日本の糖尿病人口は1067万4320人で世界第6位(2011年、国際糖尿病連合)、深刻な糖尿病
大国である。糖尿病の食事療法というと、カロリー摂取量を減らす「カロリー制限食」という食事療法が
国内では主流であるが、一方で「糖質制限食」なる食事療法が注目され始めている。「糖質制限食」
とは、ごはんやパン、麺類、いも類、菓子など糖質の摂取を少なくする食事療法のこと。反面、カロリー
や脂質の摂取量にはこだわらず、肉や魚、豆、豆腐製品や野菜などを積極的に食べられる。
血糖値の降下に加え、短期間で実現できるダイエット効果もあるという。この「糖質制限食」を実践し、
3週間で87キロから20キロの減量に成功。以後2年間「当初より20キロ減」を維持し、糖尿病の
コントロールにも成功しているのが、『おやじダイエット部の奇跡』作者の桐山秀樹氏だ。
■効果があるが、国内では異端視される糖質制限食
桐山氏が糖質制限食を始めたのは、2010年。頭ごなしに不摂生を叱られた反動で、一念発起。
「糖質制限食」を提唱した医師の江部康二(えべこうじ)氏(京都・高雄病院理事長)の著書を読み、
これを実践。3カ月余りでメタボと糖尿病の数値を脱し、健康体を取り戻した。
「医学界の『常識』であるカロリー制限食療法には、血糖値を押さえる効果があります。ですが、
カロリー計算が煩雑なことに加え、食事の量の少なさや、『高カロリー食』を我慢するという禁欲さが
必要。そのためよほど努力家で家庭の協力がない限り続けることが困難です。その点、糖質制限食は
肉もお酒(蒸留酒など)も大丈夫。糖質さえ制限すれば、食事をたくさん食べても問題ない。しかも
ダイエット効果が確実に表れるのです」(桐山氏)
桐山氏はカロリー制限食を否定しているわけではない。ただ、「患者にとって難しいことを強いて、
それができないと患者のせいにしてしまう。その結果、糖尿病を悪化させる人が後を絶たない」と
指摘する。「米国含め、先進国では食事療法の一つとして認められている糖質制限食が日本では
なぜ異端なのか。日本でもせめて選択の自由があるべきではないでしょうか」(桐山氏)
■血糖値を上げるのは3大栄養素中「糖質」だけ
桐山氏の師、江部医師にも話を聞いた。江部氏は兄・江部洋一郎氏(高雄病院院長・当時)の
影響で、1999年、糖質制限食と出会う。だが「あまりに変わった食事法であるため、最初は理解
できず、様子を見ていた」。しかし2002年、自身の糖尿病発覚を機に、「薬物治療をしたくない」という
動機から、本格的に糖質制限食を実践し始めた。「糖尿病の薬物療法とは、大変難しいものです。
薬が効きすぎて低血糖を引き起こすこともあり、さじ加減が困難です」(江部氏)
糖質制限法が有効である理由を「糖質(炭水化物)こそが血糖を上げる張本人だから」と江部氏は
断じる。「3大栄養素として、糖質、たんぱく質、脂質があります。この中で、血糖値を上げるのは、
糖質だけ。糖質は摂取直後から急激に血糖値を上昇させます。これはグルコーススパイク
(食後高血糖)と呼ばれます。
しかし、たんぱく質や脂質は血糖値に影響を与えません。04年米国糖尿病学会発行の本に記載が
あります。他の先進国もそれにならっていますが、日本は古い情報のまま更新していない病院が多い。
大多数の日本の医師も栄養士も、『単なる不勉強』としか言いようがありません」(江部氏)
例えば、ご飯とステーキを食べた場合、血糖値を上げるのは、糖質であるごはんである。「ですが、
高カロリーであるステーキを食べるほうが、糖尿病患者にとって『悪い』と信じている医師がほとんど。
血糖値を上げるのは糖質だけという生理学的事実を知らない医師が、糖尿病治療に携わっていること
自体がリスクです」(江部氏)
■もう一つ恐ろしいのは「糖質をやめられない」病
江部氏いわく、そもそも「主食やお菓子などの糖質をやめられない病」が存在するという。
「『炭水化物依存症』という病です。炭水化物依存症の人は食事でなかなか満足感が得られず、食後
すぐにダラダラとお菓子などを食べてしまいがちです。血糖値がある程度上がらないと満足感が
得られないのです。そんな人は、徐々に糖質を制限すると、体が慣れるでしょう」(江部氏)
ただし、糖質制限をしてはいけない人も存在する。血液検査で腎機能が低下している人、
肝硬変の人、活動性すい炎のある人などだ。理由は、高たんぱく・高脂肪食が、それぞれの病態に
負担をかけるからである。「カロリー制限法が苦しければ、主治医と相談の上での糖質制限を
すすめます。レシピ本を参考にして、自分で食生活の改善もできます。自己血糖値計で計れば、効果は
すぐにわかるのですから」(江部氏)
