■ヘッドホンコーナーに集う若者たち
 11月某日。平日の昼間だというのに、秋葉原にある「イヤホン・ヘッドホン専門店e☆イヤホン」には、
大学生とおぼしき若者が数多く来店していた。誰もが、視聴用サンプルがずらりと並ぶコーナーで
高級ヘッドホンやイヤホン(以下イヤホン略)を次々と試聴している。

 そう今、高級ヘッドホンが売れに売れている。スマートフォンやオーディオプレイヤーの多くには、
購入時にイヤホンが付属しているが、それでは満足できず、数千円、そして数万円の高級ヘッドホンに
手を出す若者が増えているのだ。ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」でスーパーバイザーを務める
岡田卓也さんは、その人気をこう語る。「売れ筋はイヤホンで5000円から1万円まで、ヘッドホンで
2万〜3万円の製品。ただし、10万円超の高級品もコンスタントに売れていますね」

 最近では、約13万円で発売されているオーストリアのオーディオメーカーAKG(アー・カー・ゲー)の
『K3003』という高級イヤホンが、8月以降のわずか3カ月で、100本以上も売れたという。しかも、
その購入客の多くは若者だ。「僕たちの世代はピュアオーディオの音をもともと知らないんです。でも、
誰かがいいヘッドホンを買うと、その情報はすぐにSNSなどでシェアされます。するとそれって
いいのかな?って関心を持ち、本当によかったとき口コミが広がっていくんです。そうやっていい音を
一度知るともう戻れなくなりますよね」(同)

■メーカー各社も高級市場に続々と参入
 メーカー各社が積極的に取り組む高級ヘッドホン市場。この市場が動くきっかけになったのが、
2001年のiPodの登場だ。最初に火をつけたのは、アメリカのSHURE(シュア)というメーカーの
高級ヘッドホン。iPodがゆっくりとブームを迎える中で、音に意識の高い一部のマニアの間で、
5万円超もするSHUREのイヤホンが注目を集めていたのである。しかし、その頃はあくまで一部の
マニアの間での人気に過ぎなかった。

 そして、iPhoneをはじめとするスマートフォンの登場により、日常的にイヤホンを持ち歩く人の数が
大幅に増加した。これまでのマニア層だけでなく、一般の方々もイヤホンを日常的に利用するように
なり、今、高級ヘッドホン市場が爆発的に膨らんでいるというわけだ。

 デジタルからAV関連まで幅広い製品に精通する中沢雄二氏によると日本のヘッドホン市場は
アメリカに次ぐ世界2位の規模。しかも高級品が売れる魅力的な市場だ。スマートフォンブームに乗って、
海外メーカーが日本市場に続々と参入。これまで国内代理店を通して、細々と売っていた海外メーカーも
この数年で日本支社を立ち上げるなど、本気を見せている。

 「ヘッドホンは、AV機器では珍しく、『世界初』がつく製品が次々と出ています。つまりまだ成熟して
いないということ。さらに、テレビのように国によって電圧などの仕様が違うということもなく、海外展開
がしやすいという側面もあります」(中沢氏)

 現在、国内のヘッドホン市場では、ソニーとオーディオテクニカが2強として高いシェアを誇り、他が
追随しているという状況だ。そこにSHURE(シュア)やSENHEISER(ゼンハイザー)などの海外勢が
高級ゾーンで支持を集め、さらに国内の老舗や新興メーカーが続々と高級モデルの発売を始めている。
先に登場した「e☆イヤホン」などの専門店では、量販店のデータをもとに作られる国内シェアには登場
しないメーカーの高級ヘッドホンが飛ぶように売れているという。ビジネスチャンスは誰にでもあるといえ、
大手メーカーも安心してはいられない状況なのだ。

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取材・文/コヤマタカヒロ