“大地震の確率が上がった街”ワースト10

■2年ぶりに公表された地震動予測地図
 2012年12月21日。政府の地震調査委員会から、あるデータが公表された。それが、12年から
30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を色分けで示した「全国地震動予測地図」だ。
同様の調査は02年から毎年公開され、その判断基準は地震を起こす活断層の長さや、同じ地点で
大規模な地震が発生する周期などで算出されてきた。

 ただし11 年は、東日本大震災を予測できなかったことによりいくつもの課題が指摘されたために
発表が見送られていた。だが昨年末、ついに3・11後では初となる最新の発生確率が示されたので
ある。地震調査委員会によれば、今後は東日本大震災のような地震を“想定外”としないように、
過去に起きた最大規模以上の地震発生も考慮し、地震動ハザード(危険性)の過小評価をなくしていく
という。その上で、この予測結果に「現時点では最良」というコメントを寄せた。

 またこの発表では、同時に全国の都道府県庁所在地等が30年以内に震度6弱以上の揺れに
襲われる確率が数値化された。その結果をみると、47都道府県庁所在地のなかで前回の調査結果
よりも確率が上昇したのは36地点。なんと、全国約7割の場所で地震の発生確率が上昇したのだ。
その図版化された内容をみれば、北海道の根室市周辺と、茨城県から高知県にかけての
太平洋沿岸地域で高い確率が示されていることがわかる。

 ちなみに、前回の予測結果から発生確率が大きく上昇した都道府県庁所在地の上位10カ所を
まとめると、以下のランキングができあがる。茨城県の水戸市では、じつにプラス31%と2年前の
結果のおよそ2倍、千葉県千葉市もプラス11%と桁違(けたちが)いに増加している。

地震

<全国都道府県庁所在地 地震発生確率上昇度ワースト10>

■茨城県に3・11以上の大津波が襲う危険性も
 ではなぜ、震度6弱以上の地震発生確率に関し、茨城、千葉は2年前の調査から大きく上昇した
のか。「その原因には、先に起きた東日本大震災がある」そう指摘するのが、筑波大学で地震と
防災の研究を行う八木勇治(やぎゆうじ)准教授だ。

 「3・11を引き起こした東北地方太平洋沖地震は、日本列島の東側にある太平洋プレートと東日本が
載っている北アメリカプレートの境界線で発生しました。太平洋プレートが北アメリカプレートの下に
沈み込むことでひずみが生じ、そこに蓄えられていたエネルギーが開放されて起きたのです。しかし、
茨城県沖はこのプレートのひずみが解消されていない可能性があります。そのため、このエリアで
M8クラスの巨大地震が発生するかもしれないのです」

 八木准教授によれば、茨城県沖で最後に同規模の地震が起きたのは江戸時代。1677年の
延宝房総沖地震である。それから330年以上もたっているため、同様の地震が発生することは
十分にありえるという。

 「延宝房総沖地震では揺れによる大きな被害は報告されていませんが、津波の大被害についての
記録が多くあります。もしもまた同じような地震が起きれば、地震動以上に大津波による被害を想定
しなければならないでしょう」(八木准教授)

 事実、昨年8月の茨城県の発表によれば、同県沖合で最大クラスの津波が発生した場合、
北茨城市は最大11・5メートルもの津波に襲われるという。この津波は、3・11での最大クラスと
なった宮城県石巻市を襲ったものより、さらに約3メートルも高くなる。甚大な被害をもたらすことは
容易に想像できるだろう。

■海溝型地震には大げさな警戒こそ必要
 また、茨城県海上では昨年12月15日にもM4の比較的大きな地震が発生した。これは、茨城県
沖地震と関連性があるのだろうか。「12月15日の地震は東北地方太平洋沖地震の余震のひとつ
なので、直接関係はありません。また、『M4レベルの地震が何度も起きることでひずみが緩やかに
解消されるのでは?』などと考える人もいますが、これは間違い。マグニチュードが1段階上がるごとに
放出される地震のエネルギー量は、約32倍もの違いがあるからです」(八木准教授)

 つまり、M8の地震1回に匹敵するエネルギーをM4の地震で放出するためには、単純計算で
32の4乗、約104万回もの地震が起きなければならないことになる。数十回程度の小さな地震では、
ほとんど巨大地震のリスクを減らせないのだ。

 そんな茨城県沖の地震の危険性を裏付けるかのように、地震調査委員会の出したこの地域に
おける10年以内の巨大地震の発生確率は、従来から発生の危険性が知られている南海トラフの
大地震よりも高い。「とくに、海溝型地震は想定より規模が大きくなる可能性が高い。少し大げさに
警戒しておくべきといえるでしょう」(八木准教授)

取材・文/オフィス三銃士