■便利な生活がもの忘れを加速させる!?
 本題に入る前にまずは簡単な質問を。昨日の朝食は何?さあ、スラスラ言えましたか?
「頭には思い浮かんでいるんだけど、名前がすぐ出てこなくなった」
こんな“もの忘れ”が、40歳を過ぎた頃から増え始めたという声はよく聞かれる。

 「これらの事例は、一般的には加齢に伴うものですが、特に脳を使っていない人に多くみられます。
でもそれは仕方がない部分もあります。現代は脳を使わなくてすむように便利になりすぎているから
です」と話すのは、現役の脳神経外科医として、毎月1500人以上の患者を診察している、
北原ライフサポートクリニックの脳神経外科医・菅原道仁先生だ。

 確かに、携帯電話の電話帳や履歴を頼りにして、番号を覚える機会はほとんどなくなった。何かを
覚えなくてもインターネットで検索すればいい。さらに最近のネットサービスでは、自分の検索や
商品購入の履歴から欲しいと思う商品を提案してくれる。

 ついつい自分で探したり、考えたりということをしなくなっているが、結果的にはそれが脳の機能を
衰えさせることにつながっているかもしれないというのだ。「昔なら友人の電話番号ぐらいいくつも
覚えていたのに、今は自分の携帯電話番号しか覚えていないという人は多いのではないでしょうか。
脳も筋肉と一緒で、反対に使わなければ衰えるし、使えば使うほど高まっていきます」(菅原先生)

 仕事のパターンが決まっているなど、脳が刺激を受けにくい環境にいる人も脳力が低下しやすいと
いう。人間が刺激に慣れていくのは当たり前のことだが、いい面もあれば悪い面もある。新しいことに
チャレンジしようとするのに腰が重たくなるのはもちろん、日々見聞きするものに対する感動が薄れて
いるのであれば、要注意だ。一連のもの忘れは、そうして脳力が低下したことで起こる症状だという。

■日常生活をポジティブに過ごす
 「たとえば、昨日の夕食が思い出せないのは、単にそれがいつも食べているメニューで、記憶として
残るほど印象深いものではなかったということでしょう。好きなものだったり、美味(おい)しかったもの
だったり、何かインパクトがない限り記憶されにくくなるのです」と菅原先生は説明する。となると、
気になるのはもの忘れを防ぐためには、何をすればいいのかだ。

 「脳を使う環境に身を置いたり、日常生活をポジティブに過ごすことで改善されるはずです」(菅原先生)
とはいえ、ポジティブに過ごせと言われても、はいはいとすぐにできるものでもないだろう。「そんな性格
ではない」「仕事をしていると落ち込むことばかり」と思う人も多いのではないだろうか。そこで、簡単に
ポジティブな気持ちになれる方法を紹介しよう。それは、ズバリ「鏡を見て笑うこと」。おかしくないのに
笑えないと思うかもしれないが、作り笑いでもいいのだという。

 「脳には“騙(だま)されやすい”という特徴があります。辛(つら)くても鏡を見て笑っていると、脳が
騙されてこの人(自分)は楽しそうだと認知します。すると、自然にポジティブな気持ちが湧いてきます。
実際われわれの生活では、楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなり、悲しいから泣くのではなく、
泣いているから悲しくなることが多いのです」と菅原先生は指摘する。

 夕食のメニューを覚えておくためには、誰かと一緒に楽しい会話をしながら美味しい食事をするのが
効果的。そのとき話した会話の内容とともに、何を食べたか何を飲んだのかなど記憶に残りやすくなる
という。また、もの忘れを防ぐためのもうひとつの方法である、脳を使う環境に身を置くために先生が
提唱しているのは、あえて不便だと思う生活を自分に課すことだ。せめてよくかける番号くらいは、
リダイヤルを使わずにかけられるように覚えてみるのもいい。

もの忘れ

<こんな人は脳力低下に要注意>

取材・文/金野和子、オフィス三銃士