この時期、発熱、鼻水、せき、だるさなどの症状が現れれば、誰しも風邪だと思うだろう。
「早く治すには医者に行って抗生物質を出してもらうのが一番」そう考えている人も多いのではないか。
だがそれは古すぎる「常識」だという。
医学的には「風邪」という病気は存在しない。「風邪症候群」が正しい名称だ。鼻水、せきやのどの
痛みなどの局部的な症状から、発熱や倦怠感などの全身症状が出た場合、「病院で抗生物質を
処方してもらおう」と考える人は多いだろう。だが「抗生物質ですべての風邪が早く治るわけではない」
と指摘する医師がいる。
筑波大学附属病院の加藤士郎教授は、抗生物質が効く風邪と効かない風邪について、こう説明する。
「一口に風邪と言われますが、風邪はその原因によって2種類に大別されます。全体の約9割は
インフルエンザなどのウイルス由来、残りの1割は溶連菌などの細菌によって引き起こされると
言われます。実は、抗生物質が効く風邪は、細菌由来の1割。ウイルス由来の9割には抗生物質は
効きません」
■9割の風邪に無効な抗生物質
加藤氏は「風邪の種類は医師でなくても、鼻水を見れば、ある程度は判断できる」と説く。「黄色や
茶色、緑色の鼻水。また、ネバネバと粘度の高い鼻水は、細菌感染のことが多い。透明な鼻水の
場合はウイルス由来の可能性が高く、抗生物質は効かないと考えてよいでしょう」
ではなぜ、抗生物質を処方する医師が存在するのか。「あくまで二次感染予防のためです。たとえば、
重度の肺疾患や心疾患がある場合は、二次感染で命に関わる重篤な症状を併発するリスクが高く
なります」しかし予防のためとはいえ、抗生物質の投与に弊害はないのだろうか?
「抗生物質の副作用としてよく知られるのは、下痢です。抗生物質は、おなかの常在菌である腸内菌
まで殺してしまう。とにかく細菌をすべて殺し、その生態系を壊してしまうのが抗生物質の特徴です。
体にとって良い腸内菌まで殺してしまうため、トラブルを引き起こす可能性があるのです。もちろん、
これはお腹に限った話ではありません」
■抗生物質の使い過ぎがより強い菌を招く
また加藤氏は、医療現場における抗生物質の使い過ぎの危険性も指摘する。「抗生物質とは細菌を
退治する薬でありますが、使い過ぎるとすぐに、細菌が抗生物質の効果を消失させる機序である耐性を
獲得します。よって明確な目的がないときには使用してはいけません」
医学界では、1990年代から「抗生物質が一般的な風邪の治療には適さない」という研究結果が増えて
いる。さらに2000年代、日本外来小児科学会のワーキンググループや日本小児感染症学会などが、
「風邪に抗生物質を使わない」という指針を打ち出している。
ただし、医師によって抗生物質をめぐる考えはまちまちなのが現実のようだ。診療の際には「患者が
医師に何でも確認することが大切」と加藤氏は強調する。「そもそも、『病院で薬を出してもらったら、
それで治療は終わった』とする現代人の感覚は、決して健全とは言えないでしょう」
■ウイルス由来の風邪に効く薬はない
では、風邪全体の9割を占めるウイルス由来の風邪にかかった場合、どうすれば治るのか?
加藤氏は「ウイルス由来の風邪に効く薬はなく、体を休めるなどして自然治癒力に頼るしかない」
と言う。もちろん、鼻水やくしゃみ、せき、頭痛などの症状を対処療法的に緩和してくれる市販薬は
容易に入手できるが、それは根本的な解決法ではない。
「ウイルス由来の風邪を根本的に治すのは、自然治癒力のみです。例外的に漢方の葛根湯
(かっこんとう)は効きます。ただし、それは本来の自然治癒力を後押ししてくれる作用であり、
体力のない人が飲んでもまったく効かないという結果になります」
加藤氏によると、葛根湯が効くのは以下のタイプだ。
「寒気を感じて、温かいものを飲んだり食べたりして、布団にくるまって一晩寝る。すると、一気に
汗が出て翌日ぴたっと元気になっている・・・。そんな丈夫な人には、葛根湯はよく効きます。全体の
6〜7割はこのタイプでしょう。これは老若を問わず、あくまでもその人の体力の問題です」
そもそも「冬になって風邪がはやるから、と急に体力作りをしてもダメ」というのが加藤氏の見解だ。
「栄養のとれた食事、適度な運動、十分な睡眠。これらの平素の生活をきちんとすると、風邪にも
感染しないはずです。そもそも何かに感染するということ自体、自分の免疫力が落ちている証拠なの
ですから」風邪のシーズン真っ只中だが、加藤氏がすすめるのは「予防」である。「原始的に
思えますが、手洗いとうがいに勝るものはありません」