<糖質量の多い身近な食品>
取材・文/山守麻衣
大国である。糖尿病の食事療法というと、カロリー摂取量を減らす「カロリー制限食」という食事療法が
国内では主流であるが、一方で「糖質制限食」なる食事療法が注目され始めている。「糖質制限食」
とは、ごはんやパン、麺類、いも類、菓子など糖質の摂取を少なくする食事療法のこと。反面、カロリー
や脂質の摂取量にはこだわらず、肉や魚、豆、豆腐製品や野菜などを積極的に食べられる。
血糖値の降下に加え、短期間で実現できるダイエット効果もあるという。この「糖質制限食」を実践し、
3週間で87キロから20キロの減量に成功。以後2年間「当初より20キロ減」を維持し、糖尿病の
コントロールにも成功しているのが、『おやじダイエット部の奇跡』作者の桐山秀樹氏だ。
■効果があるが、国内では異端視される糖質制限食
桐山氏が糖質制限食を始めたのは、2010年。頭ごなしに不摂生を叱られた反動で、一念発起。
「糖質制限食」を提唱した医師の江部康二(えべこうじ)氏(京都・高雄病院理事長)の著書を読み、
これを実践。3カ月余りでメタボと糖尿病の数値を脱し、健康体を取り戻した。
「医学界の『常識』であるカロリー制限食療法には、血糖値を押さえる効果があります。ですが、
カロリー計算が煩雑なことに加え、食事の量の少なさや、『高カロリー食』を我慢するという禁欲さが
必要。そのためよほど努力家で家庭の協力がない限り続けることが困難です。その点、糖質制限食は
肉もお酒(蒸留酒など)も大丈夫。糖質さえ制限すれば、食事をたくさん食べても問題ない。しかも
ダイエット効果が確実に表れるのです」(桐山氏)
桐山氏はカロリー制限食を否定しているわけではない。ただ、「患者にとって難しいことを強いて、
それができないと患者のせいにしてしまう。その結果、糖尿病を悪化させる人が後を絶たない」と
指摘する。「米国含め、先進国では食事療法の一つとして認められている糖質制限食が日本では
なぜ異端なのか。日本でもせめて選択の自由があるべきではないでしょうか」(桐山氏)
■血糖値を上げるのは3大栄養素中「糖質」だけ
桐山氏の師、江部医師にも話を聞いた。江部氏は兄・江部洋一郎氏(高雄病院院長・当時)の
影響で、1999年、糖質制限食と出会う。だが「あまりに変わった食事法であるため、最初は理解
できず、様子を見ていた」。しかし2002年、自身の糖尿病発覚を機に、「薬物治療をしたくない」という
動機から、本格的に糖質制限食を実践し始めた。「糖尿病の薬物療法とは、大変難しいものです。
薬が効きすぎて低血糖を引き起こすこともあり、さじ加減が困難です」(江部氏)
糖質制限法が有効である理由を「糖質(炭水化物)こそが血糖を上げる張本人だから」と江部氏は
断じる。「3大栄養素として、糖質、たんぱく質、脂質があります。この中で、血糖値を上げるのは、
糖質だけ。糖質は摂取直後から急激に血糖値を上昇させます。これはグルコーススパイク
(食後高血糖)と呼ばれます。
しかし、たんぱく質や脂質は血糖値に影響を与えません。04年米国糖尿病学会発行の本に記載が
あります。他の先進国もそれにならっていますが、日本は古い情報のまま更新していない病院が多い。
大多数の日本の医師も栄養士も、『単なる不勉強』としか言いようがありません」(江部氏)
例えば、ご飯とステーキを食べた場合、血糖値を上げるのは、糖質であるごはんである。「ですが、
高カロリーであるステーキを食べるほうが、糖尿病患者にとって『悪い』と信じている医師がほとんど。
血糖値を上げるのは糖質だけという生理学的事実を知らない医師が、糖尿病治療に携わっていること
自体がリスクです」(江部氏)
■もう一つ恐ろしいのは「糖質をやめられない」病
江部氏いわく、そもそも「主食やお菓子などの糖質をやめられない病」が存在するという。
「『炭水化物依存症』という病です。炭水化物依存症の人は食事でなかなか満足感が得られず、食後
すぐにダラダラとお菓子などを食べてしまいがちです。血糖値がある程度上がらないと満足感が
得られないのです。そんな人は、徐々に糖質を制限すると、体が慣れるでしょう」(江部氏)
ただし、糖質制限をしてはいけない人も存在する。血液検査で腎機能が低下している人、
肝硬変の人、活動性すい炎のある人などだ。理由は、高たんぱく・高脂肪食が、それぞれの病態に
負担をかけるからである。「カロリー制限法が苦しければ、主治医と相談の上での糖質制限を
すすめます。レシピ本を参考にして、自分で食生活の改善もできます。自己血糖値計で計れば、効果は
すぐにわかるのですから」(江部氏)
<糖質量の多い身近な食品>
取材・文/山守麻衣