「カロリーゼロ」「ノンカロリー」などと表示された「カロリーゼロ飲料」を、「0カロリー」と思い込み、
水代わりに飲んでいる人も多いのではないだろうか。だが、表示が「ゼロ」でも実際には、カロリーが
「ゼロ」であるとは限らないのだ。

 健康増進法に基づいた栄養表示基準では、「食品100グラム(液状100ミリリットル)あたり
5キロカロリー未満」であれば「カロリーゼロ」と表示できると定められており、ペットボトル1本
(500ミリリットル)で最大24キロカロリーに達する場合もあるのだ。これでは、カロリーゼロ飲料と
いえども、たくさん飲めばそれなりのカロリーになってしまうことになる。

■カロリーゼロ飲料は0カロリーではない
 日本糖尿病学会専門医であり、労働衛生コンサルタントでもある中野里美氏は、このような
栄養表示を正しく理解して摂取するよう呼びかける。
 「栄養表示基準については、厚生労働省や農水省、消費者庁のサイトに詳しい解説があります。
飲料メーカーによっては自社のホームページで説明していますので、ゼロという言葉にまどわされず、
正しい意味を知っておきたいものです。『健康志向につけこむマーケティング手法ではないか』と
思いたくもなりますが、『健康』という言葉に敏感になっている消費者側の期待感が大き過ぎるのも
事実です。消費者としては、もっと栄養表示を正しく理解して活用する必要があります」

 中野氏は臨床の現場で、多くの糖尿病患者を見続けてきた。食事制限中の患者が、「これなら
大丈夫」と安心してカロリーゼロ飲料を飲んでいることは少なくないという。
 「広告などの影響もあり、糖尿病患者や健康志向の人、苦労やつらい思いをせず楽にやせたいと
思っている人たちが『カロリーゼロだから大丈夫』と安心してカロリーゼロ飲料を飲んでいます。
確かにダイエット表示のない一般の清涼飲料水は、ペットボトル1本(500ミリリットル)に砂糖が
約50グラムも含まれ、約200キロカロリーに達するものもあるため、それに比べればカロリーは
少ないです。しかし、ダイエット清涼飲料を毎日飲み続けていると肥満や糖尿病になる危険性が
あるのです」

 中野氏はカロリーゼロ飲料のみならず、ダイエット清涼飲料全般(日本では紅茶やコーヒーなども
含む)に警鐘を鳴らしている。
 「以前からダイエット清涼飲料を飲んでいても、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などを発症
する人が多くいることは問題視されていました。『飲み物のカロリーがほとんどないから』と安心して
他のものをたくさん食べてしまい、むしろ太ってしまうことも少なくありません。逆に食べたいものを
たくさん食べたいから『せめて飲み物だけは』と、選んでいる人もいるでしょう」
2011年、ダイエット清涼飲料による健康障害を示唆する研究が発表されている。

ダイエット

<まぎらわしい飲料表示の例>

■ダイエット清涼飲料、飲む、飲まないで差がつく
 中野氏によると、2011年の米国糖尿病学会で、ダイエット清涼飲料に関するデータが発表された
という。ダイエット清涼飲料を1日2本以上飲んでいる人は、飲まない人と比べてウエスト周囲の増加率が
6倍にも達していたというのだ。

 テキサス大学サンアントニオ健康科学センターのチームによるサンアントニオ長寿高齢化研究
(SALSA)で明らかになったものだという。アメリカ人474人を対象としており、1日当たりのダイエット
清涼飲料の消費量と身長、体重、ウエスト周囲を調査した。約9年半追跡した結果、ダイエット清涼飲料
を飲む群は、飲まない群と比較し、ウエスト周囲が70%以上増加していた。さらに、毎日2本以上
飲む群は、飲まない群と比べてウエスト増加率が6倍であったという。

 胴囲の増加は内臓脂肪増大の目安であり、糖尿病のみならず、心筋梗塞、狭心症、脳卒中などの
リスクのひとつと考えられている。「健康やダイエットのために、ダイエット清涼飲料を日常的に飲み
続けることはおすすめできません。糖尿病患者ならなおさら、現在疾病を患っていない方も、日頃
から糖分を含まない水やお茶で水分を補給するように、心がけてください」

■ダイエット清涼飲料中の人工甘味料も問題
 また、中野氏はダイエット清涼飲料に含まれる人工甘味料による健康被害についても無視できない、
と疑問を投げかけている。
 「人工甘味料には様々な種類があります。以前、問題視されていた発がん性については現在使用
されている人工甘味料では危険性が低いと言われています。でも、絶対に安全というわけでは
ありません。人工甘味料自体が肥満や糖尿病の発症と関連性があるとの研究結果も出始めています。
今後もっとデータが挙がってくる可能性があります」「健康やダイエットのために」と、ダイエット清涼飲料
を摂取することは、考え直してもよさそうだ。

取材・文/山守麻衣