■「なんだかおかしい・・・」自覚症状が生死を分けた
 「いつも通りに床につき、いつも通り目覚めたつもりでしたが、まずベッドから下りられませんでした。
左半身がしびれていて、おかしいなと思ったんです。すぐに家族に異変を伝え、病院へ。
病院に着くまでは意識があったと思いますが、記憶は曖昧です」

 いまから7年前、2005年の夏に営業マンの後藤剛史さん(仮名)が患った「右視床出血」、
いわゆる脳出血の体験談だ。それまで大きく体調を崩したこともなかったし、47歳の働き盛りで
大病をすることなど想像もしていなかった。しかし、運び込まれた病院でMRIを撮ると、脳の出血と
腫(は)れが確認された。

 「私も家族も突然のことでびっくりしました。医師から心当たりを聞かれましたが、思い当たるのは
前日に猛暑のビル街を歩き回ったことぐらい。こういってはなんですが、私よりも不健康そうな
メタボ体型の人が周りには大勢いるのに、『なぜ自分が?』という思いが強かったですね」

 一方、食品メーカーに勤める佐伯英治さん(仮名)は、夜通し仕事をした朝方、これまで感じたこと
のない胸がムカムカする痛みを覚えたのちに、気持ち悪くなり、頭痛もあったため近所の病院に
かかったという。「心電図を撮ると、これは大変だからと大学病院を紹介され、その足で向かいました。
そしてそのまま手術です。心筋梗塞でした」

 と話す佐伯さんは肥満ぎみで糖尿病。しかし、細身で健康体なのに、心臓が原因で突然倒れ、
2週間意識を失ったあと奇跡的に回復した同僚もいたという。「彼はなんの痛みも前触れもなく
倒れて、気づけば病院のベッドの上だったそうです」(佐伯さん)

■前兆を感じ治療できれば「幸運な人」
 心臓突然死“ゼロ”アクションを展開し、日本医療学会の代表理事を務める笠貫宏氏は、
「働き盛りの人に突然起こる病気は、高血圧や糖尿病、喫煙、飲酒、肥満といった生活習慣が
要因となるイメージが強いかもしれません。しかし、じつは“精神的ストレス”が動脈硬化の原因
となり、発作の引き金となるのです」

 と、突然死に至る病気にストレスが深く関係していることを指摘する。同時に、長時間労働などの
過労や激しい運動、睡眠不足などによる肉体的・精神的ストレスの蓄積も無視できない。後藤さんや
佐伯さんが幸運だったのは、異常を感じてすぐに治療ができた点だ。本人の自覚もなく、また発見が
もう少し遅ければ、そのまま死に至る可能性も充分にありえた。

 後藤さんは入院1週間、自宅療養2週間、現在も血圧を下げる薬を毎朝飲んでいるが、後遺症は
ないという。視床出血は死亡率も高く、一命をとりとめても意識障害や知覚障害、半身麻痺が残る
場合が多い。病院外での突然死例が年間に10万人を超す現状を鑑(かんが)みても、まさに運が
よかったとしかいいようがない事例だろう。

■突然死の原因は脳と心臓未明から午前中は要注意
 厚生労働省は、『突然死』を“病気が発症、症状が発覚してから24時間以内に亡くなってしまうこと”
と定義している。事故などの外的要因なしに、痛みを感じる間もなく息を引き取る。自覚症状などない
からもちろん家族に別れを告げることもできずに、突如帰らぬ人となる。それが突然死だ。同様に、
発症から1時間以内に亡くなる例は『瞬間死』と呼ばれ、わずかな処置の遅れで命を落とす。
まさに1分、1秒が生死を分けるのだ。

 いずれも、要因は脳か心臓にある場合がほとんど。消防庁の発表によれば、前述の病院外で
突然死する10万人(年間)のうち、6万人が心臓疾患による心臓突然死とされている。原因には、
心臓に血液を送る冠動脈が詰まり、血流が少なくなることで発生する筋梗塞や狭心症、心臓の
筋肉の異常である心筋症、拍動に異常をきたす不整脈などが挙げられる。

 「心臓突然死のうちの約8割以上が、心室がけいれん状態となって停止する『心室細動』であり、
その原因は急性心筋梗塞が多くを占めますが、詳しくは不明です。心不全としかいいようがない
ケースも多々ありますし、そもそも死んでから発見されては、原因を追究するのは難しいのです」
(笠貫氏)

 また、心臓は自律神経に影響されやすい臓器とされている。運動したり興奮すると脈拍が上がり、
血圧が上昇する。逆に、リラックスしているときや睡眠中は脈拍が落ち着き、血圧も低下する。
これらはそれぞれ自律神経の“交感神経”と“副交感神経”が絶えずバランスをとって働いている
ために起こる現象だ。

 「副交感神経と交感神経の働きが入れ替わるタイミングが、もっとも心臓に負担がかかります。
両者の働きが入れ替わる明け方から午前中にかけて突然死が多く発生するのは、このためです」
(笠貫氏)後藤さんが脳出血を発症したのは朝の6時ごろ。また、佐伯さんの事例も明け方のこと
だった。両者ともまさに“魔の時間帯”だったわけだ。

 「いま思えば、数日前からめまいや肩こりがひどく、たまに吐き気もありました。そのときは大した
ことないと思ったのですが・・・」と後藤さんが振り返るように、少しでも「怪しい」と感じたら、万が一
のことを考え無理をせず安静を保ち、一刻も早く病院へ向かうのが得策だ。

取材・文/筒井健二、オフィス三銃士

突然死

<40代で突然死した著名人>