発生件数を減らし、
検挙率を上げてこそ、目標を達成したとなるわけです。分母と分子の関係なんですね。
被害届の件数=犯罪の発生件数が、分母になるわけです。検挙件数は、分子です。100件の
被害届で、35件の検挙があれば、100分の35ですから、検挙率は35%になります。ここで、15件の
被害届を「にぎって」いたとします。すると分母の100が85になり、85分の35ですから、検挙率は
41%になるわけです。簡単な話、検挙の数が上がらなくても、被害発生件数を減らせば、検挙率は
大幅に上がるのてす。

●被害届を多く取るとペナルティがあるという話がありますが本当ですか?
小川 これは、ちょっと大げさな表現だと思います。被害届を数多く受理したからといって、必ずしも
ペナルティがあるわけではありません。ただ事実、2年前(2010年12月)に、神奈川県厚木警察署で
夜間当直中の事件認知件数(つまり被害届)が10件を超えたら当直員約50名全員が、非番
(当直日の翌日)勤務を夕方まで課せられ、交通違反の取り締まりや、少年補導等をやっていたと
いうのが読売新聞等に報道されました。

 当直勤務というのは、午前8時30分〜翌日8時30分までなのです。通常なら、明け番(非番)は
帰宅して、死んだように寝ているのが現実です。ですが、非番の夕方までの勤務は相当キツイですし、
時間外手当(残業手当)は全くないサービス残業だと聞いています。これを4月から12月までやっていた
というのですから、相当厳しいペナルティだとおもいます。

 そのお蔭かどうかは分かりませんが、当時厚木署はその年(2010年)は前年比約マイナス770件
(約20%)程度事件の認知件数(被害届)が減少していました。2010年神奈川県下各警察署の認知
件数の減少は約5%でしたので、厚木警察署の20%減というのは異常な数字だと思いました。私は、
厚木署で見ていたわけではありませんので、推測でしか話せませんが、被害件数減少の中には、
いわゆる、「にぎり」「つぶし」が含まれていたのではないかと思います。

【窃盗事件なのに捜査ができない「万引き」】
●このようなペナルティがあったから、被害届を受理しない「もみ消し」紛いのようなことを
していたのですね。
小川 もちろん、厳しいペナルティ逃れのために被害届を受理しなかったというようなこともあると
思います。ですが、他にも理由はあります。被害届を提出されれば捜査の端緒となり、被害者からの
事情聴取、参考人、目撃者等からの事情聴取等々捜査を実施し、犯人を逮捕(検挙)するわけですが、
中には捜査自体が全くできないものも少なくはないのです。

 例えば、万引きです。大型スーパーや、量販店等では、月末の棚卸しの際に売却履歴がないのに
品物がないものを、万引きとして被害届を提出してくるところもありました。発生日時が、○月1日
午前10時00分〜○月30日午後6時00分までの間、といった感じで期間が1か月間もあるのです。
その理由は、保険請求のためだそうです。盗まれたと被害届を出しておけば、保険金で補える
システムになっているわけです。大型スーパー等は価格競争が激しく、人員削減に徹していますから
店員や従業員の数も少なく、店舗全体に目が行き届かないのが現実なのです。有効な防犯手段と
しては、制服の警察官をパトロールさせるのが一番ですが、店側から制服では店内に来ないでくれ、
営業妨害だと拒まれます。

 スーパーの万引きのために、私服の刑事を張り込ませるほど警察も暇ではありません。結局は、
パトロールすることも出来ず、店側の防犯に任せるしかないのです。万引きといえども、立派な
窃盗罪で、検挙率でいう、分母になるわけです。通常万引きと言えば、現行犯ですから、発生=検挙と
なるわけですが、保険請求のためだけに提出された万引きの被害届の多くは時効をむかえる7年間、
未検挙となる可能性が非常に高いわけです。万引きの品物で多いのは、衣類、靴、メガネのフレーム、
化粧品、等々で電化製品のように製造番号があるものではなく、盗品としての手配もできないもの
ばかりなのです。

