私は無宗教なのだが、もし妄信することこそが宗教だというならば、唯一それに値するものがある。「崎陽軒」である。
シューマイ、いやシウマイ(崎陽軒ではこう呼ぶ)だけが好きなわけではない。むしろシウマイ自体よりも崎陽軒というブランドが好きなのである。どれだけ高級な中国料理店のシウマイよりも、崎陽軒のそれは遥かに美味しいし、どうしようもなくコスパの悪い「特製シウマイ」(個700円)も、いくら味わっても中途半端な冷凍食品にしか思えない「とうふシウマイ」も、崎陽軒というだけで私は「これでいいのだ」と柏手を打ってしまう。
そんな崎陽軒の最新ヒットが「横濱ピラフ」。「横濱チャーハン」のアレンジモデルで、駅弁としては600円と安価だが、中華料理の枠を超えた、崎陽軒初の洋食メニューである。
中身は「洋」に徹している。横濱チャーハンではチリソース和えだったチキンがホワイトソース仕込みになっているし、何よりも画期的なのは、シウマイが入ってはいるのだが、もはやシウマイではなくなっている部分である。何と「デミグラソース和え」。目を瞑って食べれば、多くの人はミートボールかプチハンバーグと思うはずである。実際に崎陽軒シウマイの特性であるホタテの風味や強い臭気はほぼ消滅しており、よくも悪くもクセがない。よってシウマイフェチには薦められないのだが、他にもパプリカのピクルスなど、洋食であることに遮二無二こだわる姿勢はやたらめったらアツい。
そして何よりこのピラフ自体が美味しい。パイセンであるチャーハン同様、かために炊かれたご飯の一粒一粒に油分が絡み付き、適度なパラパラ感を楽しめる。言うまでもなく、「冷たくても美味しくなかったら死刑」という崎陽軒の鬼の鉄則は死守されている。
一般的にピラフといえば、決め手は「バター感」である。まるでポルトガル人がラッパを持ってくいだおれ太郎の恰好でやって来るような「西洋」という言葉を明確に表現する、あのバターの匂いと味わい。これがガシッと伝わってくるのである。流石、日本を代表する貿易港のある横濱の雄。東洋を超えて西洋に進軍するシウマイ軍団の勢いは止まらない。
ちなみに私は一度、シウマイをマルゲリータパイの上に置いて焼き、食したことがある。
――不味かった。
<写真>
奥に鎮座ましますのが、シウマイのデミグラスソース和え。もはやシウマイでなくなっても「洋食」であることにこだわり抜く亜魂洋才ぶりにリスペクト!
鹿野 淳(しかの・あつし)●雑誌『MUSICA』を発行したり、音小屋って音楽ジャーナリスト学校始めたり、@sikappeでツイートしたり、自分の名前でFacebookもやってます。
(『宝島』2015年6月号より)
シューマイ、いやシウマイ(崎陽軒ではこう呼ぶ)だけが好きなわけではない。むしろシウマイ自体よりも崎陽軒というブランドが好きなのである。どれだけ高級な中国料理店のシウマイよりも、崎陽軒のそれは遥かに美味しいし、どうしようもなくコスパの悪い「特製シウマイ」(個700円)も、いくら味わっても中途半端な冷凍食品にしか思えない「とうふシウマイ」も、崎陽軒というだけで私は「これでいいのだ」と柏手を打ってしまう。
そんな崎陽軒の最新ヒットが「横濱ピラフ」。「横濱チャーハン」のアレンジモデルで、駅弁としては600円と安価だが、中華料理の枠を超えた、崎陽軒初の洋食メニューである。
中身は「洋」に徹している。横濱チャーハンではチリソース和えだったチキンがホワイトソース仕込みになっているし、何よりも画期的なのは、シウマイが入ってはいるのだが、もはやシウマイではなくなっている部分である。何と「デミグラソース和え」。目を瞑って食べれば、多くの人はミートボールかプチハンバーグと思うはずである。実際に崎陽軒シウマイの特性であるホタテの風味や強い臭気はほぼ消滅しており、よくも悪くもクセがない。よってシウマイフェチには薦められないのだが、他にもパプリカのピクルスなど、洋食であることに遮二無二こだわる姿勢はやたらめったらアツい。
そして何よりこのピラフ自体が美味しい。パイセンであるチャーハン同様、かために炊かれたご飯の一粒一粒に油分が絡み付き、適度なパラパラ感を楽しめる。言うまでもなく、「冷たくても美味しくなかったら死刑」という崎陽軒の鬼の鉄則は死守されている。
一般的にピラフといえば、決め手は「バター感」である。まるでポルトガル人がラッパを持ってくいだおれ太郎の恰好でやって来るような「西洋」という言葉を明確に表現する、あのバターの匂いと味わい。これがガシッと伝わってくるのである。流石、日本を代表する貿易港のある横濱の雄。東洋を超えて西洋に進軍するシウマイ軍団の勢いは止まらない。
ちなみに私は一度、シウマイをマルゲリータパイの上に置いて焼き、食したことがある。
――不味かった。
<写真>
奥に鎮座ましますのが、シウマイのデミグラスソース和え。もはやシウマイでなくなっても「洋食」であることにこだわり抜く亜魂洋才ぶりにリスペクト!
鹿野 淳(しかの・あつし)●雑誌『MUSICA』を発行したり、音小屋って音楽ジャーナリスト学校始めたり、@sikappeでツイートしたり、自分の名前でFacebookもやってます。
(『宝島』2015年6月号より)