「疲れたときには甘いもので元気に」−−そう思ってはいないだろうか。疲労回復を目的に、
職場で缶コーヒーやチョコレートなどを口にする人も多い。だが、その「糖分」の摂取は疲労回復
どころか健康に逆効果、と説く医師がいる。
「砂糖は脳のエネルギー」という言葉を見聞きして、実践している人は多いだろう。「甘いものは
脳にいい」という考えは、世の中の「常識」となっているようにみえる。だがそれは「迷信に過ぎない」
と、新宿溝口クリニック院長の溝口徹氏は説く。
溝口氏は『「うつ」は食べ物が原因だった!』(青春出版社)など多くの著作で知られている。
「砂糖がよい」という「常識」をうのみにするのではなく、疲労を本当に回復させ、仕事のパフォーマンス
を上げるにはどうすればよいのか。甘いものに頼らないための方法も教えてもらった。
■甘いものは、単なる“気付け薬”に過ぎない
溝口氏によると、「脳がストレスを感じると、大量の栄養素が消費される」という。その栄養素とは
いったいなんなのか。「ストレスで脳が消費するのは、主にタンパク質やビタミンです。意外に感じる方が
多いかもしれませんが『甘いもの』、すなわち砂糖などの糖質、ブドウ糖などではありません。
私自身も実感したことがありますが、甘いものを食べた直後は、頭が冴え、仕事がはかどるような
“気分”になります。ですがそれは『甘いものを食べることによって、血糖値が上昇し、神経伝達物質の
一時的増加を招くから』で、その場しのぎの応急処置にすぎません。
専門的な話をすると、やる気のない状態の時は、脳内にセロトニンという神経伝達物質を増やす
ことが有効です。セロトニンの原料はタンパク質、それも動物性タンパク質が効率的だというのが、
最近の定説です。タンパク質とは、肉、魚、卵や豆類を指します」
■血糖値の乱高下こそ疲労のもと
このように、疲れたときに砂糖を摂取しても、失われた栄養素は根本的に補給できない。「そればかり
か、砂糖による弊害に目を向けてほしい」と溝口氏は警告する。
「砂糖の摂取がよくない大きな理由の一つは、血糖値の上がり方にあります。糖質を食べれば、
血糖値は少なからず上がるものですが、砂糖の場合、その上がり方が1〜2時間のうちに急上昇
するのです。そしてその反動、つまり『揺り戻し』で急降下してしまいます。ひどいときには空腹時の
血糖値の半分以下にまで急降下することもあります。
なおかつ、急降下している時間帯は、脳が危機感を感じてずっと『甘いものを食べたい』という司令を
出し続けるため、数時間『甘いもの』を欲し続けることになってしまいます。このような状態を低血糖と
呼びますが、低血糖が続くと風邪や肌のトラブルが治りにくいなど、小さな弊害が表れ始めます。
また血糖値の極端な乱高下は、脳に大きなストレスを与えます。その悪影響として、急激な眠気や
倦怠(けんたい)感、だるさ、イライラ感といった心身の不調が起こるのです。これが、砂糖が本当に
恐ろしい点です」
■心身の様々なトラブルは砂糖断ちで緩和できる!?
コンビニに行けばスイーツが並び、砂糖の入った缶ジュースや缶コーヒーは自販機で買い放題−−。
こんな状況を溝口氏は「糖質過多の時代」と呼び、警鐘を鳴らしている。
「多くの女性患者さんたちの代謝を詳しく検査しました。疲れやすかったり、イライラするなど精神的な
不定愁訴(ふていしゅうそ)<原因不明の不調>を抱えたりする人たちの大部分が、脳のエネルギーを
糖質に偏って摂取していることがわかったのです。そこでタンパク質重視の食生活に変えてもらった
ところ、甘いものを食べたいという欲求がなくなり、精神的な不定愁訴が消えたというケースが多く
見られました」
46歳の男性の血糖値を3日間、連続して測り続けたデータ(表上)がある。確かに、糖質制限弁当の
食後の血糖値はなだらかな推移を示すが、パンなど糖質の摂取後は、血糖値が急上昇している。
また、溝口氏は心の病に悩む多くの患者たちに「砂糖断ち」を指導してきた。その結果、多くのうつ病
患者に、減薬など症状の緩和が見られたという。
「私は、砂糖を断つことで、うつの症状は緩和される可能性が高いと考えています。精神科で向精神薬
を処方してもらう前に、日常生活で砂糖を断ってみるということをおすすめします」溝口氏によると、
「砂糖断ち生活」は多忙で外食しがちのビジネスパーソンでも十分可能だという。
「ビーフジャーキー、サラミ、豆類やナッツなど、おつまみコーナーに置いてあるようなものをデスクに
常備すること。どうしても甘いものを食べたいときにはチョコ一かけらを、ゆっくり味わいながら食べ
ましょう。甘いものを摂った気分ができるという逃げ道になります。また、ラカントのような血糖値を
上げにくい甘味を使うのもいい手です。外食する場合は、居酒屋へ。豆や焼き鳥、豆腐、厚焼き玉子
などのタンパク質を摂れば、甘いものをほしくなることもないでしょう」