 他には、電車の中で、肩が当たったとかで被害届を出しに来る人もいます。相手の人相着衣も
分からない。全く手がかりのない状態で、捜査のしようもないようなものも多いのです。その他には、
スリに遭った、と来ますが、どう考えてもスリではなく落としたのだと思われるものも多いのです。
そのようなものは、被害届ではなく遺失物届に代えて受理したりしているのが現状だと思います。
なので、傷害事件の被害届を受理しないとか、空き巣事件の被害届を受理しないというのでは
ないのです。

【全国どこの警察も同じようにやっている】
●小川さん自身、退職した今の考えでいいのですが、やはり、検挙率を上げるためには被害届の
不受理や被害届のもみ消しも、やむなしとお考えですか?
小川 YESかNOで答えるなら、NOです。ただ警察は何だかんだと言っても、最後は数字なんです
よね。毎年警察は、事件の発生件数、検挙件数、検挙率等々を発表しています。また、どの都道府県
警察でも前年と比較し、前年比+○○%と目標を設定します。

●ノルマですか?
小川 警察は、努力目標とか、目標数値、と言っていますが、簡単に申し上げるとノルマと同様だと
思います。この、数字での管理が続く限り、前年と比較する体制が続く限り、被害届を制約なしに
すべて受理していると、えらい数字になると思いますよ。ですが、どこかで一旦リセットして、全体の
検挙率にこだわらなければいいと思います。全体の検挙率が下がっても、凶悪事件の検挙率、
性犯罪の検挙率、窃盗でも空き巣や忍び込み、事務所荒らし等、侵入盗の検挙率、といったように、
全国民に理解して頂けるように発表をすれば、全体の検挙率が下がったとしても、理解は得られると
思いますし、国民のみなさんもそれを望んでいるのではないかと思います。もちろん、現場の警察官も
それを望んでいるはずです。

 警察官の大半は、数字のために仕事をしているのではなく、凶悪犯人や、大泥棒を捕まえたくて
ウズウズしているのです。数字のために、自転車ドロや万引きを捕まえたい等と思っている警察官は
1人もいません。ですから、ここ近年は検挙率が向上しているのです。 ですが、人々が感覚的・
主観的に感じている「体感治安」は悪くなっているというのが事実だと思います。体感治安の悪さは、
毎日のように報道されている警察の不祥事も原因の1つだと考えます。

【もともと警察は、「あたたかい職場」だった】
●なぜ、あんなに警察の不祥事が多いのですか?
小川 非常に難しい質問ですね。先日、お正月の対談番組で、作家の伊集院静氏とビートたけし氏の
話の中で、『最近の警察はどうなっているのか?』という話になり「今の警察が特に悪いわけではなく、
昔と同じだよ、ただ今は悪いことをしたらすぐに発表して、書かれるからね」 と言っていたがまさに
その通りだと思う。私自身も、30年前や20数年前と今を比べて、現在が多いとは感じてはいません。
もちろん、他の都道府県警察も同様であろうと思っている。

 神奈川県内でも他の警察のことは分からないことが多いが、県下各署に同期生や同僚先輩後輩が
いるので、そのような話は人づてに耳に入る。例えば、○○署の○○は酒飲んで物件事故起こして
辞めたらしいよ。とか、酔っ払って一般人と喧嘩してぶん殴って辞めさせられたらしいよ、等々よく
聞いたものです。ただ昔は今のように、厳しく厳格に逮捕したり、事件化されなかったことが多かった
ように思います。

●つまり、事件をもみ消していたと・・・
小川 10数年前にあった、隠ぺいですよね。それまでは、確かに事件化されず、第二の人生のために、
円満に退職していった者が多かったと思います。つまり面倒をみてもらって退職していったのです。
そのような光景を実際に見ているから、廻りの者も仕事を寝ないでやったのだと思います。ある意味、
温かい職場だと思っていました。ですが、最近はそれも感じられず、数字にこだわるサラリーマン化
してきているように感じます。それと、警察官になりたくて警察官になった者が多いとは思いますが、
最近の若い者の中には、公務員になりたくて警察官になった者も多くいるのも現実です。私が警察官を
拝命した30数年前は全員が警察官になりたくて正義感を強く抱いて警察官になっていました。
そのあたりも違うのかな〜と感じています。

警察

<相次ぐ不祥事の舞台となった神奈川県警の逗子署>