震災直後、高濃度に汚染された冷却水を太平洋に大量放出する失態を演じた東京電力。
広い海原に希釈されたかに見えた放射性セシウムだが、1年半が経過したいまなお、その
深刻な影響が指摘されている。海底に沈殿した放射性物質と「危険な魚介類」の関係とは−−。
■底魚アイナメから過去最大の汚染数値
津波の被害と放射能汚染により、深刻な影響を受けている東北地方日本海沿岸の漁業。
現在、福島県沖では安全性の確保が現実的に困難なことから、セシウムに汚染されにくいと
されるミズダコなどの試験操業を除いて漁は自粛されている。そんななか、今年8月に調査の
ため南相馬市の沖合1キロ(福島第一原発の北約20キロ)地点で採取されたアイナメから、
基準の約258倍に当たる、1キロ当たり2万5800ベクレルの高い放射性セシウムが検出され、
汚染の深刻さが再認識された。
水産庁によれば、震災後、今年6月までに各自治体などが行なった水産物の放射能検査は
約1万2000件で、このうちの15%に当たる約1800件が、国による食品の安全基準値(1キロ
当たり100ベクレル)を超えていた。それらは出荷停止の措置が取られ、市場に出回ることはない。
■食物連鎖の最終地点「海底の魚」が危ない
「当初、危ない魚介類の筆頭格はコウナゴやシラスといった小魚でした」と、茨城県の漁協幹部が
語る。「我々が浮き魚と呼ぶ、海の表層を泳ぐことが多い魚で、植物性プランクトンを食べるこうした
魚が一番初めに影響が出る。しかし、震災から1年以上経過し、コウナゴからは高い数値がほとんど
検出されなくなった。そのかわり、カレイやアイナメ、メバルといった底魚にセシウムが蓄積されている。
まったく最初に予想していた通りです」
いったん海中に拡散したセシウムは、小魚に取り込まれ、それが中型魚、大型魚などに食べられる
食物連鎖が始まる。その過程で、フンや死骸が海底に沈殿し、最終的にはエビやカニなどの甲殻類や、
海底付近で暮らす魚にセシウムが蓄積される。いったん沈殿したセシウムはそこから浮上することが
ないため、その濃度は高止まりする傾向があるという。
現在、福島県産と表示される魚介類はすべて遠海で漁獲されたもの。さらに検査を受けたうえで
前述の国の安全基準をクリアできないと「出荷停止」となるため、それが市場に出回ることはない。
では、ヒラメやカレイといった「底魚」を避ければ安全なのか、と言えばそう単純な話でもないという。
「いま、水産庁と東京電力は、福島沖近海で取れる魚を調べています。しかし、たとえば東海や
西日本で取れるブリやカツオといった回遊魚は必ずしもセシウム検査をしていない。しかし、
これらの魚は非常に行動範囲が広く、青森から静岡まで泳いでいく魚なのです。“この魚が危ない”
という特定の魚にこだわる考えは、むしろ全体の状況を見えなくすると思いますよ」(前出の漁協幹部)
また海低付近を泳ぐ魚のなかには、タラやアブラガレイなど、すり身や加工用によく使われる魚が
多い。「こうした魚は廉価で、最初から加工用と分かっているものは、宮城・岩手でも放射能検査を
していないケースが多い。加工食品になってからセシウム検査をするということはあり得ないので、
こちらも安全とは言い切れない」(同)
カマボコやハンペンといった加工食品の「原材料」の産地を表示する義務はなく、消費者は商品を
見るだけで「安全」を確認することはできない。穀物とは違い、鮮度が大きな商品価値でもある
魚介類を、すべて残らず調査しようと思えば多額のコストがかかるため、全量検査は不可能だ。
消費者が求める安全性との兼ね合いという漁業関係者のジレンマは当分続きそうだ。
<放射性物質の海の生物への蓄積>
広い海原に希釈されたかに見えた放射性セシウムだが、1年半が経過したいまなお、その
深刻な影響が指摘されている。海底に沈殿した放射性物質と「危険な魚介類」の関係とは−−。
■底魚アイナメから過去最大の汚染数値
津波の被害と放射能汚染により、深刻な影響を受けている東北地方日本海沿岸の漁業。
現在、福島県沖では安全性の確保が現実的に困難なことから、セシウムに汚染されにくいと
されるミズダコなどの試験操業を除いて漁は自粛されている。そんななか、今年8月に調査の
ため南相馬市の沖合1キロ(福島第一原発の北約20キロ)地点で採取されたアイナメから、
基準の約258倍に当たる、1キロ当たり2万5800ベクレルの高い放射性セシウムが検出され、
汚染の深刻さが再認識された。
水産庁によれば、震災後、今年6月までに各自治体などが行なった水産物の放射能検査は
約1万2000件で、このうちの15%に当たる約1800件が、国による食品の安全基準値(1キロ
当たり100ベクレル)を超えていた。それらは出荷停止の措置が取られ、市場に出回ることはない。
■食物連鎖の最終地点「海底の魚」が危ない
「当初、危ない魚介類の筆頭格はコウナゴやシラスといった小魚でした」と、茨城県の漁協幹部が
語る。「我々が浮き魚と呼ぶ、海の表層を泳ぐことが多い魚で、植物性プランクトンを食べるこうした
魚が一番初めに影響が出る。しかし、震災から1年以上経過し、コウナゴからは高い数値がほとんど
検出されなくなった。そのかわり、カレイやアイナメ、メバルといった底魚にセシウムが蓄積されている。
まったく最初に予想していた通りです」
いったん海中に拡散したセシウムは、小魚に取り込まれ、それが中型魚、大型魚などに食べられる
食物連鎖が始まる。その過程で、フンや死骸が海底に沈殿し、最終的にはエビやカニなどの甲殻類や、
海底付近で暮らす魚にセシウムが蓄積される。いったん沈殿したセシウムはそこから浮上することが
ないため、その濃度は高止まりする傾向があるという。
現在、福島県産と表示される魚介類はすべて遠海で漁獲されたもの。さらに検査を受けたうえで
前述の国の安全基準をクリアできないと「出荷停止」となるため、それが市場に出回ることはない。
では、ヒラメやカレイといった「底魚」を避ければ安全なのか、と言えばそう単純な話でもないという。
「いま、水産庁と東京電力は、福島沖近海で取れる魚を調べています。しかし、たとえば東海や
西日本で取れるブリやカツオといった回遊魚は必ずしもセシウム検査をしていない。しかし、
これらの魚は非常に行動範囲が広く、青森から静岡まで泳いでいく魚なのです。“この魚が危ない”
という特定の魚にこだわる考えは、むしろ全体の状況を見えなくすると思いますよ」(前出の漁協幹部)
また海低付近を泳ぐ魚のなかには、タラやアブラガレイなど、すり身や加工用によく使われる魚が
多い。「こうした魚は廉価で、最初から加工用と分かっているものは、宮城・岩手でも放射能検査を
していないケースが多い。加工食品になってからセシウム検査をするということはあり得ないので、
こちらも安全とは言い切れない」(同)
カマボコやハンペンといった加工食品の「原材料」の産地を表示する義務はなく、消費者は商品を
見るだけで「安全」を確認することはできない。穀物とは違い、鮮度が大きな商品価値でもある
魚介類を、すべて残らず調査しようと思えば多額のコストがかかるため、全量検査は不可能だ。
消費者が求める安全性との兼ね合いという漁業関係者のジレンマは当分続きそうだ。
<放射性物質の海の生物への蓄積>