<ライフスタイルごとに異なる栄養必要量>
取材・文/山守麻衣
職場で缶コーヒーやチョコレートなどを口にする人も多い。だが、その「糖分」の摂取は疲労回復
どころか健康に逆効果、と説く医師がいる。
「砂糖は脳のエネルギー」という言葉を見聞きして、実践している人は多いだろう。「甘いものは
脳にいい」という考えは、世の中の「常識」となっているようにみえる。だがそれは「迷信に過ぎない」
と、新宿溝口クリニック院長の溝口徹氏は説く。
溝口氏は『「うつ」は食べ物が原因だった!』(青春出版社)など多くの著作で知られている。
「砂糖がよい」という「常識」をうのみにするのではなく、疲労を本当に回復させ、仕事のパフォーマンス
を上げるにはどうすればよいのか。甘いものに頼らないための方法も教えてもらった。
■甘いものは、単なる“気付け薬”に過ぎない
溝口氏によると、「脳がストレスを感じると、大量の栄養素が消費される」という。その栄養素とは
いったいなんなのか。「ストレスで脳が消費するのは、主にタンパク質やビタミンです。意外に感じる方が
多いかもしれませんが『甘いもの』、すなわち砂糖などの糖質、ブドウ糖などではありません。
私自身も実感したことがありますが、甘いものを食べた直後は、頭が冴え、仕事がはかどるような
“気分”になります。ですがそれは『甘いものを食べることによって、血糖値が上昇し、神経伝達物質の
一時的増加を招くから』で、その場しのぎの応急処置にすぎません。
専門的な話をすると、やる気のない状態の時は、脳内にセロトニンという神経伝達物質を増やす
ことが有効です。セロトニンの原料はタンパク質、それも動物性タンパク質が効率的だというのが、
最近の定説です。タンパク質とは、肉、魚、卵や豆類を指します」
■血糖値の乱高下こそ疲労のもと
このように、疲れたときに砂糖を摂取しても、失われた栄養素は根本的に補給できない。「そればかり
か、砂糖による弊害に目を向けてほしい」と溝口氏は警告する。
「砂糖の摂取がよくない大きな理由の一つは、血糖値の上がり方にあります。糖質を食べれば、
血糖値は少なからず上がるものですが、砂糖の場合、その上がり方が1〜2時間のうちに急上昇
するのです。そしてその反動、つまり『揺り戻し』で急降下してしまいます。ひどいときには空腹時の
血糖値の半分以下にまで急降下することもあります。
なおかつ、急降下している時間帯は、脳が危機感を感じてずっと『甘いものを食べたい』という司令を
出し続けるため、数時間『甘いもの』を欲し続けることになってしまいます。このような状態を低血糖と
呼びますが、低血糖が続くと風邪や肌のトラブルが治りにくいなど、小さな弊害が表れ始めます。
また血糖値の極端な乱高下は、脳に大きなストレスを与えます。その悪影響として、急激な眠気や
倦怠(けんたい)感、だるさ、イライラ感といった心身の不調が起こるのです。これが、砂糖が本当に
恐ろしい点です」
■心身の様々なトラブルは砂糖断ちで緩和できる!?
コンビニに行けばスイーツが並び、砂糖の入った缶ジュースや缶コーヒーは自販機で買い放題−−。
こんな状況を溝口氏は「糖質過多の時代」と呼び、警鐘を鳴らしている。
「多くの女性患者さんたちの代謝を詳しく検査しました。疲れやすかったり、イライラするなど精神的な
不定愁訴(ふていしゅうそ)<原因不明の不調>を抱えたりする人たちの大部分が、脳のエネルギーを
糖質に偏って摂取していることがわかったのです。そこでタンパク質重視の食生活に変えてもらった
ところ、甘いものを食べたいという欲求がなくなり、精神的な不定愁訴が消えたというケースが多く
見られました」
46歳の男性の血糖値を3日間、連続して測り続けたデータ(表上)がある。確かに、糖質制限弁当の
食後の血糖値はなだらかな推移を示すが、パンなど糖質の摂取後は、血糖値が急上昇している。
また、溝口氏は心の病に悩む多くの患者たちに「砂糖断ち」を指導してきた。その結果、多くのうつ病
患者に、減薬など症状の緩和が見られたという。
「私は、砂糖を断つことで、うつの症状は緩和される可能性が高いと考えています。精神科で向精神薬
を処方してもらう前に、日常生活で砂糖を断ってみるということをおすすめします」溝口氏によると、
「砂糖断ち生活」は多忙で外食しがちのビジネスパーソンでも十分可能だという。
「ビーフジャーキー、サラミ、豆類やナッツなど、おつまみコーナーに置いてあるようなものをデスクに
常備すること。どうしても甘いものを食べたいときにはチョコ一かけらを、ゆっくり味わいながら食べ
ましょう。甘いものを摂った気分ができるという逃げ道になります。また、ラカントのような血糖値を
上げにくい甘味を使うのもいい手です。外食する場合は、居酒屋へ。豆や焼き鳥、豆腐、厚焼き玉子
などのタンパク質を摂れば、甘いものをほしくなることもないでしょう」
<ライフスタイルごとに異なる栄養必要量>
取材・文/山守麻衣