■民主党が阻止した「武藤総裁」の人事
5年に一度の「日銀総裁選」が来年4月に迫っている。日本の経済にも重要な影響を与える人事は、
一企業の人事とは異なり国会同意が条件となっており、毎回、極めて政治的な「工作員」の動きが
見受けられる。「今回は財務省の動きが、例年にも増して活発なようです」と、全国紙の政治部デスクが
語る。
「次回の総裁選で、財務省は10年に1度の大物次官と呼ばれた武藤敏郎・大和総研理事長を
今度こそ日銀総裁として送り込み、長らく失っていた日銀総裁ポストを取り返そうとしているのです」
かつて、日銀総裁は日銀プロパーと大蔵省事務次官が「たすきがけ」で就任するものと決められていた。
独立性を維持したい日銀側と、最高クラスの天下りポストを確保し、金融行政に睨みを利かせたい
大蔵省がバランスを取った、阿吽の呼吸である。
しかし現実を見ると、元大蔵事務次官が日銀総裁に就任したのは98年までつとめた松下康雄氏が
最後で、すでに3期15年、大蔵省・財務省出身者の日銀総裁は誕生していないのである。武藤氏は
2000年6月に当時の大蔵省事務次官に就任(任期途中で省庁名が変更され財務省事務次官に)し、
2年半という異例の長期にわたり次官に君臨。大物次官として内外にその名を轟かせた。
次官退任後の03年3月、武藤氏は満を持して日銀副総裁に就任。もちろん5年後の総裁就任を
含んだ人事で、日銀生え抜きの「プリンス」こと福井俊彦理事長の「次」は武藤氏で確定というのが
暗黙の了解だった。ところが、5年後の08年。当時、政権交代を掲げ勢力を増してきていた野党・
民主党は、時の福田政権が示した「武藤総裁」人事を「とにかく財務省の天下りは認められない」と
拒否。武藤氏は飛ばされ、代わって日銀プロパーの白川方明氏が総裁に就任したのである。
これは武藤氏にとっても財務省にとっても大きな挫折であった。
「政権交代後、財務省はこうしたイレギュラーな人事が二度と起きないよう、与党幹部に取り入り、
増税路線を巧妙に整備した。消費税増税路線を敷いた野田政権は最後まで財務省と勝栄二郎・
前事務次官の言いなりでしたし、自民党総裁選で増税派の谷垣氏が失脚すると、財務省は総選挙後の
安倍政権を想定し、すぐさま安倍政権時代の総理秘書官である田中一穂・主税局長が安倍氏を徹底
マークし、一度決定した増税路線をひっくり返されないよう、慎重に“オルグ”を展開している」
(前出のデスク)
■もう1人の大物次官勝栄二郎氏の去就
安倍氏は自民党総裁選で、「デフレ脱却しなければ消費税を上げるのは反対」と表明している。
確かに消費税増税は決定したが、それを本当に実施するかどうかは時の政権が決めることであるから、
理論的には「安倍総理大臣」が消費税増税を撤回することは可能なのである。だが、そんなことは
絶対に許すまじ、というのが財務省の立場なのだ。
「財務省としては、まず武藤氏の総裁就任が目標となりますが、やはり大物次官と目され、先に
退任した消費税増税のプロデューサーでもある勝栄二郎氏もまた、できれば日銀副総裁に送り込み
たい。2人を同時にというのはさすがに欲張りすぎでしょうが、何か考えているはずです」(同)財務省
にとってこれまでネックとなっていたのは、民主党内部の「内規」だった。それは「国会同意人事は
新任65歳、再任70歳未満」というもので、69歳の武藤氏はこれに抵触する。しかし、解散して
自民党中心の政権となればその内規はなくなる。
武藤氏のライバルは、元日銀副総裁の岩田一政氏(現・日本経済研究センター理事長)や、日銀
プロパーの支援を受ける生え抜きの山口廣秀日銀副総裁などの名が上がっており、それぞれ現実味
がある。特に、日銀内部では「15年も日銀出身者が独自の舵取りをやってきたのに、また財務省から
トップを受け入れるのか」と財務省からの完全独立を叫ぶ声も多く、「そのためだったら白川総裁の
続投でも良い」といった意見もある。
「他にも武藤氏が年齢的にダメなら、小泉政権時代に長く秘書官として政権を支え、安倍氏とも戦友の
間柄の丹呉泰健氏(現読売新聞グループ本社監査役)の名も上がっている」(同)日銀だけではなく、
大証と東証が統合して設立される『日本取引所』や日本政策投資銀社長人事など、確保しなければ
ならない重要天下りポストはいくつもある。これらを総取りするために、財務省はとにかく安倍政権の
“洗脳”が重要との認識を持っているのだ。誰が政権を取ろうとも、この国を動かしているのは常に
官僚という「日本の法則」は変わりそうもない。
来年春、5年の任期が切れる白川方明・日銀総裁(左)と次期総裁候補の武藤敏郎・元財務事務次官