(厚生労働省「インフルエンザQ&A」より一部改作の上、掲載)
「早く治すには医者に行って抗生物質を出してもらうのが一番」そう考えている人も多いのではないか。
だがそれは古すぎる「常識」だという。
医学的には「風邪」という病気は存在しない。「風邪症候群」が正しい名称だ。鼻水、せきやのどの
痛みなどの局部的な症状から、発熱や倦怠感などの全身症状が出た場合、「病院で抗生物質を
処方してもらおう」と考える人は多いだろう。だが「抗生物質ですべての風邪が早く治るわけではない」
と指摘する医師がいる。
筑波大学附属病院の加藤士郎教授は、抗生物質が効く風邪と効かない風邪について、こう説明する。
「一口に風邪と言われますが、風邪はその原因によって2種類に大別されます。全体の約9割は
インフルエンザなどのウイルス由来、残りの1割は溶連菌などの細菌によって引き起こされると
言われます。実は、抗生物質が効く風邪は、細菌由来の1割。ウイルス由来の9割には抗生物質は
効きません」
■9割の風邪に無効な抗生物質
加藤氏は「風邪の種類は医師でなくても、鼻水を見れば、ある程度は判断できる」と説く。「黄色や
茶色、緑色の鼻水。また、ネバネバと粘度の高い鼻水は、細菌感染のことが多い。透明な鼻水の
場合はウイルス由来の可能性が高く、抗生物質は効かないと考えてよいでしょう」
ではなぜ、抗生物質を処方する医師が存在するのか。「あくまで二次感染予防のためです。たとえば、
重度の肺疾患や心疾患がある場合は、二次感染で命に関わる重篤な症状を併発するリスクが高く
なります」しかし予防のためとはいえ、抗生物質の投与に弊害はないのだろうか?
「抗生物質の副作用としてよく知られるのは、下痢です。抗生物質は、おなかの常在菌である腸内菌
まで殺してしまう。とにかく細菌をすべて殺し、その生態系を壊してしまうのが抗生物質の特徴です。
体にとって良い腸内菌まで殺してしまうため、トラブルを引き起こす可能性があるのです。もちろん、
これはお腹に限った話ではありません」
■抗生物質の使い過ぎがより強い菌を招く
また加藤氏は、医療現場における抗生物質の使い過ぎの危険性も指摘する。「抗生物質とは細菌を
退治する薬でありますが、使い過ぎるとすぐに、細菌が抗生物質の効果を消失させる機序である耐性を
獲得します。よって明確な目的がないときには使用してはいけません」
医学界では、1990年代から「抗生物質が一般的な風邪の治療には適さない」という研究結果が増えて
いる。さらに2000年代、日本外来小児科学会のワーキンググループや日本小児感染症学会などが、
「風邪に抗生物質を使わない」という指針を打ち出している。
ただし、医師によって抗生物質をめぐる考えはまちまちなのが現実のようだ。診療の際には「患者が
医師に何でも確認することが大切」と加藤氏は強調する。「そもそも、『病院で薬を出してもらったら、
それで治療は終わった』とする現代人の感覚は、決して健全とは言えないでしょう」
■ウイルス由来の風邪に効く薬はない
では、風邪全体の9割を占めるウイルス由来の風邪にかかった場合、どうすれば治るのか?
加藤氏は「ウイルス由来の風邪に効く薬はなく、体を休めるなどして自然治癒力に頼るしかない」
と言う。もちろん、鼻水やくしゃみ、せき、頭痛などの症状を対処療法的に緩和してくれる市販薬は
容易に入手できるが、それは根本的な解決法ではない。
「ウイルス由来の風邪を根本的に治すのは、自然治癒力のみです。例外的に漢方の葛根湯
(かっこんとう)は効きます。ただし、それは本来の自然治癒力を後押ししてくれる作用であり、
体力のない人が飲んでもまったく効かないという結果になります」
加藤氏によると、葛根湯が効くのは以下のタイプだ。
「寒気を感じて、温かいものを飲んだり食べたりして、布団にくるまって一晩寝る。すると、一気に
汗が出て翌日ぴたっと元気になっている・・・。そんな丈夫な人には、葛根湯はよく効きます。全体の
6〜7割はこのタイプでしょう。これは老若を問わず、あくまでもその人の体力の問題です」
そもそも「冬になって風邪がはやるから、と急に体力作りをしてもダメ」というのが加藤氏の見解だ。
「栄養のとれた食事、適度な運動、十分な睡眠。これらの平素の生活をきちんとすると、風邪にも
感染しないはずです。そもそも何かに感染するということ自体、自分の免疫力が落ちている証拠なの
ですから」風邪のシーズン真っ只中だが、加藤氏がすすめるのは「予防」である。「原始的に
思えますが、手洗いとうがいに勝るものはありません」
(厚生労働省「インフルエンザQ&A」より一部改作の上、掲載)