5年に一度の「日銀総裁選」が来年4月に迫っている。日本の経済にも重要な影響を与える人事は、
一企業の人事とは異なり国会同意が条件となっており、毎回、極めて政治的な「工作員」の動きが
見受けられる。「今回は財務省の動きが、例年にも増して活発なようです」と、全国紙の政治部デスクが
語る。
「次回の総裁選で、財務省は10年に1度の大物次官と呼ばれた武藤敏郎・大和総研理事長を
今度こそ日銀総裁として送り込み、長らく失っていた日銀総裁ポストを取り返そうとしているのです」
かつて、日銀総裁は日銀プロパーと大蔵省事務次官が「たすきがけ」で就任するものと決められていた。
独立性を維持したい日銀側と、最高クラスの天下りポストを確保し、金融行政に睨みを利かせたい
大蔵省がバランスを取った、阿吽の呼吸である。
しかし現実を見ると、元大蔵事務次官が日銀総裁に就任したのは98年までつとめた松下康雄氏が
最後で、すでに3期15年、大蔵省・財務省出身者の日銀総裁は誕生していないのである。武藤氏は
2000年6月に当時の大蔵省事務次官に就任(任期途中で省庁名が変更され財務省事務次官に)し、
2年半という異例の長期にわたり次官に君臨。大物次官として内外にその名を轟かせた。
次官退任後の03年3月、武藤氏は満を持して日銀副総裁に就任。もちろん5年後の総裁就任を
含んだ人事で、日銀生え抜きの「プリンス」こと福井俊彦理事長の「次」は武藤氏で確定というのが
暗黙の了解だった。ところが、5年後の08年。当時、政権交代を掲げ勢力を増してきていた野党・
民主党は、時の福田政権が示した「武藤総裁」人事を「とにかく財務省の天下りは認められない」と
拒否。武藤氏は飛ばされ、代わって日銀プロパーの白川方明氏が総裁に就任したのである。
これは武藤氏にとっても財務省にとっても大きな挫折であった。
「政権交代後、財務省はこうしたイレギュラーな人事が二度と起きないよう、与党幹部に取り入り、
増税路線を巧妙に整備した。消費税増税路線を敷いた野田政権は最後まで財務省と勝栄二郎・
前事務次官の言いなりでしたし、自民党総裁選で増税派の谷垣氏が失脚すると、財務省は総選挙後の
安倍政権を想定し、すぐさま安倍政権時代の総理秘書官である田中一穂・主税局長が安倍氏を徹底
マークし、一度決定した増税路線をひっくり返されないよう、慎重に“オルグ”を展開している」
(前出のデスク)
■もう1人の大物次官勝栄二郎氏の去就
安倍氏は自民党総裁選で、「デフレ脱却しなければ消費税を上げるのは反対」と表明している。
確かに消費税増税は決定したが、それを本当に実施するかどうかは時の政権が決めることであるから、
理論的には「安倍総理大臣」が消費税増税を撤回することは可能なのである。だが、そんなことは
絶対に許すまじ、というのが財務省の立場なのだ。
「財務省としては、まず武藤氏の総裁就任が目標となりますが、やはり大物次官と目され、先に
退任した消費税増税のプロデューサーでもある勝栄二郎氏もまた、できれば日銀副総裁に送り込み
たい。2人を同時にというのはさすがに欲張りすぎでしょうが、何か考えているはずです」(同)財務省
にとってこれまでネックとなっていたのは、民主党内部の「内規」だった。それは「国会同意人事は
新任65歳、再任70歳未満」というもので、69歳の武藤氏はこれに抵触する。しかし、解散して
自民党中心の政権となればその内規はなくなる。
武藤氏のライバルは、元日銀副総裁の岩田一政氏(現・日本経済研究センター理事長)や、日銀
プロパーの支援を受ける生え抜きの山口廣秀日銀副総裁などの名が上がっており、それぞれ現実味
がある。特に、日銀内部では「15年も日銀出身者が独自の舵取りをやってきたのに、また財務省から
トップを受け入れるのか」と財務省からの完全独立を叫ぶ声も多く、「そのためだったら白川総裁の
続投でも良い」といった意見もある。
「他にも武藤氏が年齢的にダメなら、小泉政権時代に長く秘書官として政権を支え、安倍氏とも戦友の
間柄の丹呉泰健氏(現読売新聞グループ本社監査役)の名も上がっている」(同)日銀だけではなく、
大証と東証が統合して設立される『日本取引所』や日本政策投資銀社長人事など、確保しなければ
ならない重要天下りポストはいくつもある。これらを総取りするために、財務省はとにかく安倍政権の
“洗脳”が重要との認識を持っているのだ。誰が政権を取ろうとも、この国を動かしているのは常に
官僚という「日本の法則」は変わりそうもない。
来年春、5年の任期が切れる白川方明・日銀総裁(左)と次期総裁候補の武藤敏郎・元財務事務次官